第128話 交流会準備《エルフside》


 そしてスウィルと彰吾が話し合いを始めてから数時間後、2人は食事も終えて今は城門前に居た。話し合いが問題なく終わったので、準備のために彰吾が帰る事になったのだ。


「では、1カ月後に交流会という事でいいかな?」


 最後の確認と言う感じでスウィルが聞くと彰吾は笑顔で答えた。


「おう!むしろ開催場所は、本当にこの国の闘技場でいいんだよな?」


「もちろんだ。面白そうだから作ってみたが、エルフと言う種族はどうも戦闘などには消極的でね…扱いに困っているくらいだからちょうどいいのさ」


 どこか恥ずかしそうに頬を掻きながらスウィルはそう言った。

 なにせユーグラートに闘技場を作るように言った最初の人物こそスウィルだったのだ。周囲から反対はあったが王に成る前に世界を見て回っていた時、たまたま行った国で見た闘技場での闘技大会や魔獣のレースなどが思いのほか楽しかった。

 それが忘れられず『きっとみんな気に入るはず!』と言う感情のままに造らせた結果が誰も使用しない、手入れだけされて綺麗な状態の闘技場だった。


(まさかエルフと言う種族がここまで勝負事が向かないとは…我が種族ながら衰退するのも仕方のない事なのかもしれない。と本気で思ってしまったものだ…)


 スウィルも最初はもっと観客も挑戦者なんかも集まると考えていた。

 だが蓋を開けてみれば怪我をするかもしれない闘技大会には数人しか集まらず、わざわざ血が出るような事をする意味が分からない!と観客すら興味を示さなかった。

 そんな昔を思い出すとスウィルは今も少し憂鬱な気分になる。


「そう言う事ならいいか。では、これで」


「あぁ、また会おう」


 短く挨拶すると彰吾は移動用のドラゴン型人形に乗って魔王城の方向へと向かう。


 そして姿が見えなくなるまで見送ったスウィルは先ほどまでの笑顔などは嘘のように、冷たくすら感じるほどの無表情で振り返る。


「すぐに長老達を集めなさい。一月しかない、無駄に話をする時間が惜しい」


「畏まりました…」


 ひどく冷たい口調で放たれた命令にディーテ粛々と頷くだけだった。

 こちらこそが普段のエルフの王として振舞う時のスウィルの姿で、むしろ彰吾の前で見せていた明るい表情にこそディーテは不気味さを感じていたくらいだった。

 それだけにいつも通りの反応に戻ったことに安心してすらいた。


 そして指示に従いユーグラートに属する長老達へと精霊を使って伝令が贈られた。


 緊急で送った伝令の内容は『至急話し合うべき事項が発生した。最近発生している人間の襲撃にも関係がある。早急に集合せよ』だった。

 どうせ正確に起こった事を伝えても無視するか、文句を言いに来るだけでまともな話し合いの場などできない事はわかっていたからだ。案の定と言うべきか王都に居た数人の長老などは話をどこかからか入手して、一足先にスウィルの基へと来ていた。


「王よ!勝手に交流会などどういうおつもりか⁉」


「これがエルフの為になるという判断だ。現状の我々では外延部で怒る人間の襲撃に対処できない以上、なにか方法を模索するのは当然の事だろう」


「だからと言って得体の知れない者の協力を得ようなどとっ」


「それを解消するために交流会をして、お互いを知ろうという判断したのだ。何が問題だと言うんだ?」


「我々の慣習として…」


「その結果が今の状態だろう」


 と言ったような感じで、長老達は昔からの風習や慣習などを持ち出して説得しようとしていた。だがスウィルは現在の国の状況などを考えて最適だと判断しているからこそ行動しているのだ。

 その事を説明されては別の解決法があるわけでもない長老達では言い負かすことなどできるはずもなかった。


「さて、君たちの話は分かった。では、何か別の効果的で2カ月以内に解決する方法を今すぐ教えてくれるかな?」


 なんて逆に聞き返せば本当に何も考えずに感情だけで動いていたようで、長老達は視線をさまよわせて何も答えなかったのだ。

 こうなってしまえば長老達には何もすることはできず、彰吾との話し合いで決まった事をスウィルが話て今後やるべきことを伝えるだけになっていた。


「まだ理解できていない者がいる可能性も考えて一応言っておこうか。もし交流会を邪魔しようなどと考えているのなら覚悟したまえ。魔王殿だけでなく私も敵に回すと覚悟することだ」


 最後にくぎを刺すように宣言したスウィルは彰吾に向けていた以上に強いオーラを会議していた部屋全体に放った。

 そのオーラを受けた長老達は実力だけなら大樹の守護者の次に強いのだが、抵抗すらできずに全員が床へと押さえつけられ実力の差を思い知らされた。もっとも何人かは反抗心を更に強めていたようだったが、そんなことはスウィルも見分けはついていた。


「あとで数名の名を記す。その者達を随時監視、不審な行動を起こせば制圧してかまわない」


「畏まりました」


 全員が出た後にディーテにそんな命令までして対策を立てていた。

 そして王城の廊下を移動しながらスウィルは薄っすらと笑みを浮かべる。


(さて、どんな事になるのか…まぁ、しばらく退屈はしないだろうな)


 これからの苦労を思い少し苦笑いを浮かべながらも、やはり退屈が解消されることが嬉しいのか表情は明るかった。

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