第10話 耐性

  十話 耐性


「……なんだって?」

 あまりにも聞いたことが信じられなくて、思わず聞き返してしまう。

「イケメンに、耐性をつけたいらしいっす」

 なんだそれは。

 相談者はメッチャ髪が長くてもさもさしている女の子。

 一年生。名前は、安藤御幸。瑞葉の友達らしい。

「あの……わたし、美少女なんです」

 何だこいつ。

 髪を掻き上げると、確かにそこには、整った顔の女の子がいた。

「わ、可愛い!」

「ねー。顔イケてるっす。何でそんな頭なんすか?」

「……ど、どうも男性恐怖症気味というか……で、この頭にしたところ、誰も寄ってこなくなったので……」

「でも、男性は怖いから、何とかしてほしいって事っすね」

「うん、本願寺さん」

「簡単よ!」

「……嫌な予感がするけど、何だい、美空」

「触れ合えばいいのよ! アタシも昔、犬が怖かったけど、触ったら怖くなかったわ!」

「ふ、ふれあ……!?」

 顔を真っ赤にする安藤さん。

 美空の理論は思いっきり力づく。けどシンプルゆえに真っ当でもあった。

 習うより慣れよ。

「瑞葉は何かないの?」

「ギャルゲーするとか」

「あ、二次元はコンプしてます」

「という具合で、自分は役立てそうにないっす」

「白姉さんは?」

「一発やっちゃえば……ふぎゅっ!? じょ、冗談です、お姉ちゃんもまだ乙女だにゃん。見栄を張ったにゃん……」

 とんでもないことを発言しそうになった姉を押さえつける。いや、半分ほど出てたけど。

「や、やっちゃうって……!?」

「ふおおお、過激っす……!?」

「?」

 ……やっぱり美空だけが分かってないみたいだけど。

 結局は、触れ合うしかないのか。

「はぁ。じゃあイケメン呼んでみるよ」

「そこにいるじゃないっすか」

「……俺?」

「て、適任です」

 ……まぁ、俺でいいなら別にいいけど。

「近づけばいいの?」

「プラス、口説けばいいんじゃないっすか?」

「……あんまり期待はしないでね。こういうの、やったことないんだ」

「は、はい」

 スッと隣に座る。

「え!? えええ!?」

「? どうしたの?」

「な、何で近くに座るんですか?」

「君を、近くで見ていたいから」

「!?」

「隠れている顔も可愛いけど、そうやって反応してくれる君が、俺は大好きなんだ」

「あ、あ、あ……!?」

「何だか、照れ臭いね。でも、君が相手だと……それも悪くないって思っちゃうよ。……君は、魅力的だ」

「……きゅ~……」

 ごちん! と顔面から机にダイブした。煙が出ている。

「オーバーヒートっすね。いや、シオン先輩、加減加減」

「口説きとしては杜撰だったと思うけどね。まぁ、これでいいならいいけど」

「バッチリっすよ。んじゃ、復活したら、テイク2おねしゃっす」

「……何でかしら。ちょっとムッと来るわね」

「ん? 美空、何か言った?」

「ん、何でもないわ」



 色々な必殺技を白姉さんと瑞葉から教わる。

 髪形などを変えつつ、攻め続ける。

 オールバックバージョン。

「いや、あの、ち、近すぎると言いますか」

「黙れよ」

 ドン、と壁を攻撃。急接近して、顎をくいっと持ち上げる。

「それとも、唇でふさいで黙らせてほしいって、おねだりか?」

「……きゅ~……」



 メガネ正統派バージョン。

「君はそうやってすぐに気絶する。俺には理解できない」

「は、はい、ごめんなさい……」

「でも……俺に理解できないなんて問題はないんだ」

「え!?」

「君という答えを……今すぐ、この唇で解き合わせてやる」

「……きゅ~……」



 跳ね髪のちょっとショタっぽいバージョン。

「い、いや、だから、近いというか……!? ほ、ほら、他の人、見てますから!」

「……だから何?」

「え!? い、いや、その……恥ずかしいと言いますか……」

「俺は、君といられれば、何でもいい。……だって、好きなんだ。君のこと」

「!?」

「嫌……?」

「……きゅ~……」



 そして、しばらくして。

「お、今回は気絶しなかった!」

「や、やりました! なんか、怖さもなくなってきました!」

「ええええ……」

 あんなんで効果あるのかよ。

 手櫛で適当に髪を戻し、微笑んでみる。

「お役に立てたようで、何よりだよ」

「ホント、凄かったです! でも、少しは男性恐怖症、マシになったと思います! ほら! こうして隣にいても、大丈夫になりましたし!」

 嬉しそうに隣に座って笑う安藤さん。

 うん、何よりだ。

「甘いわね!」

 ぽすっと俺の上に座ってきたのは、美空だった。

 いや、柔らかい体が乗っかって、俺としては危険な状態だ。動かない方がいい。

「これができるまで、今日は帰さないわよ!」

「むむむ、無理です! そんな、学園一のイケメンの工藤先輩の膝の上に……!?」

「え、俺が学園一位じゃないでしょ? 三年に、めっちゃモテてる藤堂豪って人が……」

「あの人は荒々しいイケメン。で、工藤先輩は正統派イケメンです」

「そ、そうだったのか……」

 知らなかった。

 学園一位までは狙ってなかったけど、そんな立ち位置なのか、俺。

「……」

「? どうしたの、美空」

「な、な、何か、は、恥ずかしいような気が……」

「そう? なんか可愛いな、美空がここにいると」

 帽子を取って思わず撫でてしまう。

「なっ、ちょ……」

 文句を言いたそうだったけど、彼女は真っ赤な顔でうつむくのだった。

 というか別のことで平静を保ってないと……何やらよからぬことを考えてしまいそうだったし。

「? 今、アタシ、身の危険を感じたような……」

「気のせいだよ、多分」

「そ。ならいいわ」

 だからその無駄な男らしさは何なんだ。

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