第125話 大樹の守護者《後編》
周囲を完全に小さな竜巻の群れに囲まれても彰吾は最初、特に慌てることなく観察していた。
(魔力の感じが他の魔法とかとは少し違うかな?感覚的には妖精に近い、前に見せてもらった精霊が関係しているんだろうな…)
冷静に今までに見た魔法などとの差異を確認して、以前にルーグ老から見せてもらった精霊に近い気配を感じ取った彰吾はより詳しく観察しようとした。
そんなとき周囲を囲んでいた小さな竜巻が一斉に動き出した。
あるところでは2つの竜巻が躍るように交わり1つになって強くなり。
別の場所では逆に分裂して2つ増え、何かを撒き散らすかのように風の刃を大量に放っていた。
一瞬にして完全な危険地帯と化した場所の中心に居る彰吾は変化を認識すると急いで結界を展開した。
同時に展開した結果に小さな竜巻の一つが接触。
ギャリィィィッ!!!と金属同士が削り合うような音が鳴り響き、急いで展開した結界は少し薄くわずかだが薄くなり始めているのが見て分かった。
「これはさすがに不味いか」
『我が身を守る城壁を此処に』
【キャッスル・バリア】
そう言うと光のけっけいで造られた城壁が現れて小さな竜巻の攻撃を防ぎ始めた。
先ほどまでのように削られる事もなく完全に防げていたが、より大きな問題が一つあった。高い防御力の代わりに動かすことができないのだ。
「さて…どうするかな。魔力的には1週間は維持できるけど、さすがに面白くなさすぎる」
膨大な魔力を持つ彰吾にとっては長時間維持しようが1週間どころか半月以上余裕で可能だったが、そんな時間稼ぎの持久戦は退屈すぎるように感じていたのだ。
とは言っても、じっくり考えようにも今も結界の外からは小さな竜巻が休むことなく攻撃を続けている。しかも威力は落ちるどころか徐々に増しているし、発動者のエルフの女性はみじんも消耗している様子が見えない。
「ねぇ~?魔力は大丈夫なの~??」
なんとなく気になった彰吾は普通に聞く事にした。
こんな状況で、まさか質問が飛んでくるとは思っていなかったエルフの女性は眼を見開いていた。
「…あなたはバカですか?」
「別に馬鹿でもいいんだけどね。それよりもこの規模の魔法を使っているけど魔力の表皮は大丈夫なのかな~?って気になってしかたないんだよ」
「はぁ……」
呆れ果てたように溜息を漏らすエルフの女性だったが、考えが変わったのか手を振るって魔法を解除した。
急に攻撃を止められた事に彰吾は首を傾げる。
「どうした?」
「もういい…悪意がない事は見て居ればわかった。もう帰れ、私は結界を張り直す」
「いや、それは困る。俺は君達、と言うか国に用があるんだよ」
帰れと言われても目的があってきた以上『はい!分かりました』と返るわけにも行かず。彰吾は理由を話そうとした。
その言葉を聞いてエルフの女性は困惑の表情を浮かべる。
「なに?では、何故…結界を破壊するなどと言う強引な方法で入ってきた?」
「別に理由はないんだけど…単純に寝起きに雷がうざかったからとしか…」
「まさか…そんな理由で、壊したのか?」
「はい…本当に申し訳なかったと反省しています!」
さすがに今回の件は自分の不注意が招いたことだと理解している彰吾は、ドラゴン型人形の上で見事に土下座を披露して謝罪した。
まさか寝起きに不機嫌だったからなどと言う理由で、長年にわたって自分達を守ってきてくれた結界が破壊された。そんな事実を簡単に受け入れられるわけもなくエルフの女性の混乱は強まるばかりだった。
「…色々と言いたいことはあるが、まずは互いに自己紹介するとしよう。私は【大樹の守護者】の1人『ディーテ・ユライシス』だ」
そう言って名乗ったディーテは地位s買う笑みを浮かべて、いままで隠れていたローブの中の金色に輝く大樹のようなデザインのされた徽章を見せた。この徽章が【大樹の守護者】と言う証明するための物なのだ。
「これはご丁寧にどうも。俺は女神より【魔王】の職を授かり、亜人と呼ばれる者達の保護を任された『黒木場 彰吾』だ。よろしく~」
「…え?」
なんでもない事のように普通に自己紹介して返した彰吾だったが、その内容にディーテは理解が追いつかないのか今日一番の呆然とした表情を浮かべていた。
当たり前と言えば当たり前ではある。
急にやってきた奴が『女神』や『魔王』、そして『お前達を保護を任されている』などと言ったところで簡単に信用できるわけもない。どころか頭のおかしい奴と思われるのが関の山だ。
いままで比較的簡単に受け入れてもらえていたのは、相手が考える余裕がないほどに追い詰められた状態にあったからでしかない。
今回は十分に繁栄している上に、現在進行形で大した脅威に襲われる事もなく生活できているエルフの国だ。簡単に受け入れてもらえるわけもなかった。
「まぁ…そう言う話を詳しくしたい事もあるから。この国で一番偉い人、紹介してもらえない?」
唖然として動かないディーテとでは、これ以上の詳しい話は無理だと判断した彰吾はより上の立場の物と話した方が早そうだと考えて提案した。
「……わかった。私の手には余る事のようだしな…」
しばらく考えた後、自分でも扱いきれないと判断したディーテは提案を受け入れる事にするのだった。
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