第4話 危険物

  四章 危険物


「お前らー、差し入れ持ってきてやったぞー」

 相談部は名が知れていないのか、放課後集まっては暇な日々を過ごしていた。

 とはいえ、いつも通り。白姉さんも何かの開発に掛かりきりらしく、室内で猛烈な勢いでキーボードをたたいているくらいで、室内は静かなものだ。相棒は化け物スペックのノートPC。

 美空と瑞葉の宿題の面倒を見ていると、矢車先生がやってきた。

「ほれ、食え」

 高級そうな装丁。強引に破くのは少し躊躇われる。

「何よこれ」

 バリバリとそれを破く美空。なんて男前なんだお前。

 すると、瓶を模した銀紙に包まれている――チョコレート。

「?」

「ウィスキーボンボンだよ、知らない?」

「知らないわ。どういう食べ物なの?」

 知らないことが多いんだな。まぁいいけど。

「これの中にお酒が入ってるんだ」

「え、いいのそれ」

「分類上はお菓子だから問題ないよ。度数は……」

 5か。ウィスキーボンボンにしては、強めだな。普通3くらいだし。

「まぁ、問題ないと思うよ。俺達は車にも乗らないし、お菓子だからね」

「たっけーやつだぞ。猫葉の家から、なんかお詫びってことでもらってきたんだよ。てか押し付けられた」

「呼んだ? あ! ウィスキーボンボンじゃーん! お姉ちゃんこれ好きなんだよねー!」

「お菓子は正義。頂くっす」

「それじゃアタシも」

「あたしも食うかな」

 全員がむしゃぶりつく中、俺はため息を吐いて読書に戻る。

 甘いものが好きなのは、誰もがそうなんだな。

「……」

「……?」

 無言なので、少し気になって彼女たちの方を向くと、うつむいたままの全員がいた。その光景にビビる。

「ど、どうしたんだ?」

「……」

「お、おい。美空」

「ひっく」

「……え?」

「うぃっく。ひーぃっく……! うぇへへへへ……!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……生きててごめんなさい……」

「くかー……」

「い、いたた、頭いたたたた……」

 …………。



 ああ、確かそんなことがあったなぁ。

「……ふぃー」

「落ち着いた?」

 あの後、頭痛が酷かった美空に付き添って、コンビニで酔い覚ましなどを買った。

 とりあえず、それらを飲ませて、公園で落ち着く。

「……ありがとね」

「別にいいよ、友達だし」

「そうじゃないの。……中間テストも、上位百人に入れたし、先生からもお母さんも褒めてくれたんだぁ」

「良かったじゃないか」

「うん。だからね、その……お、お母さんが、アンタに会いたがってるんだけど、どう?」

「……うん?」



 連れてこられてしまった。

 洋館とも呼べる家。裏口入学がいける家だからまた凄いのだろうと思ってたけど、マジで凄い家だ。

 堂々と鍵を使って中に入る美空。それに続いて、俺も入る。

「ただいまー!」

「お、おじゃましまーす……」

「……んっ? 美空? お? おおおお?」

 やたら背の高いイケメンが俺を見てニヤニヤし始める。

「えっと、美空さんのお兄さん、ですか?」

「嬉しいこと言ってくれるなこいつ。親父だよ」

「ええええ!?」

 二十代前半にしか見えないんだけど。

「騒がしいな、どうした? ……ほう」

 また出てきた女の子も……多分……。

「えっと、美空の妹さん、じゃないですよね」

「母だが」

「あ、はい、すみません……」

 見えねえ! 何だこの夫婦!

「お母さん、お父さん! 彼は工藤紫苑! 勉強とか色んな事を教えてくれる、友達!」

「おい、色んな事ってどうなんだよ。もうあれ? 恋人なわけ?」

「いえ、あくまで友達で……」

「そうよ。ダチ公よ!」

「男らしいな、オイ……」

 お父さんらしい男が苦笑していた。

「紫苑、君かな?」

「あ、はい。工藤紫苑です。自己紹介が遅れまして、申し訳ありません」

「よい。娘の成績のことと言い、友達のことと言い……最近娘が楽しそうだ。礼を言う」

「いえ、そんな……」

 苦笑してはいるけれど……小さくて可愛いんだけど、お母さんの重圧というか雰囲気が半端じゃない。

 プレッシャーというか、何というか。威圧的なものを感じる。

「この通り、二人に似つかずパープリンな頭しかないが、どうか可愛がってほしい。同時に、君も彼女を頼るといい」

「え?」

「君は……どこか、脆さを感じる。だが、信用に値する人間だ。恋人関係も許可を得なくていい。好きあっているのなら、くっつくのが一番だ」

「そーゆーこった」

「うーん、恋愛感情としての好きかぁ。今ひとつわかんないのよねぇ」

「今はそれでもよい。が、紫苑君。君は大人のようだ。一つ、このバカ娘が間違った方向に向かわないかどうか、見守ってやってほしい」

「おう。……メシ、食ってけ。丁度ステーキだったんだよ」

「え、いや、俺は……」

「相変わらず空気読めないわね、紫苑」

「……そんなに、俺は読めてないかな」

「ふつうご馳走になるでしょ」

「……うーむ」

「ふふっ、相性がいいらしいな」

 何故か、お母さんに苦笑され、お父さんには頷かれるし。

 結局断れずに、ステーキをご馳走になった。最近、肉ばっか食ってるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る