@2

「っ……はぁ……はぁっ…」


意識が浮上する感覚

重たい瞼をゆっくり開いた

見たことの無い天井

喉を塞いでいた栓が外れた様に肺を空気が満たす

体が、軽い

出血も、痣も、傷跡すらも見当たらない

それどころか……少し、縮んだような…?


「あら?お嬢様、お早いお目覚めですね」


横から聞こえた声に顔を向けた

メイド服の女性

今、この場に他の人物はいない

と、なると彼女が呼ぶ"お嬢様"とは私の事を指すのだろうか


「わた、し………!?」

「お嬢様…?」


傍から見れば奇妙な光景だろう

自らが発した声に自らが動揺しているのだから

小鳥のようなか細い声

自らの耳が捉えたその音は自分のものではなかった

ふと、彼女越しに見えた鏡へと目を向ける

寝癖でぼさぼさの黒髪

少しツリ目気味の瞳

そこに居たのは紛れもなく#私__・__#だ

これは、一体どういうことなのだろうか


「ふふ、お嬢様、今日が約束の日だからって、動揺し過ぎですわ」

「え?……約束の、日?」


混乱した頭

やけに、彼女が告げた約束の日、という言葉がすんなりと脳へ染み込む

私は、その言葉を知っている

いや、知っている、というよりか何度も聞いた覚えがある、の方が正しいだろうか

戸惑う私をくすくすと彼女は笑った

何故、だろう

訪れて、目にしたことも無い風景

話したことのない侍女

少しだけ若返って、目つきの悪くなっている私の体

全てが、初めて見るもの

それなのに、記憶に残る微かな断片は何故、この風景を知っているの?


「えぇ、今日はアイラ様とのお茶会の日。楽しみだ、と昨日も喜ばれていたではないですか」

「…………え?」


『───アイラ様、難しすぎるよぅ』


思考が、追いつかない

死の直前、聞いた彼女の言葉が頭の中で再生される

……嗚呼。

やっと、頭の中で、いくつかに散らばっていた記憶のピースが纏まる

#私__・__#にそっくりな容姿

訪れたわけでも、テレビで見た訳でもないのに、記憶に残った景色

チュートリアルを兼ねた、『お茶会』という最初のイベント

ここは───


       乙女ゲームの世界だ。

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