第85話 救いを求める亜人達《前編》


 森中の亜人達に呼び集めた彰吾は魔王城の門の上で最初の者が到着するのを待っていた。


「この森無駄に広いからな。今日中に全員終わると良いけどなぁ」


 退屈し始めていた彰吾は亜人達が森全体にこまごまと居たので、個人個人で向かってきている者が多いので余計に時間が掛かりそうだった。いまだに近くにいるクロガネに触る事でリアルタイムの様子を確認できるのだが、今の所大きな動きはなく全員が大人しくまっすぐに魔王城を目指して進んでいた。


「…問題は夕暮れ時と、森の深い場所だな…」


 周囲から極端に見えにくく視界が悪い場所などが森の中には無数に存在していた。

 そう言う場所に通りかかった時に襲い掛かるような者がいないか、強く見張るように虫・動物型人形達には指示が再度出された。


 そのまま更に1時間が経過すると森の中から時々魔力などの光が見えてくる。

 大半は日が暮れる前のキャンプの準備だが、中には人形達によって制圧された他の亜人を襲撃しようとした獣人などがいた。大半が攻撃しようとした段階で虫型人形達によって制圧され、なんとか回避した者が虫型人形に攻撃を仕掛けている光だった。


「バカだなぁ~」


 その様子を遠くから眺めて彰吾は呆れたようにつぶやくのだった。

 ただ別に警告したわけでもないのだから馬鹿な奴が出るのは仕方のない事だと言える。そうして呆れながらも待ち続けていると1組だけ休憩することなく進み続けていた小人が到着した。


「はぁ…はぁ…やった…つい、た」


 魔王城が目前に現れたことで気が抜けたのかその場に座り込んだ。

 見た目は麻のような髪に男女の区別がつきにくい可愛い幼げな顔。身に付けているのは見た目には不釣り合いな無骨な革鎧に、自身の身の丈はあるような杖だ。

 もはや気力だけで意識を保っているような状況だった。


 そんな小人の状況を見ながらも彰吾はどこまでも冷静に声を掛けた。


「最初に来たのはお前だな。名前と目的を言え」


「っ!?私はホルータ族の魔法師!名は『ミース』です。もはや逃げる当てもなくなった我等を助けいただきたく、お願いに参りました」


 動くのも辛いだろうにミースは彰吾に真摯に頭を下げて願う。

 小人族は200年はある寿命で死ぬその瞬間まで容姿が変わる事がない。ゆえに奴隷として人気が高く、人間達がこぞって競うようにして捕獲して回っていたのだ。

 そのせいでミースの部族の集落も元々の場所を追われて逃げ回っていたのだが、最近では同じ立場の亜人達にすら人間との交渉の手札として狙われるようになってしまい逃げ場がなくなってしまったのだ。


 当初は100人はいた部族は今では30人少々まで数を減らし、本当にもう絶望しかないと思ったときに届いたのが亜人の味方をしてくれる『魔王』と言う存在の話だった。

 もはや得体が知れない存在だろうがすがるしかない!と判断して、無事にたどり着くことが出来そうな魔法師のミースが送り出されたのだ。


 そんな事情を全部聞いた彰吾は納得したように頷いた。


「いいだろう。お前達を受け入れよう」


「っ!本当ですか⁉」


「嘘は言わない。これから私の兵を10体貸し出す、お前が責任をもって同族の待つところへ案内しろ。その後は護衛は私の配下に任せてゆっくりと戻ってくると良い、ここはお前達の帰る場所だ」


「ありがとう、ございますぅ」


 涙を浮かべ本当に嬉しそうに感謝を述べるミースは地面に顔を押し付けるようにして感謝を伝える。その間に彰吾はクロガネを通じて手の空いている人形兵10体に対し、先ほど言ったように指示を出してミースに付けて見送った。

 その後、同じような感じでエルフや小人に獣人などを迎え、同じように対処していった。


 そうしてなんと10組以上を見送って次にやってきたのは今までとは違う。

 金属の鎧と武具を身に付けた全体的にも健康そうな獣人族の5人組だった。


「ここが魔王とやらの居城か?」


「へぇ~こんな辺鄙なところにすげぇな~」


「ははは!噂にたがわぬ化物ってことかもね‼」


「うるさい…」


 現れた瞬間から他の者達とは違い悲壮感などはなく、騒がしく楽しそうに会話を続ける獣人達を見て彰吾は不快そうに眉間に皺を寄せる。


「お前達の目的と名前を言え」


「っ!貴殿が魔王か?」


「質問に質問で返すのがお前達の礼儀であると考えていいんだな?」


 完全に自分の言葉を無視して質問で返してきた獣人達に彰吾の不快感は増していく。

 対して獣人達も自分達の方が上とでも思っているのか怒っていた。

 中でも虎の獣人らしき男は怒り心頭といった様子で怒鳴り声を上げた。


「てめぇこそ新参が偉そうにしてんじゃねぇ‼」


「はぁ………お前らは喧嘩を売りに来たのか?」


「「「「「っ!!!!」」」」」


 ただすでに疲れている彰吾に無礼な奴を許してやるほどの余裕はなかった。

 体から威圧するように魔力を全力で獣人達にめがけて放つ。すると物理的に押さえつけられたかのように地面へとひれ伏し、力を入れても立ち上がる事すらできなくなってしまった。

 そして動けなくなった獣人達に再度、質問を投げかける。


「それでお前達の名前と目的は?」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る