第14話 相談部と夏
十四話 相談部と夏
七月に入って、夏もいよいよ本番。
衣替えの季節も終わり、夏服一色になる。
そういえば、冬服は基本的に黒のブレザーに学年に応じた色のチェックスカート。今年は、赤が三年生、青が二年生、緑が一年生で、ローテーションする。夏用の男子のスラックスは黒だが、ネクタイにその形式は反映されている。
とはいえ、スカートじゃなくてズボンもありだし、色々自由な風紀なのだ。制服っぽいものを着用しておけばいいのだから。
しかし夏服は違う。
女子の制服はワンピースに襟などがついたガーリッシュなデザインになっていて、胸のリボンで学年を識別。
男子の制服はブレザーを取ってネクタイ着用くらいなのに対して、かなり力が入っている。
美空もその制服を着ているが、やっぱり帽子とマントは外せないらしい。
瑞葉も半袖のキャラクターパーカーを上からきている。露出が気になるようだ。
白姉さんは……相変わらずの猫耳姿だ。
俺はと言えば、面白くもなく白いシャツに青のネクタイ。
で、清楚な雰囲気だけど露出がそこそこあるその制服が似合っているのが、相談に来た彼女。
「縁日の手伝い、だよね」
「う、うん。工藤君は毎年来てくれるけど……今年は集まりが悪くて……」
藤代美代子。同じクラスだ。
黒髪ロングで大人しい女の子。俺との関係は、少し親しい知り合い程度。
実家が地元では大きな神社で、縁日を取り仕切っている。
学生ボランティアを友人に声掛けているそうなのだが、今年はみんな忙しいらしい。
高校二年生でやるヤツはあんまりこの学園にはいなさそうだしな。みんなこの時期には進路を固めて、早いヤツは受験モードだし。
「縁日って、あの焼きそばとかフランクフルトとか食べれるヤツ?」
「あはは、そんな認識ですよね。うちの神様の降誕を祝って行うんですが……露店も、ええ。確かに多く出ます。ここでいうお祭りは、うちのお祭りですよ」
「屋台の設置なんかを手伝うんだよ。女子は社務所の方かな?」
「ええ。女性が多く在籍されているのを聞いたものですから、ダメもとで……。あ、工藤君は今年はどうでしょう?」
「藤代さんが良ければ、行かせてもらうよ」
「ありがとうございます!」
「えっと、仕事とか知らないけど、いいの?」
「ええ! お教えしますので、どうでしょう? ちょっとしたバイト代も出ますので」
「バイト! バイトってしたことないのよね、やりたい!」
「そうっすねー……。いくらっすか?」
藤代さんが片手を開き、金額を示す。
「うん、いいっすよ。欲しい漫画があるんっすよ」
「ねえねえ、それって巫女さんの服着れるにゃん?」
「あ、はい。用意しますので……」
「いくにゃーん!」
「おおお……! これが工藤君効果なんですね!」
「違うと思うけどね。いいかい、美空、瑞葉、白姉さん。俺はフォローできないから……」
「任せなさい!」
「……その自信はどこからくるんだい……」
凄まじく不安だけど、なるようになるしかない。
で、週末。
太鼓や神事を見に。いや、家族連れは露店や屋台がメインだろう。何にせよ、賑わいを見せていた。
いつもは静かな神社だが、この日は少し慌ただしく、活気がある。
俺は、といえば。
「いらっしゃいませー! ……はい、美味しい焼きそば二丁! はい、どうもいらっしゃーい!」
「……わ、悪いなぁ」
「気にしないでください。お手伝いで来てるんですから」
腰をやったおっちゃんの代わりに、焼きそばを焼いて売る。
いろんな場所を回っており、おっちゃんの屋台は毎年来ていたので何となく味は覚えている。誤差はあるだろうけど。
あっという間に、焼きそばがはけていく。さすがは鉄板メニューだ。
「あい、らっしゃーい! イケメンの兄ちゃんが焼く焼きそばはどうだーい!」
おっちゃんも声を出して声援をくれるけど、恥ずかしい。
「あ、工藤君だー!」
「今年も手伝ってるんだね!」
「やぁ。お祭りは好きだからね」
「でもやろうとは思わないけどね。焼きそば二個ちょうだい!」
「はい、少々お待ちを。……ちょっとだけ、盛ってあげる」
「え、いいの!? ありがとー!」
手早く少し多めに盛って手渡す。
