第122話 天敵候補観察


 諦聖達が女神からの贈り物を受け取っている時、その遺跡のはるか上空で雲に隠れるように飛ぶ影が1つ。それは近づけばわかるほどの巨体を誇るドラゴン型人形だった。

 その上では中継役のクロガネに手を当てて小型の虫型人形からリアルタイムの映像を確認していた。


「いや~リスク覚悟で来てみたけど、なんか凄い事になってるなぁ…」


 正直に言ってしまえば彰吾は諦聖達に関わる気が欠片もなかった。

 しかし状況的にアズリスが関わっている事がなんとなく予想できていたので、情報が遅すぎて致命的な結果になる可能性もある。そこまで考えると動かずにいるのは悪手だと考えて彰吾は近くでリアルタイムで確認する事にしたのだ。


 そしてアズリスの関与を証明するように諦聖達の前にある女神像は、この世界に来る前に合った子供のようだったアズリスを少し大人にしたような見た目だった。

 

(…そんなに子供に見られるの嫌だったのか…)


 自分の信者にすら姿を偽るほど子供の姿を嫌っていたのか…と彰吾は驚きだった。

 だが今回の件で一番の問題は装備を受け取ると共に諦聖達の体へと馴染むように入って行った女神のオーラの方だった。


「あれって体に作用してるのか、精神にまでなのか…そこが分かんないと動きようがないな…直接調べればわかる可能性もあるけど、接触したくないしな~」


 あの難あり女神のアズリスなら変な事をしでかしてもおかしくない。

 そう考えているからこそアズリスのオーラを受け取った諦聖達へと何か予想外の干渉を受けていない保証ができなかった。会った時ですら彰吾を嫌っていて暴走気味だったアズリスだから、何か魔王に対して不都合な何かを起こす仕掛けをしていないは判断できなかったのだ。


「俺にと言うよりも、魔王っていう存在の天敵…勇者か…この感じだと結城がそうかな。あいつなんか正義感だけは強かったし、それで桜御が聖女って感じか」


 よく物語などである魔王を倒しうる存在から職業はなんとなく想像できていた彰吾は、女神が贈った装備を基に誰がどの職業となったのかを予想した。

 元々の地球での性格なども特別親しくしていたわけではなかったが、目立つ面々だっただけになんとなく把握もしていた。だからこそアズリスが選びそうな職業くらいはなんとなくわかったのだ。


「正攻法なら育つ前に潰すのが一番早くて安全だけど、別にそこまで脅威には感じないから放置でいいか。戦うと決まったわけでもないし、さすがに敵対関係にも成っていないのに顔を知っている奴を殺すのは気が引けるしな~」


 そう言って横になった彰吾は普段よりも近い太陽が少し眩しいのか目を細める。


「明るいなぁ……」


 光を遮るように手で目元を隠しながら、彰吾は次に自分のとる行動について考えていた。


「はぁ……めんどくさ」


 そして漏れ出たのは偽りのない本音の一言だった。


(今後どうするにしてもすべてで何かしら俺が直接動く必要が出てくる。まだ接触できてない亜人も多いし、そこに勇者だの人間の国家だのが加わって、この感じだとシルヴィアも何か動いてそうだし…)


 今までの流れから考えてアズリスのやる事をシルヴィアが何もせずに見逃す、そんな事が想像できなかった彰吾の頭の中には『ふふふ!』と不敵な笑みを浮かべるシルヴィアの姿が簡単に目に浮かんだ。


「どうせ今も見て楽しんでるんだろうなぁ~」


 こうして悩む自分の姿も楽しんでいるだろうと想像して彰吾は更に憂鬱な気分になる。とは言っても、だからと言って何もせずにいると退屈だとかdえ強制的に動かざる状況にされないとも限らない。

 愉快犯的な性格をしていても相手は『神』なのだから。


 極限まで考えた結果すらも後出しで強制的に変えられてしまう可能性すらあるのだ。

 なら何もせずにいるよりも現状できる最善で、比較的楽な未来に繋がる道を彰吾は選びたかった。


「ひとまずは、やっぱり様子見しかないだろうな。人間達に接戦して干渉して敵対関係に拍車をかけると、切羽舞った状況だと勘違いしてあいつ等を特攻させてこないとも限らないからな…」


 この世界の人間が亜人に対してやっている事を見聞きしている彰吾だからこその結論。

 『人間種主情主義』と言っているだけに他種族に対しては一切の容赦がなく、見た目こそ人間種だけ諦聖達は結局は『』なのだ。


 極端ではあるが他種族と認識して行動する者が現れてもおかしくない。

 特に追い詰められて自暴自棄にでもなれば考えなしの行動もするだろう。


「負けないだろうけど、さすがに殺さずに拘束できるかは…分からないからな」


 命を捨てる覚悟で挑んでくる者が何人も挑んできて、そこに女神による干渉でもあればさすがの彰吾でも不覚を取ってしまう可能性は想定ではかなり高い。

 そんなリスクの高い賭けに出る必要は彰吾にはない。


「監視の強化は必須として、更には亜人達との協力関係をもう少し急いで広げるか…何かあった時に取れる手段は多い方がいいしな…」


 いままでは最低限でも頼まれごとの『亜人の保護』をできればいいと思って行動していた彰悟だったが、さすがに本格的に人間達や女神までもが動き出した事でようやく積極的に動く決意をした。

 亜人の国や集落の位置は人形達を放った時に確認してあり、現在は人間達に極端な迫害を受けていないかの監視しかしていなかった。


 しかし本格的に人間達と敵対する事になる可能性も考えて、先に亜人の国々と友好関係を築いておくことが必要だと考えたのからこそではあった。


「まずは比較的近いしエルフの国に行くか」


 そう言って彰吾はドラゴン型人形に指示を出して方向を変える。


「さて~着いたら起こして…くれ…」


 方向が変わったのを確認して彰吾はやる事もなくなったので、専用の枕まで取り出してクロガネに到着したら起こすように言って眠りにつくのだった。

 

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