第112話 召喚者を見た魔王
「うわぁ……めんどくさっ」
夜中に急に飛んできた虫人形の一体から情報を受け取った彰吾の第一声は、そんな心の底から絞り出したようなものだった。
もはや考える事すら嫌になったのかテラスの淵にぶら下がるように寄りかかって、逆さまに見える満点の星空を見上げていた。
「あぁ―――なんで来ちゃうかなぁ~いや、犯人?犯神?は予想できるけどさ…」
疲れたようにそう言った彰吾の脳裏には自分が魔王と成った時に合った2柱の女神。そのうちの1柱の小さな子供のように見える転生の女神『アズリス』が自分が来たことに怒っていたと言う光景だ。
最後には納得して送り出しているように見えたが、結局はダメだったという事だ。
「はぁ…見た目は子供でも、神なら大丈夫だと思ったんだけどな」
見た目や話し方などは子供のように見えても、神としての圧倒的なオーラを纏っていたから彰吾も大丈夫だと安心していた。なによりもう1柱のシルヴィアが狂気は感じても、それ以外はまともそうに見えたから油断してしまっていた。
だからこそ、こうして神からの干渉としか思えない。しかも見覚えのある5人の姿を見た瞬間にアズリスの仕業だと確信したのだ。
「さて、今後どう動いたら良いかな~」
ただ神の事なんて考えた所で何かできるわけでもないし、すぐに頭を切り替えて今後どう動くべきかを考え始めた。
「遠隔だと鑑定できないから強さは分からないけど異世界転移のテンプレとか、あの神は外さないだろうしな」
さすがに彰吾も人形兵に自身の持つスキルを付与する事は出来ていない。
もしできても遠隔で鑑定するように命令を出す事は出来ても、その鑑定結果を確認する方法がない。人間の街を監視しているのは虫型や獣型で紙に書くこともできないからだ。
それでもステータスやスキルの表記なんかに魔王と言う設定、これらを考えれば召喚された奴等には魔王に対抗する者と設定しているだろうと予想が付いたのだ。
「1人は話してたし聖女で確定、他は勇者とかそんなところだろ。能力値がどのくらいか分からないから判断はできないけど、弱くはないはず…」
確実性のある情報はなに1つないけれど彰吾は可能性の高い仮説を立てて、今後の人間側の動きを考える。
「強い力を持つと判明した場合は…より攻勢を強める?いや、レベルを上げるまでにはそれなりの時間を必要とするだろうから…」
強い力を手に入れた人間は短絡的な行動に出る可能性が高いと一瞬考えて、すぐに否定する。強い力を持っていても彰吾がすでに見せている力は簡単に勝てるようなものではない。
その事を人間達が理解しているのなら早急に行動する事はないと判断した。
「でも、大人しくしているとは限らないか…」
実力差を理解しているからと言って、大人しく待っているとは到底思えなかった。
これまでに見た人間達の動きから考えると『亜人を悪しき存在だ』とか吹き込んで、亜人の村などを襲う可能性が高い。
もちろん簡単に信じるとは限らないが洗脳・脅迫・従属化などなど、いくらでも魔法のある世界で人間のやってきた事を見れば方法など無数に考えられる。
それだけに『亜人の保護』を引き受けている彰吾としては少しでも可能性があるなら備えなくてはいけないのだ。
「はぁ…強さは分からないけどハルファと同程度の強さだと想定して備えるか、まずは知れる限りに亜人の村や集落の位置の把握。それらの保護が必要だなぁ……めんどくせぇ~」
今回の召喚のせいで増えたやる事の多さに彰吾はどんどんストレスを積み重ねていき、不機嫌になっていった。
だからと言って手抜きをするわけにもいかないから、なんとか気合を入れて翌日までに自分の取るべき行動を決めるため。今後に起きるであろう事と、それに必要な対処法を可能性の高い順に並べ、そのために必要な備品や人形兵の数を考えて準備するために1日全部を睡眠にあてた。
なので実際に動き出したのは情報が伝わってきてから2日後だった。
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