第124話 大樹の守護者《前編》
「へぇ~本当に巨大な木だ。正確な大きさは分からないけど富士山に近いか?もしかして定番の世界樹的なやつかな?そこまで深く聞かなかったからな~」
雷雲を吹き飛ばした事で見えるようになった目的のエルフの国。
そこの中心に見える本当に大きな樹を見て彰吾は好奇心を刺激されたのか、とても楽しそうに笑みを浮かべていた。ただアイアス達に話を聞いた時に巨大な樹とは聞いていたが、その正体などは聞いていなかったので気になって仕方なかった。
ただ知りたくても、まずは入国する事が出来なくては話にならない。
「ひとまず急に上空から入ると攻撃されるかもしれないし止めた方がいいか?いや、警戒されるのはどうせ一緒だろうしだったら威圧的に行くほうがいいか…」
友好的に行くべきか、威圧的に行くべきかで彰吾は悩んでいた。
保護などを考えるなら友好的に行く方がいいのだろうが、眼に見えてしっかりとした国家を現在も維持している所を見る限り保護が必要そうではない。
だとすると圧倒的な力を元にした接触の方が目的は達成できるかもしれない。でも、継続的な関係を考えた場合だと最悪と言ってもいい手のように見える。
「貴様か、結界を破壊したのは!?」
「え?」
なんて事を考えている間に怒鳴り声で彰吾は視線を大樹の方へと向けた。
そこには綺麗な金の髪を後ろで一つに縛り、身に纏うのは奥に見える大樹の葉のようなエメラルド色のローブを身に纏った1人のエルフの女性が飛んでいた。
もっとも美しい見た目が消し飛ぶほどの怒りの表情を浮かべ、体からは見てもわかるほど濃密な魔力を放出しながらだ。
「1000年も守護してきた我等の結界をっ」
「そんな長く維持できてたのか…地味にすごいな」
「地味にだと!?」
「あ、悪い意味ではなくて」
不用意な発言をしてしまったと彰吾が理解して慌ててい謝ろうとしたが、すでに遅かった。
「問答無用!!」
『風よ!我が敵を穿つ槍と成れ‼』
【ウィンド・ランス】
怒りを乗せて発動された魔法はまるで嵐その物を槍の形にまとめたかのように荒々しく、触れたものすべてを破壊する威力があるのが分かった。
そんな槍が5本同時に現れていた。
「同時展開かぁ…じゃなくて、まず話し合いませんっ‼」
「死ね…」
「ですよねぇ~」
静かに告げると同時に放たれた風の槍は正面からだけではなく、上下左右に分かれて囲むように彰吾目掛けて放たれた。
今更、簡単に話し合いに応じてもらえるとは思っていなかった彰吾は慌てることなく対応する。
「しかたない…殺さない程度に、頑張るか」
完全に渋々と言った感情を隠すことなく口と態度に出しまくる彰吾は、少し面倒そうにしながら乗っているドラゴン型人形へと魔力を大量に送りだした。
「全速力飛行開始、動きはイメージを送る。ちゃんとついて来いよ?」
『……ッ』
ドラゴン型人形は彰吾の言葉に小さく頷いて答えた。
それを見た彰吾は魔力を送りながら、一緒に自身の神経をも繋げるようにして操縦し始めた。
向かってくる正面の風の槍へと猛スピードで向かい、上下左右から向かってくる物は完全に無視して直進させた。これで上下左右から迫っていた風の槍はタイミングをずらされて素通り、と思いきや途中から動きが変わり彰吾に合わせるように向きを微調整しだした。
もっとも彰吾はある程度予想できていたのか動揺はしていなかった。
「へぇ…やっぱり操作可能か…」
感心したようにそう言いながら、彰吾は更にドラゴン型人形を加速させて正面から向かってくる風の槍を回避してすれ違う事に成功していた。顔に掠りそうなほどの至近距離を笑みすら浮かべて避けて見せた。
そんな恐怖を感じていないかの彰吾の回避方法に怒りで我を忘れているようだったエルフの女性は、驚いたような表情で見つめていた。
「今のを躱すのか…だが、逃がしはしないぞ!」
「だから、逃げないから話を…」
なんとか話をしたい彰吾だがエルフの女性はどう見てもそんなつもりはなく、風の槍の速度を上げてより精密な動きをするようになった。
「うおっ!ぶっ!な、いなぁ~」
まるで手練れの槍使い5人から包囲されて連続攻撃を受けているかのような状況だが、魔力を通したラグの無いイメージの伝達による高速での回避運動で全ての攻撃を見事に躱していた。
しかしエルフの女性も漠然と攻撃していたわけではない。
(クソッ!どうなっている。ドラゴンのような騎獣は攻撃を当てているはずなのに傷が付く様子すらないだなんて、しかも男の方を狙っても余裕で躱すしっ)
ドラゴン型人形に攻撃が効かなかったのは表面に見えないようなレベルで常時魔力結界が発生している。その結界によって魔法や自然現象による影響を大幅に軽減、そして体を構成しているのは高硬度・高純度の金属でできているのだ。
並大抵の事では傷1つ付く事はない。
もっとも初見の者が簡単に気が付けるようなものではない。
ゆえに意味不明な現象にしか見えず、思考が纏まらず混乱が強くなっていくのだ。
「なんなんだお前は⁉」
何をやっても攻撃が通らない現状に苛つきの限界を迎えたエルフの女性は叫ぶ。
だが答えを期待しての事ではない。急に現れて結界を破壊して、自信のある攻撃をひょうひょうと躱し続ける彰吾に対してストレスが溜まっていたが故の言葉でしかなかった。
「意地でも落とすっ!」
もはや目的が変わってるかのような宣言と共にエルフの女性は魔力を滾らせる。
『精霊よ!我に加護を』
『風の精霊は嵐と共に踊り、木の精霊は光と共に舞う』
『ここは精霊の宴!』
【テンペスト・バンケット】
そしてエルフの女性を中心として風が吹き出し、小規模な竜巻が無数に表れ彰吾を囲むように展開されるのだった。
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