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 通称、マイルストーン。重力均衡点ラグランジュ・ポイントに浮かぶ、複数の球体が連なった形をした、巨大な船渠ドックステーション。

 そこは恒星間航行船が発着する港であり、縮天航法リプレイサー・ドライブの技術管理権限を持たないフォルグ星圏において、転移船リッパーの姿を見られる数少ない場所のひとつでもある。

「うわ、すご、あたし初めて実物見てますよコレ。あのでっかい船に人とか荷物とか小型の艇とか積み込んで、何百光年もパッと移動できちゃうんですよね」

「説明ごくろう」

 モニターに映った転移船リッパーは四千メートル級の輸送船。見慣れているウィリアムズでさえ、近くまで来るとそのスケールに距離感を喪失しかける。コックピットに入ってくるなり巨船の威容を見てはしゃぎ出すフランは、この時は外見相応の子供らしく見えた。

「とはいえ、今回の行き先は同じフォルグの辺境星域だ。そう何百光年も転移リップするわけじゃねえ。最寄りのマイルストーンで降りたら、そっからは通常推進でブツの在処を目指すことになる」

「丸いのの周りにいっぱい浮いてるのは何ですか?」

 少女が四つの手でそれぞれに指さしたのは、マイルストーンを取り巻く大小さまざまの構造物。鉱夫が答えて言う。

「いわゆる周辺ステーションって奴だ。昔から、駅の周りには街が出来る。この艇も補給や整備が必要なんでな、転移船リッパーの利用申請が済んだらドックに入れる。いろいろと買い出しに行くから、そん時はフラン、おまえにも手伝ってもらう」

「はい! あ、でも後ろの腕二本は隠させていただきますね。見られたら違法改造が一発でバレバレですから」

 ウィリアムズの態度が軟化したのは、自分の活躍を認めてくれたから――彼自身の見るところ、フランはそう思っているらしかった。思惑どおり、自ら尽くしてくれるようになりつつある。

 ある意味では「活躍を認めた」というのも間違ってはいないのだが、あくまでそれは「道具の使い道を見つけた」に過ぎない。彼女はそこに含まれた微量の毒など知らず、純粋に喜んでいることだろう。

 単純な奴、とウィリアムズは口に出さず嗤った。少しばかり甘やかせば従順になる。機械で強化されているとはいえ、しょせん頭脳は十歳そこらの子供。

 扱い方がわかってきた。その実感が、フランの鬱陶しさを少しは緩和してくれる。

「それと、今日はステーションに泊まる」

 向かう先であるフォルグ辺境への便は、一日に一本しか出ていない。この日の分は既に出発してしまっていた。海賊騒ぎで余計な時間と燃料を使わなければ間に合ったかもしれないが、こればかりは仕方がない。

 また、違法改造を繰り返したソリチュード号の核パルスエンジンはデリケートで、整備作業にも時間を使う。フランが戦ってくれたおかげで、あまり振り回さずに済んだとはいえ、戦闘機動で緩衝板に負荷が掛かっている可能性もある。

 ならば、とウィリアムズは外泊することに決めた。自分の家として慣れ親しんだ艇であっても、ずっと缶詰になっていては息も詰まってくるというものだ。たまには自分の匂いがしないベッドで眠りたい。その時間で艇を点検に出しておけば一石二鳥である。

「宿泊施設があるんですか――相部屋にします?」

「何が悲しくての分まで部屋代を払わにゃならねえんだ。寝る時は荷物らしく艇に戻ってやがれ」

 護衛として使うならそばに置いた方がいいのは自明だが、甘やかしすぎてもいけない、というのは学習済みであった。

 加えて、もう壮年とはいえウィリアムズは、まだ強健な肉体を持つ独り身の男なのだ。長い船旅で溜まるものは溜まるし、流石にフランを間近に置いて自己処理する気にはなれなかった。〝会社〟の男が仄めかしたように、フランを使――などというのは論外である。

 麻薬と違って我慢できるからこそ、余計にプライドが邪魔をした。ほどよく酔って部屋に戻ったら、娼婦のひとりも呼ぼうか、と検討する。監視されていることには変わりないのだが、要は気分の問題であった。


