第110話 希望?


 遺跡内に用意された状態を清潔に保たれた急造の医務室。

 そこには魔方陣から現れた少年少女5人がベットに寝かされていた。


「様子はどうですか?」


 医務室に現れたドルトス教皇は5人の診察をしている神官達へ確認する。

 声を掛けられてから教皇がいる事に気が付いたらしき神官達は全員が驚きの表情を浮かべ、すぐに姿勢を正してお辞儀する。


「教皇様っ!」


「挨拶は結構、それよりも説明を」


「畏まりました。ですが、今のところは変化はありません」


 急かすように説明を求められても少しの動揺もなく、教皇に近かった神官の1人が代表するように答えた。もっとも今は何か報告できるほどの変化はなく、5人共に気絶したままだ。


「そうですか…」


 説明を聞いたドルトス教皇は短く言うといまだ意識の戻らぬ少年少女達を見て思う。


(本当にこんな子供達がなのですか?女神よ…)


 これは魔方陣から幼くはないが若い少年少女が現れたのだ。

 女神からの『希望』なんていう言葉に期待していただけに、その場にいた全員が落胆とまではいかないが不信感のような感情が芽生えてしまった。


 教皇と言う立場で敬虔な信者でもあるドルトスをして少なからず信じていいのか迷いを生じてしまっているのだ。他の神官達など余計にだった。

 だからこそドルトス教皇は何か根拠になるような事を見つけようと少し焦っていた。


「……鑑定師を至急で呼びなさい。彼等を鑑定してもらいましょう」


「っ畏まりました」


 ドルトス教皇の言葉を聞いた神官の男は一瞬だが驚きの表情を浮かべながら了承して走り出した。

 部屋に残っていた者達はドルトス教皇の考えを少なからず理解しているのか、複雑そうではあっても動揺している者はいなかった。ただ、やはり中には伝令に出た男と同じように驚いていた者も多かった。


 それは『鑑定師』と言う職業に理由があった。

 この世界ではレベルさえ上げればよほど適性がない限り、鑑定などの汎用性の高いスキルは誰でも習得する事が可能だ。でも、危険が地球とは違い身近な世界では戦闘スキルの方を優先する者が多い。

 単純な話として植物や生き物に道具の詳細を知るために鑑定スキルの育成ばかりに時間を使うと、戦闘スキルや生産スキルなどのスキルレベルの上がりが極端に悪くなってしまう。


 だから習得している者でも大抵はスキルレベルは1~2と言ったところで、それでも物の価値は正確にわかるし、なにより自分の持つスキルの公かなんかは確認できるので満足してしまうのだ。

 でも他者のステータスを確認するためには最低でもスキルレベルが3~4ないと難しく。


 更に他者のステータスを詳細に調べるには7~8ものスキルレベルが必要だった。

 

 ここまで説明すればわかってくるだろう。

 つまり鑑定師とは鑑定スキルのレベルを7以上にまで鍛えた。鑑定を専門として活動する職業の者を指すのだ。

 しかし説明した通り鑑定だけを鍛えるのは決して楽と言うわけではなく。

 特に7や8なんていう高レベルに1つのスキルを鍛えるのは戦闘系ですら難しく一握り。ゆえに絶対数が少なく頼むとしても法外な値段を要求されることが多く、よほどの事でもない限りは避けられていた。



 特に権力者などは知られたくないことまで鑑定で調べられてしまう可能性もある!と思い、基本的に野党としても自身の居る場所には呼ばずに第三者を挟んで頼むのがほとんどだった。

 ドルトス教皇も今までは鑑定師と関わる時はそうしてきたのだが、今回ばかりは保身などを考えている余裕はなかった。


「これで少しでもわかると良いのだが…」


 静かに漏れたドルトス教皇の一言にはどこか切実な願いのような物がこもっていた。

 声の聞こえてしまった者達はドルトス教皇と同じように何かに願うように静かに目を閉じ、鑑定士がやってくるまで医務室は物音ひとつしない静寂に包まれるのだった。

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