閑話 聖武具研究


 そして時間は戻ってリューナ達から武具をうば…借りた彰吾は魔王城の工房区へと足早に向かった。

 ちゃんと個人工房も持ってる彰吾だったが、今回はの工房区にやってくる必要があったのだ。


「お~い!面白い武具を手に入れたぞ‼」


「なにぃ⁉見せろっ」


「儂にも見せろっ!」


「どんなん持ってきたんじゃっ!!」


 叫ぶように入った彰吾の声に反応して一斉に工房内に居たドワーフ達が振り向き、詰め寄って質問攻めにする。それを笑顔で流して彰吾は工房の中央にそびえる、ひときわ大きな炉へと向かった。

 そこでひたすら一心不乱に鎚を振るっているドワーフが2人居た。


「ふんっ!」


「そいっ!」


 近くに来た彰吾に気が付くこともなく2人は鎚を振るい続けていた。

 そして基本自由人の彰吾も物作りには思いなども理解できるので、作業がひと段落するまで静かに待つ事にした。

 最終的に終わるまでに1時間近く掛かった。


「おう、待たせて悪かったな」


「いや~久々に力作が出来そうで集中しとったわ!」


「別に気にしてない。それよりも…これ解析を一緒にやらないか?」


「「これはっ!?」」


 彰吾の取り出したリューナ達の聖武具を見た瞬間に2人は眼の色を変えて飛びついた。先ほどまで薄っすら浮かんでいた疲労など完全に消えて、残っているのは目の前の者への純粋な好奇心だけだった。


「人間どもが使ってる聖武具とかってやつじゃねぇか!」


「数は多くないみてぇだが、よく確保できたな!」


「でしょ!いや~気前のいい人がんだよ!」


((絶対に奪ってきたな…))


 自慢げに話す彰吾は笑顔だったが2人はまず間違いなく奪ってきたと確信した。

 なにせ聖武具とは人間種達の切り札に等しい決戦兵器だ。そんな物を敵対関係にあるであろう魔王に貸す者などいる訳もない事は誰にでもわかる。

 だが、ドワーフの中でもそれなりに顔の知れている職人である2人にとっては関係のない話だった。


「これは何の素材だと思う?」


「おそらく大剣の方はミスリルは確定だろうな」


「やっぱりそう思います?鑑定でもさすがに素材までは分からないんだけど、ミスリルは以前に見て分かったんだよ」


「魔王殿も職人として目利きの腕もかなり成長しておるようじゃな」


「だが、他の素材は儂等にもよくわからんな…おそらく聖水も使用されているだろうが、この切れ味だと…竜種か?」


 もはや入手経路などは関係なく彰吾と一緒になって使用素材を確認し始めた。

 最初に手を付けたのはヴィスラの使っていた大剣で美しい光沢などからミスリルが使用されていることまでは共通で判断できたが、他の素材についてがなかなか判明しなかった。


「聖水か…だが竜種と言うのはどうだ?聖属性の竜種は確認できていないはずじゃ」


「だとするとユニコーンか?だが、あれは槍や弓矢には向くが刀剣類には向かない」


「だったら聖属性の魔石か、それに近い性質の宝石ってところか」


「その可能性が分解しないで確認できる限界か…」


「あとは使っている炎はどうだ?」


「「それがあったなっ!」」


 彰吾の素朴な疑問を受けて2人は思い浮かぶ限りの聖属性の炎を頭に浮かべる。

 そして中でも教会に根強く関係する物が一つだけあった。


「そうか…『星の聖焔せいえん』だろう。あれは教会が発見されると全て徴収して独占するからな」


「星の聖焔?」


「あぁ~魔王殿は知らなくても無理はないか。『星の聖焔』っていうのは時々天から落ちてくる隕石、その中に稀に混じっている白金に輝く炎の星の事なんだ」


「その焔には常識的には考えられないレベルの聖属性が内包していて、少し剣を炎の中に入れただけで聖属性が付与されるほどだ」


「なるほど、だから教会が独占しているのか」


「そういうことだ。でも、だからこそ聖武具の制作に使われている可能性はかなり高い」


「確かに…」


 説明を聞いた彰吾も大きく頷いて納得した。

 亜人種を必要以上に下に見ている人間種達、しかもその主犯とも言える教会は『自分達が神に認められた聖なる種族だ』と信じて疑わない。そんな教会勢力が強力な聖属性を放つ物を自分達以外の勢力に渡すとは考えられない。


 そして聖なる存在であるがゆえに属性の一つでしかない聖属性を必要以上に神聖視している。


「なら使われている炎はそれで確定ですかね?」


「おそらくはな。他にも何か使っているだろうが…そこはもう少し細かく調べるしかないな」


「魔王殿、時間はあるかね?」


「もちろんだとも!俺が持ってきた物を誰かに任せたりはしないさ‼」


「よし!しばらくは寝る時間はないと思え‼」


 彰吾からの了承の言葉を受けると満足そうに返事をしてドワーフ2人は意地の悪い笑みを浮かべて、聖武具をすべて持って解析のために行動を開始する。


「え……しばらくってどのくらい?」


 解析とかにも立ち会うつもりだった彰吾だが短い付き合いの中でも一つだけドワーフ達について知っていた事が恐怖を駆り立てる。それは『ドワーフは加減を知らない』という事だ。

 ただの冗談からの殴り合いで相手を全治3ヵ月にするし、一度集中して作業に取り掛かると平気で1週間寝ずに働くこともあるのだ。


 そんな彼等の口から『しばらく』と出た事に、休みなどに関しては人以上に大切にしている彰吾はとてつもない恐怖を感じたという事だ。しかし慌てて追いかける彰吾だったが、すでに一度返事をしてしまっている以上は彼等が取り消すことなど許すはずもなく。

 結局、聖武具に関するすべてを解明するまでの1か月近くの間に渡って彰吾はまともに睡眠をとる事はできなかったのだった。 

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