第111話 鑑定不能
どれほどの時間が経ったのか、静まり返った医務室へと繋がる廊下から走るような足音が響いてくる。
「鑑定師を連れてきました‼」
「すぐにこちらへ!」
慌ただしく扉を開いて入ってきた神官の言葉を聞いてドルトス教皇は、瞬時に呼びかける。その声に反応して道を塞いでいた者達は端へと避けて通り道を用意する。
同時に入ってきた神官の男は後ろに振り返って、遅れている鑑定師の腕を掴んで引っ張ってくる。
「そんな強く引っ張らないでくれっ!体は丈夫な方じゃないんだってぇ」
引っ張られてはいってきたのは30歳ほどのひょろっとした細身の男だった。
顔中に汗を浮かべて青染め、今にも倒れそうに見える男だが胸には冒険者ギルドと商業ギルドの連名でしか発行されない公認鑑定師の証である目を模ったバッチが輝いていた。
このバッチは階級章にもなっていて、よくあるように鉄・銅・銀・金・ミスリルと言ったように実力を表す。
今回連れてこられた男のバッチは銀でベテラン程度の実力、早急に呼び寄せる事の出来る者という条件では最高位のミスリルは無理だった。それでも鉄以上なら他者のステータスを見る事はできるので十分だと判断されて連れられてこられたのだ。
「はぁ…はぁ…っそれで、私が鑑定するのは…どなたですか?」
なんとか息を整えて鑑定師の男は早速とばかりに本題に入った。
礼儀的には雇われる立場の鑑定師は自己紹介をしても良かったが、その場に居る面々を確認した瞬間に省くことに決めたのだ。
(教会の上層部が勢ぞろい…しかも辺境の遺跡に?面倒事の匂いしかしねぇ~)
なんて思いながらも、破格の報酬に釣られてのこのこ来てしまったのだから自業自得だった。
だから、せめても深く巻き込まれないように自身の名前だけでも伏せておく事にしたのだ。もっとも通常時だったら普通に聞かれて意味のない事だったろうが、今は普段使うような専属でもない者を急遽呼び寄せるほどの事態の最中だ。
ゆえに聞かれることはないだろうという数十年に及ぶ鑑定師としての経験からの判断だった。
そして判断は間違っていなかった。
「こちらの5名を鑑定してもらいたい。名前・職業・称号の3つが最低でもわかれば、追加で100万払います」
「っ!?分かりました!任せてください!!」
目先の金に勝てない男は、この場の異様な状況などはもう頭から抜け落ちてすぐさま鑑定に取り掛かる。5人のベットのちょうど中央に立って、1人に着き10秒ほどの集中をようして確認した。
『鑑定』
静かにつぶやくと男の目に魔力が集中してスキルが発動、少しして鑑定の結果が出たのか男は腰の鞄からメモ帳を取り出して書いていく。同じことを5度繰り返し鑑定の終わった男は先ほどまで以上に疲弊していた。
「はっ…はっ……お、おわりました」
そう言って男は鑑定結果の書かれたメモ帳を近くまで寄ってきていたドルトス教皇へ手渡した。
メモを受け取るとドルトス教皇はすぐに目を通した。
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1・
2・
3・
4・
5・
―――――――――――――――――――――――――――――――
「勇者に聖女!?」
「「「「「「!?」」」」」」
そこに掛かれていた『勇者』と『聖女』の職業を見てドルトス教皇は思わず口に出して驚き、同じく聞こえた内容によって周囲にいた神官達も驚愕の表情を浮かべる。
唯一、鑑定師の男だけはなにに驚いているのか理解できなかった。
だが理解できない鑑定師の男など無視してドルトス教皇は状況を進める。
「……この内容の一切の口外を禁止する。もし破れば誰であろうと命はない物と心得なさい」
「「「「「「畏まりました」」」」」」
「え?え??」
完全について行けない鑑定師の男を置き去りにして、どんどん物騒な空気が医務室を支配していった。
そして話がひと段落するとドルトス教皇は鑑定師の男へと向き直り、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「貴方も、帰すわけにはいかなくなりました。しばらく身柄を預からせてもらいますよ」
「は?」
「連れて行きなさい」
「はっ!」
指示に従って控えていた聖騎士達が鑑定師の男の両腕を抱え込むように持ち上げて引きずっていく。ここまできて自身がようやく、どんな状況に置かれているのかを理解してようで鑑定師の男は暴れ出す。
「ちょっと!?は、離してください⁉」
「……」
もっとも非戦闘職の鑑定師の力などで生粋の戦闘職、その中でも上級職の聖騎士に力で勝てるわけもなくどこかへと連れていかれてしまうのだった。
そうして少し人数の減った医務室でドルトス教皇は鑑定の結果の書かれた紙を再度見る。
「鑑定不能……」
称号は基本的に世界がその者の功績を称えるために付与されている。
などと言われるもので、例え鑑定レベルが2だったとしても称号だけは誰でも鑑定する事が出来ていた。なのに今回は名前や職業はわかったのに『称号だけが鑑定不能』と言う結果に強い違和感を覚えたのだ。
しかし現状では違和感の正体を確認する術はなく。
どうしても称号を知りたければ方法は一つしかない。
「できるだけ早く、体のダメージは最小限に抑えて彼等の意識の回復を急ぎなさい。もし目を覚ましたのなら一番に私の基へ連絡を」
「畏まりました!」
「任せましたよ」
もはや当事者たちが眼を覚ますまでは自分がいてもやる事はないと判断して、ドルトス教皇は指示だけを出して他の終わらせるべきことへと向かうのだった。
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