「よし、買うモンはあらかた買ったな。おまえは艇までこれ全部持ってって、適当に運び込んどけ」

「あ、あの……お客さまコレ、搬入サービスに頼んだ方がいいのでは? この重さ、まとめて手で持っていくとなるとたぶん、某ナザレ出のおっさんでも丘を登り始めないうちに心折れますよ。復活できないぐらいエクストリームバキバキに」

 フランの目の前には山脈があった。床の上にうずたかく積まれた食糧、飲料、薬剤、酒類、機械の予備パーツ、その他日常の消耗品類といった、買い物のコンテナである。

 無人レジと売り場を往復してこれらを会計したのもフランだったが、合わせて持つとなると重さの次元が違う。ドックなどのある無重力ブロックならともかく、地球のそれに近い人工重力が働いているこのエリアでは、運搬用のリニアカートなしには運べない。

「輸送費の節約だ。人間には無理だが、フラン、おまえならなんとかなる」

「今のあたしが前の二本しか腕使えないって忘れてません? ていうか運べたとして、見た目はかよわい女の子がこんなモン持って歩いてたら、それだけで『アイツ人間じゃねえな』ってわかりますよね!」

 ウィリアムズは舌打ちした。やはり名前を呼んでも駄目なものは駄目らしい。しかも、意外とまともな状況判断をする。

 どこまで乗せられるかというテストは断念して、搬入サービスを呼ぶことにした。荷物がリニアカートに乗せられて床の上を滑っていくと、ステーションの広い店舗ブロックを行き交う人々が、迷惑そうに身を躱す。副腕を隠すためにゆったりとした服を着ていたフランが、その袖をぱたぱたと振ってスタッフらを見送る。

「まあでも、買い物は全部終わりましたし、あとはさっき取ってた部屋に行って寝て待つだけですか?」

「いや、まだ買ってねえものがある。それにだ、ここのバーは今でも地球時代アース・エイジから続くブランドの酒を仕入れてる。これを飲みに行かねえ手があるか」

 フランは困り顔を見せた。笑ったままでだ。何種類もの笑顔を使い分ける技巧には、ときどきウィリアムズも感心する。

「……んー、お酒はよくわかんないです……あたし、酒場に入る見た目でもないでしょうし、艇に戻ってますね」

 監視用のナノマシンが付いているのだから、必ずしも近くにいる必要はないということだろうか。虫唾の走る話だが、いまはどうでもいい。去っていく少女の背に、ウィリアムズは勝ち誇ったような視線を投げつけた。

 そうとも――子供にはわかるまい。


〝火炎瓶〟という表札が掛かった木製の扉を、手で押し開けて店の中へ入った。遠き地球時代アース・エイジのウェスタン・スタイルを踏襲したという、クラシックな内装が目に優しい。

