第126話 エルフの王と魔王《前編》
ディーテが先導する事でなんとか王城と見られる大樹の根元にある城へと来ていた。城門などでは門番に訝しげに睨まれたがディーテが説得する事で何とか応接室まで通してもらえた。
「ここで待っている。私が戻るまで何処にも行くなよ?」
と言うように、最後に念押しをして国の代表者へと詳細の報告と、会談の準備のために向かった。
「…あ、このお茶美味しいっ」
そして1人残された彰吾は無駄に豪華な部屋の中で出されたお茶を一口飲んで、想定以上の美味しさにちょっと感動していた。
魔王城にある茶葉も決して不味くはないのだが、美味しいお茶の淹れ方を知っている者が少なかった。ルーグ老などは薬を煮るのにも近いので得意だったが、調薬を優先してもらっているためお茶を飲む機会などなかった。
そして今回エルフの出したのは最上級ではないが、かなり上級の茶葉を使用して淹れられていて腕も一流だ。不味いはずもなく茶のいい香りが飲んだ後に鼻に残って、少し退屈していた彰悟の心を良い感じに癒してくれていた。
「御茶菓子もいいねぇ~」
お菓子まで堪能して、数分もすれば自分の家のようにくつろぎ始めていた。
「……遅れたことを謝罪すればいいのか、それとも無駄にたくましい神経を褒めればいいのか…」
部屋に戻ってきたディーテはソファーに体を預けてお菓子を口いっぱいに入れている彰吾を見て、疲れたように頭を抱える。
「あ、もう話はついたのか?」
「えぇ…陛下がお会いになるそうだ。ついて来い」
「わかった!行こう!!」
こんなにも早く話が付くとは思っていなかった彰吾は嬉しそうに笑みを浮かべて立ち上がり、早く行きたくて仕方ないと言うように部屋の外に出る。
勝手に1人で歩き回られては困るのでディーテも少し遅れながら追いかけ、首の根を掴んで引きずるようにして謁見室へと向かうのだった。
「陛下、ディーテでございます。客人を連れてまいりました」
「入れ」
しばらく歩いた後、豪華だが重みのある雰囲気の扉の部屋に着き中から許可を得て中へと入った。
部屋の中の上座になる一際豪華な席に座っていたのは、美しい金の髪を背中まで伸ばしたストレートヘア、瞳は綺麗な翡翠、エルフだけあって異様なまでに整った端正な顔も合わさって異様なまでの神々しさを放つ男だった。
身に纏うのは植物の文様が浮かぶ豪華な物で頭には木製だが、荘厳な雰囲気を崩すことなく馴染む王冠を被っていた。
「……なぜ、そんな状態なのだ?」
そんな威厳のある人物をして目の前の状態は驚愕だったようだ。
なにせ客人を連れてきたと言われたのに、その客人が引きずられるようにして連れてこられているのだ。しかも当の客人は気にしないどころか、楽しそうに周囲を見渡す余裕すら見せていた。
「聞かないでください…」
途中からでも自分で歩くように言えばよかったと後悔しながらも、最後まで引きずってきてしまったのは自分であっただけにディーテは恥ずかしそうにするだけだった。
何とも言い難い気まずい空気が場を支配する。
「ま、まぁいい…客人よ。その状態では話しにくい、一先ず座ってもらっていいかな?」
「確かにそうですね」
先ほどまでのふざけたような態度が嘘のように急に立ち上がった彰吾は真剣な表情を浮かべて、反対側の椅子へと腰を下ろす。
急に態度が変わりすぎる彰吾にディーテやエルフの男は困惑していたが、特になにか気にしたような様子が無い彰吾を見て、これが彰吾にとっての通常なのだと理解して気にする事を止める。
「まずは自己紹介をするとしよう。この国の王をしている『スウィル・ユーグラート』だ。今回はどんなようでやってきたのかな魔王殿」
高圧的と言うほどではないが相手を威圧するように魔力とは別のオーラのような物を纏いながら問いかける。
もっとも魔王と言う肩書は伊達ではなく彰吾はそよ風のように綺麗に受け流して笑みを浮かべる。
「さすがにエルフ達の王ですね~では、単刀直入に本題に入りましょうか」
「!?」
お返しとばかりに彰吾は魔王としての魔力をわずかに纏って見せた。
その圧はスウィルのオーラと同等かそれ以上で思わずディーテが護衛として動きそうになったほどだ。正面から受けたスウィルは内心冷や汗を流しながら平然を装い対峙する。
「俺の目的は友好関係の構築。すでに話は言っているかもしれないけど、俺の使命は『亜人と呼ばれる者達の保護』である以上、できれば庇護下に置きたいが…貴方達は国と言う形を保っている。なら無理に庇護下ではなく、対等な友好な関係を持ちたいと思っているんですよ」
簡潔にそして悪感情を持たれないように気を付けながら話す彰吾だったが、先ほどまでの態度と今放っている魔力による圧で『友好関係を』なんていわれても警戒せずにはいられず。
スウィルはどう反応するのが正しいのか思案する。
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