第11話 テスト勉強

  十一話 テスト勉強


「なあ、相棒」

「どした、メリア」

「……勉強、分かんない。おれ、どうしよう……」

「……教えてあげるから、放課後相談室ね」

「すまん……」

 まぁ、授業中寝てたらそうなるわな。

 赤点を取らない程度のアベレージが要るのか。学習スピードが分からないから、要点だけ教えるかな。



「こんにちはー」

「お、お邪魔します」

「あ、紫苑。やっほー」

「ちわっす、シオン先輩」

「んー」

 相談室には、いつものメンツ。

 珍しいことに、白姉さんもノートに向かっていた。

「あれ、白姉さんは何してるの?」

「んー? プログラミングをアナログで残しておこうかなって。めんどくさいにゃん……」

「にゃん?」

「気にしないで、姉さんの口癖だから」

「ユニークな姉さんがいるんだな、シィ」

「むむ、美少女の香り!」

「香りでわかるの!?」

「ややフローラル」

 いや、何言ってんのかわかんないけど。

 メリアをロックオンした姉さんは、一瞬で、彼女のたわわな胸を揉みしだく。

「のわぁあああああ!? な、何だこいつ! へい、シィ!?」

「うわー、可愛くてこのバストは半端じゃないにゃん! 隠れきょぬーのみずはすちゃんもいいけど……こっちはハリと弾力が……」

「こら、テメェ、離れろ……うわ、力つええ!」

「おおう、バスト八十九にゃん! おっきいにゃーん!」

「や、やめろ! やめろよぅ!」

「こら、そろそろダメだ」

 白衣の襟をつかんで引きはがす。

「えー、もうちょっとぼいんぼいんを堪能したいにゃん」

「……みんな疲れてるだろうから、差し入れにシュークリーム持ってきてたんだけど、いらないか、姉さん」

「うそ、やめますやめます。食べたいにゃん!」

「はいはい。紅茶を入れるから、メリアも座って」

「……おう」

 半泣きになっているメリアが座り、勉強道具を取り出す。ああ、しっかりやる気はあるのか。

 紅茶を入れ終え、不格好なシュークリームを手渡す。

「ごめんね、ちょいとふくらみが足りなかった」

「って、シィ。お前が作ったのか?」

「まぁね。簡単なレシピがあったから、その通りに焼くとできるのか気になって」

「わーい、頂きまーす!」

 美空は早速かぶりついていた。クリームが頬につく。

「おいしい! やるわね、紫苑!」

「あはは、こら。動かないで」

「ん……」

「はい、とれた」

 こぼれたクリームを見せたら、その指を美空が咥えた。

「ん、美味しい!」

「……」

 完全に不意打ちされて、一瞬動けなかった。

「え、え? アタシ、なんか変なことした?」

「いや、普通はしないけど……ごめん、びっくりしただけ」

 笑い返し、紅茶を飲む。 

 あー、びっくりした。

 それにしても、口のなかって意外に温かいんだな。

「……」

「どうしたの、メリア」

「お前さ、名前何?」

「片桐美空だけど」

「片桐。お前、シィの恋人なのか?」

「シィって紫苑の事? それなら違うわ。アタシ達はダチ公なのよ!」

 まだ言ってるよ。というか覚えてたんだな。

「だ、ダチコウ……ってなんだ?」

「親友を超えた、相棒的な存在よ!」

 ダチ公ってそういう意味だったのか。ニュアンス的には分かるけど、初めて知った。

「シィはおれの相棒だ!」

「アタシのよ!」

 ……え、何これ。何でこんなしょうもないことで争いが勃発してるんだ?

「誰のでもいいでしょ、そんなの。ほら、勉強に……」

「よくないわ!」「良くねえよ!」

 おおう。

 何でそんなにエネルギーが有り余ってるんだ。シュークリームのせいなのか?

