第2話 後輩

  二話 後輩


 中間試験も終わり、しばらくして、二人目の相談が来た。

「……で、不登校ですか」

「ああ」

 矢車先生が重々しく頷く。

 相談部は俺の一存で人数を増やしてもいいらしい。そのことも改めて伝えてくれた。

 で、次の相談者である本願寺瑞葉の母親と面会することになる。

 美空には席を外させている。不登校の生徒に彼女のようなエネルギッシュな人間は向かないだろうと判断したからだ。

「あの子、いつの間にか仮想現実にのめり込むようになって……」

「仮想現実、というと……ダイブ系ゲームですかね」

「そうなんです」

 技術の進歩とともに進化したもの。それは娯楽。

 その中の一つである、ダイブ系ゲーム。

 俺でも知っているし、実際にプレイもしている娯楽で、オンラインゲームの分野で成長目覚ましい。

 精神をサーバーに潜り込ませて、実際に五感を使って体感する遊び。

 いや、現実通貨に変換する電子マネーも出てきているし、仕事を実際にそれでこなす人間もいる。プロゲーマーと呼ばれる人間達。

 まぁ、それは置いておき。

「それは現実に興味が持てないから、では?」

「や、やっぱり、そうなんでしょうか」

「とりあえず会ってみましょうか」

「ええ。でも、あの子、打ち解けないから……」



 物は試し。 

 とりあえず部屋をノック。

 ニョキっと開いたドアの隙間からこちらを覗いてくる。

「こんにちは。先輩の工藤紫苑です」

「……」

「何?」

「工藤紫苑。学園の裏掲示板でも悪いことを全く書かれない有名人。何でここに?」

「俺、相談部なんだ」

「母親か、相談主」

「うん、まぁ、その通り」

「下手にぼかさないところは好感度高い。で、何?」

「学校、行かない?」

「行かない。ゲーム忙しい」

「何のゲームやってるの? 俺も今、オンラインゲームやってるから」

「何? FPS? MMO?」

「MMO。『アークエンジェルスオンライン』」

「……鯖は?」

 サーバーのことだ。要するに、サーバーごとに世界があり、このゲームでは、世界を移動するには現実のお金で専用通貨を買わないといけない。

「八だよ」

「お。一緒。チームは入ってる?」

「『錦の剣』のメンバーです」

「!? ……あ、IDネームは?」

「シオンだけど。カタカナで『シオン』」

「ちょ、お前かよ! いや、先輩だったんっすか!?」

「あれ? ということは、団員の誰か?」

「自分、パニエっす。IDネーム、パニエ」

「ああ、なるほど。だから昼夜問わずいたんだね」

「あ、うお、り、リアルで会えるなんて嬉しいっス。う、嘘じゃないっすよね」

「はろろーん」

「本物だぁぁぁっ!? つーかイケボ!」

 ……何というか。世界は狭いというか。

 意外な接点だな。



「いやー……その、自分、引きこもりじゃないっすか」

「だねぇ」

「その……今更、行きにくいというか。というか、テストには出席したっすよ」

「成績は問題ないけど、出席日数がね……。困るでしょ? せっかく入ったのに」

「う……まぁ、確かに」

「それに、俺も放課後は相談部ってところにいるから。文化部棟の一階にあるんだけど。お昼とかも、誘ってくれれば一緒に食べれるし」

「おお……。ぼ、ボッチにはならないっすかね」

「それはパニエの心がけ次第だね」

「……」

「ん?」

「シオン、全然中と変わらないっすね。教えるところは教えるけど、甘くはない」

「甘さとやさしさは違うからね。パニエが変わろうとしない限り、そのままだと思う。でも、放課後は一緒に過ごせると思うし。どうかな」

「んー……まぁ、シオンがそういうなら……」

 そのやり取りを聞いていた母親が泣いていた。

「い、イケメンだったのね……! 瑞葉に足りないのは、イケメンだったのねぇぇぇ!」

「や、違うっす。今回は例外っすよ。信頼してるチムメンからこう言われたら行くっすよ」

「ふ、ふたりはどういう出会いだったの?」

「元は俺を誘ってくれたんです。で、いつもいたパニエ……瑞葉さんには、良く助けられました」

「最近はよく助けてくれる。支援の鬼。いっつもターゲットを取ってくれて、ヒール、バフデバフも完璧」

「? 何のことかよくわからないけど、お世話になったようで……」

「いや、こちらこそ助けてもらいっぱなしで」

「嘘つき」

「いやいや、本当だよ。で、どうかな、本願寺さん」

「瑞葉でいいっすよ、シオン先輩。……行くっすよ。さすがに高卒は取りたいし」

「ありがとう」

「自分のためっす。んで、相談部……っしたっけ? そこに所属してもいいっすか?」

「いいよ。俺の一任だから、問題ない」

「うっす。じゃあ、門限を七時に伸ばしていいっすか?」

「いいわよぉ! ああ、あの瑞葉が外に出るなんて……! お赤飯炊かなきゃ!」

「人を引きこもりみたいに呼ぶなっすよ!」

「え、違うの?」

「違わないっすけど……。もういいや、シオン先輩もよばれていってくださいっす」

「いや、俺は……」

「遠慮しないでください、工藤君! もうすぐパパも帰ってきますから」

 だから帰りたいんだけど。

「たっだいまー。あれ? ……!? い、イケメンが家に!?」

「瑞葉の彼氏よおおおおお!」

「何だってぇぇぇえええええ!?」

「何もかも違うんですけど……」

 やたら陽気な本願寺一家と食事を摂った。

 ちなみに、父親は泣きながら万歳三唱をしていて、めっちゃ引いたのは内緒だ。



「あ、やっほー」

「!?」

「こらこら、どこへ行くんだ瑞葉」

「いや、えええ!? なんすか、その恰好!? 魔女!?」

「え、キャラクターパーカーの人に言われたくないし」

 どっちもどっちだ。

 瑞葉はビクビクと室内にいる美空を覗っているようだった。

「なんでこんなウェイ系パーリィーピーポーな感じの人がいるんっすか!?」

「あ、なんか馬鹿にされた気がする」

「今風の若者って言われたんだ」

「そ。ならいいわ」

 男だな。潔すぎるだろ。

「彼女は片桐美空。二年で、先輩に当たる。この間まで数学がポンコツだったんだけど、克服してね」

「頑張ったわ」

「で、何故かこの部に入った、変わった子なんだ。俺との関係は友達」

「ダチ公でもいいわよ!」

「やだ、男らしいっす……」

 うん、その無駄な男らしさはなんなんだ。

「新入部員なの?」

「そうだよ。彼女は本願寺瑞葉、一年生。仲良くしてくれ」

「そ。本願寺、さん? よろしくね!」

「うおおお、まぶしい……まぶしいっす……。非リア充にはつらいっす、そのまなざし……」

「リア充って何よ」

「リアルが充実……まぁ彼女とか彼氏がいる連中を指す時に使われるんだけど」

「そうなのね。ちなみに、彼氏はいないわよ。友達だって、ようやく……紫苑ができたくらいなんだから」

「おお、ぼっち。仲良くなれそうっす」

 嫌な仲間意識だった。

「片桐美空よ、よろしくね、本願寺さん!」

「瑞葉でいっすよ。そのかわり、ミソラ先輩って呼ぶっす」

「オッケー!」

「……」

 まぁ、仲良くしてくれそうだし、いいか。

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