第117話 希望の証明
治療室を出たドルトス教皇を先頭にした集団は、召喚の魔方陣の在った部屋へと向かっていた。
現在は昼を少し過ぎたくらいなので月の明かりの入ってきていた天井からは、綺麗に輝く太陽によって部屋の中は隅々までよく見えるようになっていた。
経年劣化で少しボロボロになっている所が目立つが、比較的状態は良く壁などについている彫刻などは原型を保っていた。
それでも表面には苔や草が生い茂っていて長年人の手がろくに入っていなかった事を証明するようだった。
「なんだか世界遺産とかみたいだね」
「だな。あれもなんか教科書に書いてったやつ思い出すな」
高校生だった諦聖達は完全に未知の古代遺跡に場違いだが観光地に来たような心持で周囲を忙しなく見回していた。無邪気な反応を見せる諦聖達に周囲の者達の視線は余計に懐疑的なものに変わってしまう
もっともドルトス教皇が周囲を軽く威圧し続けているので態度に出すような物は出てきていなかった。
そうして部屋の中心。
召喚の魔法陣があった場所の中央へと着いた。
「奥の壁をご覧いただけますか」
「壁ですか?」
そう言ったドルトス教皇の背後にある壁はぱっと見では他の壁と変わらないように感じるが、しっかりと見ると他の壁とは違いどこか新品のように綺麗で何か細かい装飾のような物が彫り込まれていた。
よくよく見ると真ん中に線が入っていて開閉する事が判明した。
「こちらも皆様が召喚されると同時に変化。現在に至るまで色々な方法で調べましたが、開くことはおろか中を見通す事すら弾かれて満足に行う事すらできていないのです」
「もしかして…」
「はい、皆さんには壁のように見える扉を開けてほしいのです」
これこそがドルトス教皇が考えていた諦聖達の神託の『希望』であると証明するための方法だった。
召喚と同時に現れたのだ何の関係もないなんてことあるはずもなく。
だからこそ何かある!と思っているからこその提案だった。
もっとも急に話を振られても諦聖達は状況について行けずに困惑気味だった。
「この壁、というか扉を開けばいいのか?」
「俺に聞くなよっ言われてもよく分からないんだから」
「右に同じく~」
諦聖は冷静に状況を確認しようとするが他の者達は難しい事を考えるのが元々得意ではなく、軽い確認のような諦聖の質問をも流してしまおうとしていた。
ただ雫だけは話を聞いていたのだが1人だけ貧乏くじなどひきたくはないので、なにか話すことなく大人しく状況が動くのを待っていた。
「特に気負う必要はありませんよ。もし開ける事が出来なかったとしても、それで急に放り出したりはしませんから。気楽に試すだけでもいいんです」
いつまでも動こうとしない諦聖達を見て、少しでも背中を押そうとドルトス教皇は人のいい笑みを浮かべながら言った。もっとも別に嘘と言うわけではない。
希望ではなかったとしても異世界より召喚された者達だ。
存在そのものが貴重で解剖などはしなくても、話を聞いたり魔術で調べるだけでもなにか見つかるかもしれないのだ。貴賓のような扱いはできないが、それでも客人程度の扱いは続けるつもりだった。
なにせ職業が『勇者』と『聖女』なのだ。
変な扱いをして神からの怒りなど誰も買いたくはない。
そんな思いも少し入っていて不思議な説得力のあったドルトス教皇の言葉を聞いて、諦聖が代表して決断する。
「……分かりました。では、挑戦するだけでも…みんなもいいよな?」
「おう!」
「は~い」
「わかったわ」
「…うん」
1人で決めたことではあっても諦聖は最後には雫などにも確認を取り、全員が頷いたのを見ると安心したように小さく息を吐きながら言われた通りに奥の壁へと向かう。
「よし、行くぞ?せ~~のっ」
諦聖の声を合図にして5人全員が壁に手をついて押すと、眩いほどの光を放ち始め。大した力を入れていないのに壁は開き始めた。
すると同時に中からは強く、不思議と礼をしたくなるような強いオーラが漏れ出し始めた。
「おぉ……やはり…女神よ!」
そのオーラに包まれて感極まった様子のドルトス教皇は膝を付き、両手を組んで祈り始めた。広がるオーラに触れた教会の信徒達は次々と反応の大小の違い話あるが、皆一様に祈りを捧げていた。
もはや誰も部屋の中を見る必要もなく、諦聖達を神託の『希望』だという事を疑う気持ちなど残っていなかった。
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