 ウィリアムズはこのバーの、いかにも狙ったらしい古臭いつくりが好きだった。もちろん、出す酒もうまいからこその話である。

「よう、ウィルじゃないか」

 カウンター席で黒い肌の男が手を振っていた。何度か一緒に仕事をした顔なじみの鉱夫で、名をサムという。

「この時期ならおまえが居るかもしれねえとは思ったが、当たってたな」

 隣の席に座り、メニューも見ずに酒を注文する。始めはさっぱりした味のものを頼んだ。バーテンダーが慣れた手つきで出してきたグラスを手に取り、浅く傾けて、まず一口。

「今日はなんでここに?」

「買い物やら、まあいろいろさ。売人プッシャーは二階席か……」

 サムは露骨に眉をひそめた。

「ミードか――無駄だろうから、今さらやめろとは言わないが、ブッ飛んでも戻ってこられる程度にはしとけよ」

「わかってる、これでも健康に気を使いながらラリってるつもりだ」

「またおそろしく矛盾した自己評価を」

「で、いるのか、いないのか」

 観念したように、サムは親指で天井を指した。

「いるとも。ただ、連邦の張った網はまた目が細かくなってきたからな。値は上がってるはずだ――金は大丈夫か」

「問題ねえ。デカい仕事が入ってね、その前金だけでも結構な額をもらってる。これが終わったら、俺は引退するつもりだ」

「辞めるって、あんたが、鉱夫を? ……まあ、ナノテクのおかげで商売あがったりだからな。賢明な判断かもしれん」

 他人事のように言って、サムは自分のグラスに口を付けた。

「おまえは辞めないのか?」

「俺は好きで鉱夫やってるんだよ。こいつをライフワークにするさ」

 ウィリアムズは何やら嫉妬のようなものを覚えた。遅まきながら自分は、時代の波に乗ってこの稼業から手を引くのだと思っていたのである。しかしサムは、時代の波を越えていこうとしている。

 彼の複雑な表情を見て、サムは自分の今後が気遣われているものと思ったらしい。見えざる澱を吹き散らすように、両手を振った。

「おいおい、そんなに心配してくれるな。もうフィフス・ジュピターの空中鉱山と新しい契約を取り付けてあるんだ。あそこはヘリウム3が売れなくなったくらいじゃ潰れやしないよ……ドレクスラーの技術でも、まだ水素とヘリウム以外の元素変換はできないらしいからな。

 そういや、あんたの〝デカい仕事〟で思い出したが――ノウマンを覚えてるか」

 その名を聞いた途端、ウィリアムズは宇宙ゴキブリをうっかり叩きつぶしたような顔になる。

 ノウマンは彼らの同業者であり、軍人くずれのサイボーグだった。同業者といっても実態はまるで違う。海賊稼業をするついでに、名義上の本職として鉱夫を名乗っているようなものである。少なくとも、決してその逆ではない。

「ああ、あのね。野郎がどうしたって?」

「又聞きなんだが、やっこさんもどえらい儲け話にありついたらしくてな。陽電子流でも見つけたんじゃないかと思うんだが」

 陽電子流ポジトロン・ストリーム。低位技術圏では希少な宇宙資源のひとつだ。モノポールと比べれば何桁も値は落ちるが、それでも電磁バスケットでかき集めて売れば、巨万の富に化ける。

 しかしウィリアムズはかぶりを振った。

「いや、奴の場合はもっとダーティな仕事だろうよ。どこぞの金持ちがスペース・クルーザーで通りかかったところを、根こそぎ劫掠するとか……どんなに儲けても、全部改造費にしちまうだろうがな」

 顔を思い出そうとして、あの男にはもう顔などなかったということを思い出す。

 ノウマンひとでなし。あの忌まわしい超人間主義者トランスヒューマニスト

 最後に見たときは、もう人間の原型は残っていなかった。

 

 真偽の定かでない逸話によると、ノウマンは軍にいた頃、内乱鎮圧にあたる中で瀕死の重傷を負ったという。フォルグではない、どこか遠い連邦支分国のひとつの話だ。

 激しく破損した身体を、脳以外すべて機械化し、戦闘サイボーグとして戦線に復帰。死と破壊の臭気が立ちこめる戦場で、疲れを知らぬ身体を武器に戦い続けた。

 しかしその中で、ノウマンは戦争神経症に苛まれるようになる。安全なはずの後方でさえ、物陰から敵が飛び出してきたり、砲弾が降ってくるのではないかという恐怖が消えない。加えて「自分の精神は人間だが、肉体が人間でない」という巨大なストレッサーが重なった結果、ノウマンの精神は異常を来した。

 当時そこで使われていた戦闘サイボーグは、生体部分の強化された再生能力ゆえに再手術を受け付けず、生まれたままの人間に戻ることはできない。

 肉体が人間に戻れないのなら――精神が肉体に合わせて人間をやめればいい。ここが常人の理解の及ばぬところだが、どういうわけかノウマンは〝人間〟でなくなった自己を肯定するために、〝人間〟そのものを否定するに至ったらしい。

 軍を退役した彼は名ばかりの鉱夫となり、海賊行為に手を染めた。自己の躯体を強化することだけに意義を見出し、収入はすべて違法な改造処置につぎ込まれる。やがてノウマンは、ヒトであった形跡を片鱗すら留めぬ、異形の生体機械へと変わっていった。