「熱いから気を付けてね。また学校で。毎度」
「工藤君も頑張ってねー!」
「うん。……はいよー、いらっしゃいませー! 焼きそばがいい具合だよー! まぁいつもいい具合だけどねぇ!」
他の露店の兄ちゃんたちが笑う中、ニコニコしながら焼きそばを焼き続けるのだった。
在庫が全て終わったため、焼きそばは終わり。
大量に用意してあったのに、いつの間にか消えていた。
「サンキュー、工藤の兄ちゃん。これ、お駄賃」
「神社からも出るので、いいですよ」
「いやいや、もらっておきな」
「……じゃあ、いただきます」
三千円を押し付けられ、受け取る。まぁ、これ原価を考えるとすさまじい利益効率だしな。
「俺は神社の方に一回戻ります。何かあったら、また呼んでください」
「おう、わりーな! また頼むぜ!」
椅子に座ったままの、おっちゃんと離れる。
タオルで汗を拭きつつ、神社のロッカーに戻る。制汗剤を適当に吹き付け、社務所の方に戻った。
ここでの売りは手渡しおみくじ。二百円。
藤代さんをはじめとする美人さんがそろって手渡しを行うので、ちょっとした名物だ。
「はい、どーぞ!」
お、やってるな。
「どーぞでーす」
「どうぞにゃん。当たるも八卦当たらぬも八卦」
「こら、白姉さん。余計な事言わない」
「あ、しおんちゃんさぼってる!」
「次の指示を聞きに来たんだよ。頑張ってね。……三人とも、巫女服、似合ってるよ」
何というか、余所行きの声で(美空を除く)接客しているので、知らない女の子と出会ったようだ。
「藤代さん、腰を痛めたおっちゃんの手伝い、終わったよ」
「まだ七時ですよ?」
「在庫がはけたんだ」
「……今確認します。……はい、藤代です。はい、もう完売したそうで……え、本当だったんですか!? は、はい、はい……わかりました」
信じられないと言った顔の彼女に、微笑み返す。
「嘘はつかないよ」
「いえ、おじさんが嘘を吐いている可能性もありますから。本当に完売……じゃあ、今すぐこっちで女性におみくじを渡してください」
「俺なんかでいいの?」
「工藤君は恐らく適任です。ささ、こちらの服に……」
神社の袴姿に着替えて、おみくじを渡す作業に入る。
えっと、なんだっけか。
「幸がありますように」
そう微笑んで渡してみる。
「そう、そんな感じ」
神社のイケメン筆頭、藤代さんのお父さんがサムズアップ。これでいいのか。
時刻は九時を過ぎ、おおよそ店も店じまいしている。
神事を終え、打ち上げをしている中に俺達はいた。
とはいえ、巫女さん同士でジュースやお酒を飲んでいて、俺は屋台組みなどを手伝っていたので男性陣と焼き鳥をつまんでいた。
「いやー、完売しちまったぜ。来年、工藤の坊主が来るなら多めに仕入れとかないとな」
「あはは。来年は俺、受験生なので。どうするかは分かんないですけど」
「お、真面目だねぇ」
「いや、でも言うことちゃんと聞いてくれて笑顔だし、こっち系向いてるじゃん」
「おめえはもうちっと真面目になりな」
「うっせ! 美代子ちゃーん、お酌してくれー!」
「ふふっ、一杯だけですよ?」
「やりいー!」
藤代さんもほっとした顔でビールを注いで回っている。
「工藤君も、何か飲みます?」
「あー……じゃあ、コーラ」
「うん、待っててね」
ニコニコと去っていく彼女。
ドスッとわき腹をつかれた。いてえ。
「おいおい、良い感じじゃね? もう美代子ちゃんとくっついちゃえよ!」
「いえ、いい子なので俺とは釣り合いませんよ」
「とか言っちゃってー! ほれほれ、こないだダウンロードした動画を思い出せよ!」
「肌がきれいな感じでしたね」
「おっ。意外と好き? 下の話」
「男ですから」
「こーら、工藤君も乗らないの! どうぞ、コーラです」
「ありがとう。まぁ、男が集まると、趣味の話か遊びの話か女性の話、それとメシの話くらいしかすることがないよ」
「そーいうこった! なぁ!」
宴会は十一時近くまで行われ、俺は美空、瑞葉、白姉さんをそれぞれ家族と合流するまで送り届けた。
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