第91話 獣王 対 魔王《開戦》


 軽い挨拶の握手を交わした彰吾とハルファの2人は、まだ混乱して動くことのできない周囲の者達を置き去りにし決闘の為に用意した場所へと一緒に移動する。

 そこは荒野の中でも不自然なほどに大きな岩や、小さな木々すら存在しない。広く1㎞ほどを正方形に切り抜いたように整地されていた。


 そんな場所で向かい合うように立つとハルファは好戦的な笑みを浮かべる


「さて、変に外野が騒ぐ前に始めるとするか」


 周囲に誰もいないのを改めて確認して話すハルファの顔には溜まりに溜まった鬱憤を発散するために笑みすら浮かんでいた。

 ただ、やはりと言うべきか人の感情を読むことが苦手な彰吾は無自覚に挑発する。


「俺は構わないけど、そちらはいいのかな?噂の挽回とか色々大変だろう?」


「白々しい…噂の出どころはお前だろうっ」


 彰吾本人としては気を使った提案のつもりだったが逆効果もいいところで、目元をひくつかせながらハルファは彰吾の顔面目掛けて全力で殴った。だた拳は彰吾の顔に当たる寸前で止まって、そのことは予測出来ていたようで彰吾は余裕の笑みを崩すことはなかった。


「ほらほら、冷静にならないと危ないぞ」


「……なにをした?」


 余裕な態度の彰吾に対してハルファは得体の知れない者を見るように睨みつけるようにしていた。

 なにせ今の拳は止めるつもりはなく、むしろ更迭すら綺麗にくりぬけるよう程度の力は込めてあった。だというのに感触はまるで優しく綿毛に包み込まれたような感触がして、気が付けば威力が完全に死んで止められていた。

 そんな気味の悪い感覚を味わったことなかっただけにハルファは警戒心を大にしていた。


「それは自分で考えなっ!」


 ただ聞かれたからと言って彰吾が正直に答えるはずもなく、無駄に良い笑顔を浮かべながら今度は彰吾から攻撃を仕掛ける。とは言っても武器を使ったり特殊なことをするわけではなく、先ほどのハルファと同様に単純な拳での攻撃を放つ。

 その速度は緩やかでとても軽く手を当てただけでも止められそうなほどだった。


「はっ!こんなもの……っ⁉」


 受け止めようと出したハルファの手は彰吾の拳と当たろうとした直前、まるで何かに流されるかのように手は拳の正面からずれて素通りで拳が顔に迫る。

 咄嗟に自慢の身体能力で直撃する前に首を傾ける事で躱した。


 しかし少し掠って頬が裂けて血が薄っすら流れる。


「何をした、いや…何をしている?」


「それを考えてるのも戦いのだいご味だろ!」


「それもそうだな‼」


 そう言うと彰吾とハルファの2人はどちらともなく大会は再会し、攻撃の手が急激に激しくなる。

 彰吾の右側頭部を刈り取るように放たれた蹴りは、いつの間にか顔との間に腕を差し込んて受けきり。お返しとばかりに在りそ掴んで遠くに投げ飛ばす。だが空中で体を捻って態勢を整えたハルファは足に魔力を集中させて空中を蹴って彰吾へと攻撃を仕掛ける。


 これには彰吾も研究魂いに火が付いたのだろう目を見開いて、その動きは見逃すことのないように攻撃を本当にギリギリで交わしながらも観察していた。目の前を掠っていく攻撃の一つ一つが生身で無防備に当たる事があれば彰吾であっても少なくないダメージを味わう事は間違いなかった。


 なのに一切の躊躇なく、その命懸けの行動を彰吾は実行した。

 目の前で掠った髪の毛が数本中を舞うが、そんなことは関係ない!と言わんばかりに彰吾はよりギリギリを攻め続けた。


「はははっ!もっと見せてくれっ!!」


 そうしていまだに見た事のないような近接戦闘の動きを見れる喜びに勝つことができず、調べる事もためらわれたのだ。魔王と成ってから自分が直接戦うような事が無かったので、自身の実力を十全に使えるかもしれない!と言う好奇心から手を抜くことができていなかった。

 でも、それだけに2人の戦いは余波で地面が砕けていた。


 ハルファの身に付けていた鎧も砕けている。


「本当に当たらねぇなっ!」


 いつまで経っても当てる事の出来なくなった事でハルファは今までにないほど強い怒りを身に宿していた。それに呼応するように体を色の付いたオーラで覆い始めてた。

 あわせて拳一発の威力も徐々に上がってきてギリギリで躱すと巻き込まれて傷を負う可能性が高くなりすぎた。


「ふんっ!!!」


 その事に気が付いた彰吾は一度お互いに落ち居ついた方がいいと思い、地面を1度の殴りで砕いて土煙などに紛れて距離を取った。

 しかし開いた距離をハルファは食い潰して攻撃の手を緩めようとはしなかった。

 毎秒3~5発殴ってくる相手に彰吾も殺さずに対処するのに苦労していた。


「めんどくせぇ…どこかで気絶させるか?」


 なんて少し物騒な事が漏れてくるが実行には移さなかった。

 別に終生に渡ってのライバルを欲しているわけではないが、それに近しい者は何人と見つける事ができた。そう考えて、彰吾はハルファの攻撃を躱しながら次に何をするべきなのか必死に考えるのだった。

 

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