第17話 好きなおやつ

  十七話 好きなおやつ


「ふんふーん、ふーん」

 適当な鼻歌を交えつつ、美空はチョコ菓子を咥えつつ、瑞葉から借りた携帯ゲーム機でゲームをしていた。

「美空は、チョコ好きだよね」

「うん、好きよ。何で聞いたの?」

「いや、いつも食べてるなって思って」

「そりゃ好きだからよ。そういうアンタだって、紅茶ばっかり飲んでるじゃない」

「うーん、コーヒーも好きだけど……」

「絶対いやにゃん! 苦いにゃん!」

「って人がいるからね。自然と紅茶に落ち着くんだ」

「なるほど」

 携帯ゲーム機に戻る美空。

 瑞葉は、果汁のグミをもにゅもにゅと口に運んでいる。

「瑞葉はグミが多いね」

「そうっすね。ガムかグミっす。ガムは好きっすけど吐き捨てるのがメンドーで」

「なるほど」

 俺も本に戻る。

 ゆっさゆっさゆっさ。

「ねーねーねー! ミーの好物は気にならないのー!?」

「揺するのをやめて……。どうせポテチでしょ」

「そう! しかもフリーゲルスのヤツ!」

 フリーゲルスはメーカーだ。規則正しい形のチップスで、世界的に人気がある。

 メリアはよくキャンディーを噛み砕いてるし。やっぱ女の子ってお菓子が好きなんだな。

「そういう弟君はなんか好きなお菓子ないの?」

「……うーん。ケーキとか?」

「もっとこう、ローコストな奴だにゃん」

「……ゼリーかな」

 あれはどっちかというと、食事だけど。

 昼食は極力栄養を摂ることにしてるけど、ついあのドリンクゼリーで済ませてしまうことがある。

 すきっ腹に入れば何でも美味いとは言うけど、中々癖になるのだ。

「無難だにゃん」

「でも、意外と苦手な人も多いらしいよ?」

「まぁ、それはそうだにゃん」

 クラッシュゼリーのあのじゅるりとしたのが嫌とか、たまに聞く。

 とはいえ、病人食のイメージすらあるし、食べやすいよな。

「でも、ケーキだと何が好きにゃん?」

「ガトーショコラ」

「ベリーのムース系っす」

「チーズケーキにゃん」

「生クリームケーキでいいよ」

「普通! 普通だにゃん! もっと他にないにゃん!?」

「別にいいでしょ……」

 無性にホイップクリームが摂取したい時もあるけど、それ以外にか。

 うーん……。

「……バイキングでアソートとか」

「え、バイキング? 何それ」

「美空、ケーキバイキングを知らないの?」

「え、知りたい知りたい!」

 ぱたん、と折り畳み式のゲームを閉じてまで、目を輝かせてくる。

「一定の金額を支払うと、食べ放題ができるんだ。ケーキと紅茶のね。ちょっとするけど、女子高生もおおいよ。というか女性しかいないよ」

「何で知ってるの?」

「一回、妹に行こうって」

「アンタ妹いたの!?」

「あ、うん。血は繋がってないけど」

「あれは怠惰だにゃん。可愛いけど、輝きが足りないにゃん」

 白姉さんは意外と人を見る目はシビアだ。

「……いいっすね、ケーキバイキング」

 キランと眼光を放った瑞葉。鷹のような目つきだ。しかも獲物を狙う用の。

「どっすか、これからケーキバイキング」

「行きたーい!」

「よっしゃ、行くにゃん!」

「俺は遠慮しとくよ」

「空気読めにゃん!」

「いや、あそこ女子だらけだし! 浮くって、俺は!」

 たまには全力で抵抗せねば。

 あえて空気読まない勇気も必要なのだ。

「じゃあ女装するにゃん? この間の似合ってたし」

「やっぱあんたか……」

「み、みんなノリノリでやってたにゃん!」

「あ、チークまで取り出したの瑞葉だったわよね!」

「口紅に淡いリップを付けたのはミソラ先輩っすよ!?」

「……まぁ、いいけどさ」

 面倒になって、つい承諾してしまう。

 何というか。この相談部についても、甘くなってるよなぁ。俺。

「よーし、それじゃ、ケーキバイキングにいこー!」

「「おー!」」「……おー」



 俺はめいめい集めてきたらしい戦利品をつまみあう面々を見て、呟く。

 復讐の時は、今。

「太るよ」

 さあ、この一言が響け。

「別にいいけど。でも何でか太らないのよね」

「うう、怖いっすけど、恐怖とすれすれで戦いながら食べるケーキも格別っす……!」

「うー……ちょっと怖いにゃん。最近体重計乗ってないし。セーブする……いや、でも明日から頑張ればいいにゃん!」

 結果、あんまり効果なし。

 仕方なく俺は注目を受けつつ、慎ましやかにショートケーキとチョコケーキ、ヨーグルトムースと紅茶を腹に詰め込むのだった。


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