第16話 工藤家の日常
十六話 工藤家の日常
今日は日曜日。
取り立てて何も予定がなく、日課の朝のランニングと勉強を済ませ、朝食を流し込んでから、ネトゲにログインしつつ、ネットサーフィンをしていた。
そうこうしてると昼になり、ダイブから離脱。
下に降りると、眠そうな顔で我が妹が冷蔵庫の中を見ていた。
「……材料だけ」
「おはよう、智絵」
「あ、おにぃ。何か作って?」
「いいよ」
暇だったし。
手早く肉を解凍して、玉ねぎとピーマンと人参をみじん切りにする。
解凍した鶏肉(部位は胸だ)の水気を取り、塩コショウ。手ごろな大きさに切ったら、バターを溶かし、玉ねぎからフライパンへ。透明になったら肉をいれ、あらかた火が通ったら人参とピーマンを入れて炒める。
炊いてあったご飯を入れて、ざっざっと混ぜていく。塩コショウ、醤油とケチャップで味付けをして、別の容器に。
卵二個を使い、同じくバターを敷いたオムレツを作り、その容器の上に乗せる。多く混ぜず、素早く作るのがコツ。
ナイフを入れると、切れ目から半熟卵がこぼれていく。
オムライスを妹――工藤智絵の前に置く。
「はい」
「……おにぃ、ありがと。相変わらず嫁要らず」
「簡単な料理だけだよ。俺はうどんでも食べに行ってくるから」
食器を片付けて、いつもの装備。身分証入れ、財布、携帯。よし。
「おにぃも食べればいいのに」
「俺、自分で作った料理を自分で食べたくないんだ……」
「変なの」
自分でも分からないが、自分で食べるのは嫌というめんどくさい性質なのは直さないといけないよな。
「智絵、彼氏作ったらこういうことしてもらえるかもよ」
「ヤダ。おにぃを超えてないと無理。二次元でいい」
「俺を超えてる人とかゴロゴロいそうな気がするけどね」
「そんな世界はあたしがやだ。というか、おにぃラブだから。結婚しよ?」
「一応肉親でも結婚はできるようにはなったけどね。智絵は元はいいんだから、もっと磨けば女性として見てあげる」
「……考えとく」
相変わらず謎な妹だった。
俺が好きというけれど、本気なのだろうか。
……工藤と名乗っているけれど、俺の本性は貰い子。実は、誰とも血が繋がっていない。
けれども、そんな俺を息子扱いしてくれる父さんや母さんのためにも、良い息子を演じなければいけない。
妹も可愛いんだけど。
まぁ、いいか。ずぼらでミステリアス。それが彼女だった。
「あれ、珍しいところで会うね」
「なっ!?」
メリアと漫画売り場で出会った。
智絵に頼まれた少女漫画を買いに来たのだ。しかもBL物。兄貴に買わせるな、とは思うけれど、つい甘やかしてしまう。
「メリアも少女漫画?」
「いや、これは、違うぞ! おれは、こんな女々しい本はだな……!」
「十七巻か。これは、主人公の相田がね」
「わー、わー! ネタバレやめろ!」
「読んでるんじゃないか」
「い、いじめんなよ……!」
「ごめん。でも、恥ずかしがることはないと思うけどな」
言いつつ、BLの本を手に取る。これだな。『俺の二の腕で眠れ』十九巻。
「……シィ。お前、ゲイだったのか?」
「ノー、だよ。俺の妹の趣味なんだ」
「そう言いつつ、読んでるんだろ!」
「生憎と読んでないんだ」
会計を済ませて、微笑みかける。
「どこかでお茶でもする?」
「あ、まだ昼食ってないんだ」
「じゃあ、一緒に行こうか。俺もなんだ。ラーメンは好きかい?」
「お、好きだ。エスコート頼むぜ、シィ」
「任されました」
いつもの昇竜恩來にやってきて、ラーメンを頼む。
「……! うめえ」
「だよね」
無言で麺を啜りあう。
メリアといて楽なのは、気をあまり使わなくていいところだ。
あまり気を使うと、「気を使い過ぎだ」と苦笑しながらバシバシ叩かれる。
替え玉をお互いに一回ずつ頼み、満腹になったお腹をさする。
「シィはいい場所しってんなぁ」
「まぁ、ここにすんでから長いからね」
らっしゃっせー、と元気な声が飛ぶ。
「あら?」
美空だ。女の子一人でこの店に入ってくるとか、結構豪胆だな。
隣に腰掛けてくる。
「メリアもやっほ」
「ハロー、美空。やっぱシィから教わったのか、ここ」
「そうよ。……ラーメン! 麺硬め!」
慣れた様子でそう頼み、素早く出てきたラーメンを美味しそうに食べる。
「うん、美味しい! 二人は何してたの?」
「本屋であってね。一緒にご飯でもどうって」
「ふーん。ねえ、この後、カラオケっていうのに行ってみようとおもうんだけど、二人も来ない?」
「え!? 俺達が行かないと美空、君は一人でカラオケに行こうとしていたのか!?」
「え、ダメなの?」
「……わかった、行くよ」
一人カラオケか。
日曜の夜の一人焼き肉よりもハードルは低いけど、なかなかやらないよな。
いや、楽器とかを持ち込んで練習とか、むしろ一人カラオケしかしないとかはよくあるらしいけど、一般的じゃないな。
にしてもカラオケか。
久々だな。
「……ふっふっふっ、音楽はよく聞いてたわ」
そういう美空の歌は、かなりハイレベルだった。
感情を乗せて、そのまま、歌をコピーしている感じ。
ビブラートも何もかもを完コピしている。声質もなんか変わってるし。
97点をたたき出し、非常に俺達がやりにくくなる。
「んじゃおれだな」
「お手並み拝見ね」
「……」
メリアが好きなのは海外の曲。俺達でも分かるような曲を歌ってくれている。
しかし歌唱力は普通。普通に聞けるレベルだ。
「81か。イマイチ伸びないんだよなー」
「でも聞いてて楽しいわ!」
「そ、そうか?」
「……」
やりにくい。
マイクを手に取り、歌っていく。
「なっ!?」
「うお……!?」
何か驚いているが、歌に集中していく。
……。
歌い終え、画面を見る。
「お」
98か。
「……」
「どうしたんだ、美空、メリア」
「何よアンタ、すっごく上手じゃない! どうなってるの!?」
「お前歌も上手いとか嫌味かよ」
「えー……」
嫌味なのか、これ。
「よーし、負けないわよ!」
「よっしゃ、点数で一番びりのヤツ奢りな!」
「負けないわ!」
「……うん、頑張るよ」
結局、メリアが負けて、悔しそうに金額を払っていた。
家に帰ると、テレビをながら見しつつスマホを弄っている妹に遭遇する。
「ただいま、智絵。晩御飯は食べた?」
「まだ」
「じゃあ、カレーでも作るよ」
「うん。鶏カレーがいい」
「え、また鶏かい? まぁ、俺は構わないけど」
「うん。おにぃのカレー、好き。おにぃも好き」
「はいはい、ありがとう」
下拵えをパパッと済ませる。
「あ、帰ってきたかな」
「一家団欒」
その日は、何事もなく、夜を迎え、そして次の朝を迎えた。
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