第116話 教皇からの頼み
「皆さん食事はお口にあいましたか?」
食事などが終わってから1時間ほど後、再び治療室へとやってきたドルトス教皇は優し気な笑みを浮かべながら当たり障りのない話を始める。
「はい、とても美味しかったです」
代表するように一歩前に出て答えるのは諦聖は同じように笑みを浮かべてはいるが、どこか緊張なのか警戒なのか高い印象だった。
その表情を見てドルトス教皇は考える。
(さすがに簡単には警戒は解いては貰えませんね……ですが、せめて確認だけはしなくては…)
いまだに一目見て若い子供である諦聖達に自分達の命運を託せるだけの力があるのか?と言う疑問は無くなる事はなく、他の教会上層部でも意見が大きく割れている。
だからこそドルトス教皇は疑うだけではなく、地位のある人間として確認できることを模索して証明する必要があった。
そして能力の確認以外にも1つだけ特殊な方法があった。
しかし急に提案したところで快く受けてくれるか分からない。だからドルトス教皇は慎重に信頼関係を築く事を優先しようと決めていた。
「まだ混乱も強いでしょうが、私から現状を説明しても構いませんか?」
「……お願いします」
少し健太達に視線を送ってから諦聖は説明を望んだ。
意味の分からない現状に恐怖もあったが何も分からない状態の方が怖かったのだ。
雫も部屋の隅にはいても話の内容には興味があるようでしっかりと話を聞いていた。
「では、まずは私としても今の君達の状況を正確に把握しているわけではない事は理解しておいてほしい。私が説明できるのは現在分かっている範囲だけの話でしかない…それでもいいかね?」
念のために再度補足まで加えてから説明をしていいのかをドルトス教皇は最終確認した。それでも諦聖達の答えは変わらず全員が大きく頷いた。
「わかりました。まず皆様を呼んだのは私達ではなく、女神様が我等に迫る脅威を前にして遣わせてくれた『希望』であると考えられています」
「「「「「…?」」」」」
希望だとか言われても何を言っているのか諦聖達は理解できず、全員でそろって首を傾げていた。
「自覚がないのも無理はないでしょう。しかし皆様が現れた魔方陣は神託が下るまでは存在が確認されておらず、神託の後に現れ…そこから皆様が現れたのです」
諦聖達が魔方陣から現れた時の事を思い出して、どこか感動とも違う強い感情を滲ませるドルトス教皇の反応に諦聖達は反応に困る。
なにせ希望と言われても非力な高校生でしかない。
特殊な能力があるわけではなく、戦闘力なんて平和だった日本で軽く格闘技をかじったことがあるだけだ。何か特殊な知識などを身に付けているわけでもない、本当に少し目立つ整った見た目はしているが、結局はそれだけの高校生でしかなかった。
なのに『これから皆さんは私達の希望です!』って感じで言われても、受け入れる事なんてできる訳もなかった。
困惑している諦聖達の反応にドルトス教皇は優し気な笑みを浮かべる。
「急にこんなことを言われても困惑するだけでしょう。ですが、そういう神託があったのち現れた魔方陣。そこから現れた皆様は私達にとっては間違いなく希望だと思えるのです」
「ですが、俺…私達はただの学生でしかないですよ?」
ついには必要以上の期待を向けられて諦聖は否定するような事を口にする。
「気持ちは分かりますが確かに神託があり、導かれるようにして今日!皆様はこうして召喚されました‼確かに、まだ私共も確証はないのですが…それでも女神の用意した魔方陣から召喚されたというのは事実なのですよ」
「そうは言われても…」
女神だ何だと言われたところで実際にあった事などなく、魔方陣から現れたなどと言われても気絶していたのでそんなもの覚えていない。そんな事情もあってどんなに言われようと『希望』なんて言葉を背負えるわけもない。
だからこそ熱の入ってくるドルトス教皇とは反対に、諦聖達は深刻そうに暗く沈んでいた。
「そこまで深刻にとらえる必要はないですよ。希望とは言っても、すぐに何かをして欲しいという事もないのです。なにより私としては、まだ年若い皆様に無理強いなどはしたくないので…」
本心から出た言葉にドルトス教皇の顔にはどこか後悔しているかのように暗かった。関係のない別世界の、しかも子供を希望として仰ぎ頼らなければいけないような状況は本意ではなかった。
それだけに女神を疑ってはいなかったが子供を呼んだ判断にだけは眉をひそめた。
「ですが、まだ災厄は降りかかってきていません。今後も起こるかも分からない状況でしたが、こうして皆様が召喚されたことで災厄も本当に起こるのだ…と判断できるのです。だからこそ女神の言う希望が皆様の事なのか確認させては貰えないでしょうか?どうかっ」
そう言って教会の最高権力者であるドルトス教皇は恥も何もなく、諦聖達へと頭を下げて頼んだ。なにせ言った通り『希望』が神託の通りに現れたなら、『災厄』も神託の通りに起こる証明になる。
今までは神託を理由に各国へ働きかけてはいたが、大きく人類にとっての災いが起きているわけでもない現状では協力的ではない国も多かった。
しかし神託の一つが本当に起これば説得力は増して、全人類国家での協力が実現できる可能性が高まるのだ。
そのためなら恥など気にしている場合ではないとドルトス教皇は判断したのだ。
もっとも急に最高位の権力者から頭を下げての提案に諦聖達は許容量を超えたのか、全員が困ったようにお互いの顔を見合わせる。
ただ断ることなど保護してもらっている立場の諦聖達に取れるわけもない。
「えっと、危ない事でないのなら…」
「本当ですかな!?」
「は、はい」
少し考えて全員で話し合って出した答えにドルトス教皇は本当に嬉しそうに安堵の笑みを浮かべる。
「では、この世界についての説明などは少し移動しながら話しましょう。私の後に着いて来てください」
そう言って先導するようにドルトス教皇はゆっくりと治療室の外へと歩き出す。
まだまだ説明も足りていない、どう行動すればいいのかも分からない現状では諦聖達に他に選択肢などなくまだ少し怯えながらもドルトス教皇の後に着い移動を開始するのだった。
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