大樹の国『ユーグラート』

第123話 晴れ時々、轟雷


 現状脅威ではない諦聖達には虫型や小動物型の人形を監視に残してエルフの国を目標に定めた彰吾は空の旅を楽しんでいた。


 ちなみに今回使用しているドラゴン型人形は戦闘用ではなく完全移動用に改造してある新型だ。

 幾度も空の旅をした彰吾は乗り心地の悪さに酔いに酔い、初めてアイアス達に会った時など普通に目の前で吐いてしまっていたほどだ。そこから数カ月もの間、密かに改良を重ねて完成したのが『移動用ドラゴン型人形』と言うわけだった。


 まず通常のドラゴン型人形と同じように戦闘機構も当然積んではいるが最低限にして、気温・気圧・風などを防ぐ結界生成能力を取り付けた。これによって高高度を飛んでも快適に過ごしやすい環境を作れるようになり。


 次に腹部などの表面は変わらず硬度を優先的に造ったが、搭乗する場所は素材にこだわり羊系の魔物の綿毛に小人族などが協力して作った魔法付与のされた布で簡単には破れないようにして覆ってクッション床のように絶妙な弾力を実現していた。


 もはや最高級のベット並となっている背中、更に常に最適な気温などが維持されている。これで酔いは完全に回避される事になったが代わりに彰吾の快適昼寝スポットと化していた。


「最高~♪」


 移動を始めて数時間、空は何処までも青く太陽がハッキリと見えて心地よく暖かな気温。そんな中で至高の布団のような場所で横になっているだけで目的地まで運んでもらえるのだ。

 それだけで彰吾は本当に嬉しそうに鼻歌気味に日光浴を楽しんでいた。


「やっぱり移動は快適じゃないとダメだよなぁ~」


 いままでのガタガタ大きく揺れるような移動方法を思い出し、少し気分悪そうにした彰吾も現在の快適さにすぐに気分を回復させる。


「それにしても…魔王城からは近いイメージだったけど、さすがに一回離れた位置から向かうと遠いな…」


 ドラゴン型人形から少し下の景色を見ると、そこには人間の街と他へと続く街道などが小さく見えた。もっとも数秒もしないで後ろへと流れていき景色は移り変わっていく。

 でも、いまだに目的地にはまだつく様子がない。


「近いのはアイアス達から聞いていたけど、具体的な距離までは聞いていなかったからな…どのくらいかかるんだ、これ?」


 人形などに安全のために監視は常にさせているが毎日のように情報を確認しているわけでもなく、見たとしても虫型や鳥形の人形視点だからわずかな誤差があって距離を測るのには向かなかった。

 だから彰吾も映像記録程度の感覚で確認していたから、距離などは何も把握できていなかったのだ。


「まぁ~方向はあってるし、そのうち着くか~」


 方向さえ間違ってなければ目的地には着くはずなので彰吾は気にする事を止めて、横になり眠ってしまうのだった。

 近くには今回は一緒に来ていたクロガネが周囲を警戒するようにたたずむだけだった。


 それから1時間ほどすると下は広大な森へと変わっていて、頭上はあいにくの曇り模様…というよりも風も強くなって嵐の前触れのようになっていた。

 あまりに急激な天気の変化にクロガネは彰吾を起こそうと体を強く揺さぶる。


「あ、あぁ~、がぁ…」


 声は漏れるが一向に起きる気配の無い彰吾にクロガネも困り果てているのか腕を組んで固まってしまう。

 次の瞬間、空が大きく光って数秒遅れて…ゴロゴロ!!!という爆音が鳴った。


「うるせぇ…」


 ものすごく近くで聞こえる雷の爆音。

 それに対しても彰吾は寝ぼけながら不機嫌にそう言うとドラゴン型人形を囲うように強固結界を張って外からの音すらも遮断した。さすがに進行方向が見えなくするつもりはないのか光だけは通しているので、1秒間に数回は鳴る雷の光だけは眼を焼くように強く見えていた。


 しかし音は本当に欠片も聞こえなくなったので、彰吾は光から逃げるようにアイマスクを取り出して付けると再度眠り始めた。

 その間にも何度も雷は結界へと接触して打ち砕かんとするかのように衝突するが、彰吾の張った結界は小さなヒビ1つはいることなく防ぎきっていた。


 だが10分、20分と時間が経過しても不自然なまでに雷雲を抜ける事が出来なかった。移動用のドラゴン型人形は雲くらいなら広くても1時間もあれば貫通できるはずなのだが、一向に抜けられず雷も狙っているかのように彰吾達へと向かって来ていた。


「………うざい」


 アイマスクをしているとは言え、短い感覚でピカピカと光が繰り返されると気にしないようにしていても気になってしまう。

 そして睡眠を邪魔された彰吾の期限は最悪と言っていいほどに低下していた。


「吹き飛ばしてやる…」


 静かに言った彰吾の両手には今までにないほど強大な魔力が集中していた。


『睡眠妨害する奴は消し飛べ!!』


 もはや技名でもなんでもない、感情に任せただけの叫びには不思議な力がこもっていて同時に放たれた魔力を集めただけの攻撃。しかし極限まで魔力を込められた魔力弾は雷雲をものともせず中心部に到達、そして今まで以上に強力な光を放った。


ドッガァァ—――――――!!!


 爆発としか言いようのない音と衝撃が周囲を蹂躙して、りょり強力な雷と成った魔力は周囲の雷雲の雷を消し飛ばし、最後には雲すら消した。


「あ、着いた…」


 雷雲が消えた先、そこには神秘的な光を纏った巨大な木が中央にある街が見えた。

 この場所こそがエルフが太古より受け継いできた強大な国『大樹の国・ユーグラート』だった。

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