「いや、美空。俺達は確かに友達より親しいけど……」

「けど、何?」

「……俺、そういえば君のことをあんまり知らない」

「! そういえば、アタシもあんたのことあんま知らない!」

 いや、私生活とか完全に謎だし。

 その点、メリアは一緒に行動をしているし、世間話やお互いの簡単なプロフィールくらいは把握している。

 メリア・国城。身長百五十七センチ。家族構成は、父、母、妹。趣味は音楽鑑賞と映画鑑賞。お気に入りはガンアクション映画。好きな食べ物は日本風カレーとイチゴパフェ。

「ふふん、おれは結構シィについて詳しいぞ」

「へえ」

「身長百七十五センチ、体重が五十七キロ。趣味は自分磨き。好物はうどんとラーメン」

「むっ……! それくらいアタシも知ってるし!」

「じゃあ、休日にデートしたことはあるか? おれはあるぜ?」

「それは一回だけだったね。しかも、あれは自分からデートじゃないからなって言ってなかった?」

「こ、こら、余計な事言うな、シィ!」

「……ふーん」

 不機嫌そうに勉強に戻っていった美空。けれど、すぐに集中して、真顔で問題を解き始める。

 切り替えが早すぎるわ。

「お、おい……」

「俺達も勉強しよう。どの辺が分からないの?」

「……全部」

「オーケー、出そうなところをピックアップするから」

 まっさらなノートを取り出す彼女に、手製のノートを渡す。

「え、何だよこれ」

「まずはこのノートを埋めてからだね。全科目のロジックとか漢字とか文法などが乗ってるから」

「これ、わざわざ作ってたのか!?」

「期末前に一回だけこれをやって最終確認しようと思ってたやつだよ。コピーを取ったから、原本はメリアにあげる。教科書を見ればわかるはずだから」

「……わ、悪いな」

「気にしないで」

 俺はとりあえず、コピーを取ったのを埋めていく。

「……うわ、マジだ。すっげえやりやすい」

「ならよかった」

「ねえ、紫苑。この人の気持ちが分からないんだけど」

「……ここはね、フラれたけど愛は残っているから幸せを願っているって意味の文で……」

「あ、なるほど。つながったわ」

「うん。俺はちょっと寝るから。暗くなりかけたら起こしてほしいな、美空」

「いいわよ」

「じゃあ……。……」

 今日は睡眠が足りない。

 万全の準備がないと不安な俺は、期末前に少し多めに勉強する。

 それが祟って、今日は眠くて仕方がなかった。

 机の上に鞄、それから頭を乗せ、意識を沈ませていく。

「……」

 ん?

 頭を軽くたたかれる。

「美空?」

「ん」

 ポンポンと太ももを叩く美空。

「何?」

「膝枕。してもらったことないの?」

「いや、恥ずかしいよ……」

「ダチ公なんだから遠慮しなくていいの! ほら」

 ダチ公はこんなことはしないけど。

 強引に、俺の頭を持っていく彼女。

 ……あ、柔らかい。

 それに、何だか……甘い匂いがして、落ち着く。

 ぐわっと眠気が押し寄せてきて、俺は――不覚にも、女の子の膝の上で眠ってしまった。



「あ、寝ちゃった。ホントに眠かったのね」

「……寝顔までイケメンかよ。さすがだぜ、相棒」

「へー、シオン先輩でも寝るんっすね」

「そりゃ生き物だから寝るでしょ」

「……よかったね、しおんちゃん。隙を見せれる人達ができて」

「うわ、凄くお姉さんみたいね、白雪先輩」

「しっつれいな。いつも完璧なお姉さんだにゃん!」

「……んん」

「あ、ほら、しー。静かに」

「だな」「うっす」「にゃん」

「……でも、肌とかきめ細かいわ」

「化粧のノリ、良さそうっすね」

「ホントに男なのかこいつ」

「あ、男だにゃん」

「どこ掴んでんだどこを!?」

「股間だにゃん」

「……化粧道具とか持ってる? アタシ、家にしかない」

「持ってるにゃん」「一応な」

「……やっちゃう?」

「やるにゃーん!」



「……あれ?」

 暗い。

 起き上がると、椅子の上らしいことが発覚した。パイプ椅子を繋げた簡易ベッドに寝かされていた。

「……ん?」

 机の上に百三十円が置かれてある。メモ紙も。

『ジュースでも飲んでゆっくり寝なさい。後、ごめん』

 ……ごめんってなんだ?

 とりあえず受け取り、ため息を吐いた。

 電気をつける。

 しばらくボーっとしてたら、扉が開いた。

「あれ? お前のこってたの……って、誰だお前!?」

「え? いや、紗耶香さん。俺ですよ」

「……え? ってことは、お前、紫苑か!?」

「もしかしなくても紫苑ですが」

「……ほらよ、鏡」

「? ……あっ!」

 そこには、ショートボブのナチュラルメイクを決めた女の子がいた。

 やりやがったなあいつら。せめて額に肉くらいにしとけ。

「……クレンジング、母さんの借りないと……」

「それで帰るつもりか、お前」

「仕方ないでしょう……」

「うちに来い。メイク落としならあるから」

「すみません……」

 紗耶香さんの家で、メイクを落とし、俺は家路につくことができた。

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