 ウィリアムズは若い頃、とある仕事の中でノウマンに会った。そのときの義体は巨大な虫を思わせる姿で、ノイズまじりの合成音声が淡々と、己の在り方を語っていた。

「このからだが醜いかね。しかし君たちが纏う肉など、これに比すれば魂の牢獄に過ぎんものだよ」

 総毛立つような虚無。バイザーの奥で青く光る六つのカメラアイから、放射される底知れぬ暗黒。口では「何を言ってやがる」と一蹴したものの、こいつと関わり合いになるのは絶対にごめんだと、理解を超えた本能の声が聞こえたのを覚えている。

 結局、関わり合いはのだが――。


「やれやれ、厭な奴を思い出させやがって――マスター、〝モロトフ〟をくれ」

「二杯目でそんな強いのを? 時間に余裕がないと見たが、どうだ」

「次の便は十六時間後さ。ただ、せっかく金出して部屋を取ったんだ。寝る時間はたっぷり確保したい」

「酔うためだけに飲む酒なんぞ、それこそ金の無駄だろうに」

 カウンターにグラスが置かれた。モロトフは店の看板酒、アルコール度数が高いリキュールベースのカクテルである。量を飲まずとも、手っ取り早く酔える代物だった。

 ぐい、と口に入れる――酒自体はよく冷えているのに、炎の河が喉を流れていくような感覚。それも不愉快な記憶を押し流してくれると思えば心地よい。どうせなら、ついでに焼き尽くしてくれるといいのだが。

「おい、ウィル、悪酔いするぞ。それとも、とうとう酵素パッチを使う気になったか」

「誰が。よく考えろ、おまえ、ありゃスケールでいったらウイルスや細菌の類だぞ。気持ち悪いと思わねえのか」

 苦笑しつつ、サムは日本酒らしきボトルを開ける。日本ジャパンという国家はもはや存在しないが、その地で生まれたという酒の製法は、現代まで生き残っている。

「サイバネ嫌いも、ナノテク嫌いも変わらずか」

「そんなに昔からってわけじゃない。たかだか十七年だ」

 いきなり具体的な数字が出てきても、十七年前に何があったかとサムが訊くことはない。彼もフォルグの生まれである。〝ハロルド禍〟を生き延びた人間は、死ぬまであの地獄を忘れない。

「十七年……ああ、そうか。十七年。もうそんなに経つ」

「今じゃ、自分の歳よりよく覚えてるよ」

 さらに一口呷って、ウィリアムズはグラスを空ける。

 無為に過ごした歳月は、暦で区切りでもしなければ、記憶の中で影のように朧な一瞬へと圧縮されてしまう。

 十七年。ユハナンが生きていれば、ちょうどあの頃の自分と同じくらいの歳になったか。

 そんなことを、ちらりと思う。


 フォルグ星圏では、十五年前までナノテクノロジー全般の民間利用が禁止されていた。

 それ自体は珍しいことでもない。統一銀河連邦のドクトリンは「政治によるテクノロジーの徹底管理」であり、ナノテクは核エネルギーよりも厳格に取り扱いを制限される高位技術である。かつてのフォルグの法定テクノロジー・レベルは高い方ではなく、ごく限定的な機能しか持たぬ低位の分子アセンブラさえ、半世紀は解禁される見込みもないと思われていた。

 結果として規制が解かれたのは、その二年前に――つまり現在から数えて十七年前に――起きた未曽有のナノマシン・ハザード、〝ハロルド禍〟のためである。直接被害で七億、関連死も含めれば十億人以上の死者を出し、星圏を一度は滅ぼしたとさえ評される、壮絶な技術災害テクノハザードだった。

 しかし統一銀河連邦にとって、それは好機でもあった。法定テクノロジー・レベルの引き上げに伴う諸問題を、星圏政府の崩壊と人口の激減が、超法規的に解決してくれたからだ。

