第107話 種族会議《前編》


 そして彰吾がスキルの修練に夢中になっている頃、エルフの代表者アイアスや妖精達の代表エイシャを始めとした各種族の代表者が集まって話し合いをしていた。

 場所は草原エリアにある彰吾が話し合いの場として用意した洋館の一室だった。


「それでは今週の種族会議を始めよう」


 部屋に集まっている者達を見回してアイアスが宣言する。

 この会議は元々はアイアスとエイシャの2人が始めたご近所付き合いのようなものだったが、いつの間にか魔王城に技術提供に来ていたドワーフが参加していて、今回の保護した各種族の者達も気が付くと参加していた。

 そうして気が付いた時には結構な人数になって『会議』と言う形を取って集まるようになっていた。


「最近はどうだ?特に小人族と巨人族、もう大丈夫か?」


 集まっている中でアイアスが特に気にしたのが小人族と巨人族の2種族だった。

 小人族の代表は保護を申し出た時に最初に許可を求めに来た少年のような見た目の『ミース』と言う。今はあの時のように廃れた様子もなく綺麗な服に身を包み、まるで良い家の子供のようになっていた。


「今は問題ないです。魔王陛下が住む場所を離れた場所にわざわざ用意してくれたので」


「うむ、こちらも同じく問題は起きていないようだ」


 ミースの言葉に続くように聞こえた声は屋敷の外からで、そこには二階建ての民家サイズの胡坐をかいて座る巨大なお爺さんがいた。

 彼が巨人族の代表者である『ガイダロス』と言い、顔が濃い髭に覆われているが他は程々に整えられて普通のお爺さんのように見える。来ている服も彰吾が巨人族サイズで創り出した通常の服なので大きさが普通なら、本当にどこにでもいるお爺さんに見えただろう。


 そんな2人の言葉を聞いてアイアスは安心したように肩の力を抜く。


「そう言う事ならよかった…」


 ここまで気を使うのには理由があった。


 それは保護した初日の夕方の事だった。

 どんな特性を持つ種族達なのか正確には把握できていない彰吾は、一先ず全種族の生活環境を一区画に纏めて造った。すぐに各種族に合わせた居住環境を整える予定だったのだが、その前に起こった事が巨人族が小人族を踏みそうになることが多発してしまった。


 普通のサイズの相手でも巨人族からするとよく見えない、だから小人族なんてなおさら見難かった。

 そのせいで日に10回以上も踏みそうになる事が続き、ついには小人族達が協力して巨人族に文句を言いに行く騒動にまで発展してしまったのだ。


 小さい相手を見下すような者も少数だが存在する巨人族は、その事に腹を立てた物が強く地面を踏みつけて小さな地震のような現象を起こして、衝撃で小人族の何人かが一斉に転んでしまった。

 しかも巻き込まれるように他の種族も倒れる者がいて、結果として他の種族対巨人族のような様相になっていた。


 もっとも戦いにまで発展しそうに成ったところを、近くで見守っていた人形兵達に力尽くで制圧。

 その後に騒ぎによって眠っていたのを叩き起こされ、ものすごく不機嫌そうな彰吾が現れたのだ。


 その場に居た者達から話を聞いた彰吾は一言『しょうもな…』と静かに漏らし、すぐに魔王城へと戻ると入れ替わりで建材と彰吾からの手紙を持った人形兵だけが戻ってきた。


 手紙には…

『巨人族用の居住区を別で造るのでそちらに移動、距離は少し離れるが騒動の罰としてしっかり歩いて向かえ。他の者達に関しては、同じく騒動を起こした罰として明日の朝から巨人族住居の建設へ協力する事』と書かれていた。


 少なからず反抗的な態度をとる者も居たが、大半の者が安全な場所を提供してくれた彰吾に感謝していた。なによりも『今回の騒動はどう考えても大事にしすぎた自分達にも責任がある』と考える大人が多かった。

 そんなこともあって全員が大した反抗もすることなく彰吾からの指示に従う事にした。


 その後に彰吾は『また問題が起こった時には話し合いで解決しろ』と言って作ったのが、今使っている洋館だった。


 と言うような大変な出来事にエルフの代表として巻き込まれていたアイアスは、もう問題が起こっていないかを気にしていたのだ。


「では、問題ないってことなら次の話に移るか…」


 大きな問題が起こっていないことに安心したアイアスは、次の話題へと移る事にした。

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