第127話 エルフの王と魔王《後編》
彰吾の魔王としての提案『エルフの国との友好関係の構築』を正面から言われてスウィルは冷静を装いながら、頭の中では状況に混乱していた。
なにせ急にやってきて1000年近く維持された結界を破壊して、絶大な力を持つ大樹の守護者を相手に余裕で相対した。そんな一種の化物が急に訪ねてきて『仲良くしましょう!』って言ったところで誰が信用できるか?と言う話だった。
(話自体は悪くない。特に最近は人間が活発に動いていて外延部の村が何度となく襲われている。我々だけではすべてを守る事はできないが、これほどの力を持つ相手との友好関係…もっと言えば同盟を結べれば、確実に良い結果にはなるだろうが…)
現状のユーグラートは安定しているように見えて、実情は外からの襲撃は幾度となく受けてきていた。
そんな状況に陥る根幹の問題は人間が作り出した亜人族達の力を抑制する『モノリス』だった。以前に彰吾も見たあれは亜人達の保護をしたことで下手に研究して発動されるわけにもいかず、今は魔王城の地下保管室にて丁寧に封印措置がされている。
だから彰吾達も知らなかったがモノリスにはエルフ達にとっては致命的と言えるほどの効果があった。
なにせモノリスの効果はエルフなどの亜人種だけではなく、彼等と契約している精霊にまで効果を及ぼしていたのだ。戦闘や防衛の大部分に精霊の助けを借りているエルフ達では対応できなかった。
首都の防衛は大規模な儀式などを用いた大結界で問題なかったが、規模の小さな村や町では精霊術師が張った結界で守っているのでモノリスの効果で結界の力が弱まってしまうのだ。
それこそが人間側からの襲撃を完全に防ぐことができていない理由の一つであった。
「話自体は分かった。しかし我々は君をよく知らないし、確かに強いが…個人ではないのだろう?仲間も居るのなら、その者達の人柄も分からないのにやすやすと受け入れる事はできないよ」
これが、しばらく考えた末に出したスウィルの答えだった。
確かに彰吾自身は想像する事もできないほどの強者だろうが、部下までもが強者である保証がないので安易に受ける事はできないと判断したのだ。
その答えに彰吾は納得したように頷く。
「なるほど、それはそうだな。では友好関係構築のために交流会でも開催しますか?」
「交流会……悪くない」
突然の提案ではあったがスウィルとしても悪くない案だと考えた。
結局は知らないという事が問題なのだから、知る機会を設ければ解決する事ではあるのだ。問題は名目と形式など、周囲へと説明する時に説得力のある内容を考えるだけだ。
その上でも特別強い力を持つ相手の手の内を探る。などと言えば排他的な者でもある程度納得するだろうし、実際に実力の差を見せつけてもらえれば外部との協力関係を拒否する者達が出てきても説得しやすくなる。
そんな打算的な考えも多くはあったが根幹的な理由は『知りたい』と言う知識欲だった。
(これほどの自信だ。なにか理由があるのだろう?それを是非見せてくれ!!)
微笑みを浮かべながらスウィルは内心で歓喜していたのだ。
短くて1000年、長ければ数万年生きるエルフにとって未知なる刺激と言うのはどんな時だろうと心から喜びを感じる事の一つだった。特に数百年もの間に渡って王と言う立場から自由に旅に出る事もできず、だからと言ってほとんど鎖国状態のエルフの国では新たな知識が外部から入ってくることも稀だ。
なんなら何か話が入ってきても王まで届く事はほとんどない。
だからこそ今回のような不測の事態はめんどうであると同時に、楽しくもあったのだ。
「では、具体的なゆっくり食事でもしながら交流会の内容などについて話し合わないかい?」
「いいですね~エルフの料理って興味あったんだ」
「ははは!楽しみにしてくれていいよ。食事は楽しみの一つだから、力を入れさせているんだ」
もはや探り合いなどはなく純粋に楽しんでいるように会話を交わしながら彰吾とスウィルは軽く握手して、仲良く食事しながら話す事の出来る部屋まで移動を開始した。
それから数時間も行われた話し合いによって正式に『魔王とエルフの交流会』の開催が決定されるのだった。
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