 技術テクレベルの引き上げには危険が伴う。自明の常識である。蒸気機関に惑星を破壊する力はないが、原子力なら不可能ではなく、重力制御技術まであれば星ひとつ砕く程度のことはむしろ容易い。ゆえに、連邦構成国に課せられた技術レベル上限の引き上げは、滅多なことでは認められない。

 一方、連邦を牛耳る星間企業体群にとって、技術レベルの変動は巨大な商機である。支分国のいずれかで引き上げ条件の達せられる気配あらば、資本投下の優先権を巡って熾烈な争奪戦が行われる。そして事件後のフォルグ星圏では、現地の政府も住民も、外部からの介入を拒否し得る状態になかった。

 必然、星間企業体群は連邦議会を動かして、フォルグ復興の先鞭を競売にかける所業に及ぶ。崩壊しかけた国家の主権などは、強大な星間企業たちの慈悲なき入札を、些かも妨げられるものではない。

 かくて競りに勝ったのが、ナノテク産業の帝王ドレクスラー・コーポレーションである。自社の専門分野において、災害の収束に貢献した実績を買われて――という建前。背後にどのような暗闘や裏取引があったかなどは、市民に知れたものではない。

 とかくドレクスラーは〝ハロルド禍〟の残留汚染除去を名目に、一部元素の核子変換すら可能とする強力な分子アセンブラの投入計画を発表し、そのために十二段階もの技術レベル引き上げを連邦技術管制局に追認させた。一段階の上下でさえ全銀河系のニュースになるのだから、それを可能にした事態の異常さは、当事者たるフォルグ圏民の想像をも超えていたと言える。

〝ハロルド禍〟を生き延びた二億人は、十億の犠牲を利権の具としか見ない企業のやり口に、初めのうちこそ反発していた。しかし外星系から流れ込む移民に圧倒され、希釈され、星圏の産業形態を根本から変えてしまう新技術に対応しようと日々を過ごすうち、いつしか怒りを生活の倦怠に埋没させていった。

 そして十五年。

 時は流れ、世は変わった。


「ドレクスラーには感謝しなきゃならんのだろうさ。放っておけばフォルグは無法地帯になって、復興どころじゃなかったはずだ。俺たちだって、こうして呑気に酒かっくらって仕事してられる身分じゃなかっただろう。

 けどな……あの悪夢を、自分の目で見た人間なら、死ぬまでナノマシンなんぞに身体をいじらせようとは思わねえよ」

 グラスの中の氷を透かして、ウィリアムズの双眸が過去を睨み据える。

 十七年。未だ、あの光景から眼を逸らせない。

「俺は……あんたと違って、じかに〝症状〟を見たわけじゃないからな。たぶん、見なくてよかったんだろうが」

 フォルグの鉱夫がほとんど総動員された、希少鉱物レーンシウムの採掘計画。それが〝ハロルド禍〟の発端だった。当然、ウィリアムズだけでなくサムも採掘に参加していたし、のちの災害に巻き込まれてもいる。

 しかしサムは、早期に避難できた幸運なグループに属していた。ウィリアムズとは、最も苛烈な体験を共有していない。ゆえに彼の苦悩も、恐怖も、憎悪も、真の意味では分かち合えない。

「ああ、ああ。いいさ。見ないに越したことはねえ。

 技術管制主義に乾杯! あんな、くそったれのテクノロジーは……第一種禁制技術にでも指定して……永久に、封印しちまえばいいんら」

 吐き捨てながらも、酔いが回り、口数が増えてきたことを自覚する。

「ちょいと、外すぜ。酔い過ぎる前にミードを買い足しておかねえと、あいつら、値段の桁をひとつ増やすぐらいは平気でやるからな」

「もうずいぶん前から相場の二、三倍は吹っかけられてるじゃないか――これだもんよ、人類文明から麻薬産業が無くならないわけだ。中毒者ジャンキーがあんまりにもいいカモであり過ぎる」

「おまえの酔ったときに出る、そういう空気読めてねえクソ真面目な切り返し、嫌いじゃねえぞ」

 席を立つ。まだ足取りがふらついていないことを確かめながら、ウィリアムズは二階への階段を上っていった。

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