獣人の国【ヴォルタート】
第84話 魔王城の変化
聖武具の解析や研究を始めてから1ヶ月が経過して、だいたいの事を知る事が出来てようやく解放された彰吾は久しぶりの自室で数日ぶりの睡眠をとっていた。
その眠りはあまりにも深く翌朝にメイド人形が拳を振り下ろしても起きる事が無かった。何をやっても起きる事のない彰吾はそのまま放置され、起きたのは更に1週間が経過した昼過ぎだった。
「………ぁ?」
久々の長時間睡眠で彰吾の頭は瞬時に動くことができず、眼もまともに開いていない状態でふらふら~と顔を洗いに行った。いつも習慣としていた事は染みついているようで、完全に無意識で動いていた。
それから数十分でなんとか寝起きの身支度を済ませた。
「あ゛ぁ゛~~~~怠い…眠い……動きたくないぃ」
ただでさえ動き続けだったところに、自業自得とは言え研究のために1ヶ月もほぼ不眠不休で拘束されて疲れがピークに達していた。肉体的な疲労は魔王としての回復力で残っていないが、精神的な疲労だけはどうやっても残り続けてしまう。
その不慣れな疲労感に彰吾が馴れていないからこそ余計に辛く感じていた。
もはや動く気力すらなくソファーに溶けるかのように横になって動く気配もなければ、眠れるような様子もなかった。
「………見るか」
大人しく寝る事も出来なくて彰吾は仕方なく、机の上で待機していた鳥や虫型の人形達を呼んで自分がこもっていた間の情報を受け取る。
ただ特質するほどの大きな動きはほぼなかった。
聖武具を奪われた教会の増援らしき部隊が戦闘跡を中心になって捜索しているようすだったが、魔王城は至近距離にならないと見えない結界で覆われているので発見されることは現状だとなかった。
だが問題なのは他の街にも同じように2~3小隊規模で部隊が派遣されているのが見えたからだ。規模としては大したものではないし、持っている武具もリューナ達と比べれば貧弱で役職のない人形兵に任せれば、同数程度で全滅させることが可能だろう。
彼等の目的は周囲の捜索と街の防衛であったようで街から出る事はほとんどない。
ただ合わせるようにして周囲の街の防壁が増強工事を始めているのを見るに、何かしらの思惑があってしている事は間違いないだろう。
そして彰吾にとって一番の問題とも言えるのが『亜人達の動き』だった。
亜人達は何処からか彰吾の存在を知ったようで魔の森の中に数人単位で動く者達が見えた。もっとも今までは彰吾が対応できなかったので結界が解除されることもなく、魔王城を見つける事が出来なくて接触してくることもなかった。
だが、単純に亜人が助けを求めてくるだけなら問題ないのだ。
元々の彰吾の使命は亜人の保護であるのだから、向こうから来てくれるのは自分から探しに行かなくてもいいという点でも助かる事であった。
なのに魔の森の中の様子を見た彰吾はめんどくさそうに顔を歪めた。
「なにやってんだ…こいつら」
複数の人形が目撃したそれは、万全の装備をした獣人達が人間の猟師などに襲い掛かる光景だった。他にも同じく魔の森のを魔王を求めて探し回っている他種族を見つけては奇襲をかけてまわっていた。
その上で何かを探すような動きも見せているのだから気味が悪かった。
「幸い、まだ亜人側に死者は出ていないけど…これはダメだな」
保護の対象ではあるが、あくまでも彰吾が助けるのは『人類に迫害される亜人達』なのだ。反対に相手を迫害して、他の種族全部を下に見るような者達を助ける義務は彰吾にはない。
「まずは結界を解いて、一先ずは全員と会って話を聞いてみるか」
もう完全に切り捨てるかに見えた彰吾だったけど、直接言葉を交わしたわけでもない相手を拒絶するのは違うな。と思った彰吾は城を見えるようにして、魔の森に居る全員を呼び出す事にした。
方法は簡単だった。
結界を解いて魔王城を視認できるようにしてクロガネを中継点にして、森中に居る動物型や虫型の人形から直接魔力によって思念伝達を行うのだ。
『亜人と呼ばれる者達よ。城の前に集まれ』
短い一文であったが魔の森に居る亜人達全員にまんべんなく伝わり、急に見えるようになった城へと目指して亜人達は一斉に移動を開始した。
その様子をリアルタイムで確認しながら彰吾は追加で彼等の近くにいる人形達に命令を出す。
『彼等を監視して、襲い掛かってくる者がいた場合、自分達から他の者に襲い掛かった場合では襲った側を排除せよ』
と言う単純な内容だったが、人形達は何処までも指示通りに行動する。
しかも人形には感情は薄いが独自判断ができるほどの思考能力があり、たとえ挑発して相手から襲い掛からせた場合でも挑発した方を倒す事を自身の判断で行えるほどだ。
「ひとまずは、このくらいか……俺はいつになったらゆっくり年中寝れるようになるんだ?」
誰も年中寝れるようになるとは言っていないのだが、いつの間にか彰吾の目標はそれになっていた。
そうして忙しい日々に憂鬱そうに向かってくる亜人達に対応するために移動するのだった。
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