第81話 魔王と聖騎士《決着》
「なにっ⁉」
目の前の光景が信じられずにヴィスラは眼を見開き、完全に受け止められている自身の剣を見る。完全に能力解放した状態の光の大剣は結界でも竜の鱗でも切り裂く事が出来る鋭利さを持っていた。
なにより巨大化に伴う重量の増加による、単純な威力も上がっている。
だというのに彰吾は手を魔力でコーティングして保護して、それだけで刃を挟むようにして受け止めていた。しかも振り下ろした威力は全て綺麗に地面へと逃がされ、彰吾にはほんの少しのダメージも入っていなかった。
「今のは少しびっくりしたな。ここまで重量も威力も上がるのか、いや~魔力なんかの扱いを覚える前だったら斬られてたかもしれない」
刃を抑えたまま彰吾は薄っすら笑みを浮かべて感心したように話す。
そこには一切の嘲りなどのバカにするような感情はなく、どこまでも純粋な称賛だった。だが残り少ない魔力に限界の体を酷使してまで放った一撃を完全に無力化されてしまった相手には逆効果だった。
「無傷で受けといて白々しい‼」
「いやいや、本心だよ。今の攻撃は本当によかった。無防備に受けてたら、そこそこにダメージがあっただろうからな」
まさか怒られるとは思っていなかった彰吾は少しフォローしようとするが、喋れば喋るほどにヴィスラは苛立ちを募らせるだけだった。
「くぅ―――――!!!」
もはや叫ぶことなく力業で押し込もうとする。地面が砕けるほどに踏ん張り大剣へと全力を注ぎ込む…だが、特に押し返そうとすることもなく彰吾は涼しい顔で押さえている手をそのままに笑みを浮かべ続けていた。
「いい力だけど、力だけじゃ俺には届かないよ!っと」
「なっ」
優し気にそう言いながら彰吾は大剣ごとヴィスラを投げ飛ばした。
軽く投げたつもりだったのだろうが、見ただけでも軽く20mは遠くにヴィスラは投げ飛ばされていた。しかも体のダメージがここにきて動きを阻害、ろくに受け身を取る事もできずに地面に数度弾かれながら止まる。
「く、くぅ……」
元々のがボロボロだったうえに無理やりの戦闘、そこに来ての投げられたことによるダメージでもはやヴィスラは完全に戦闘能力を失ってしまった。なんとか気絶だけは免れたが立ち上がる事すらままならず、大剣からも散るようにして光が宙を舞う。
それを見て終わりを感じて彰吾は少し残念そうにしていた。
「…ふぅ…それで他の方々はどうしますか?」
「!?」
楽しい事が終わってしまい彰吾は大して興味がないのだろう。
一応リューナ達へと『お前達も戦うのか?』と語外に尋ねるが、さきほどまでの戦闘を見て勝てるほどうぬぼれているような者は誰もいなかった。
なにせ中隊内で最強のリューナは既にキマイラとの戦闘で魔力を使い果たして動く事もままならず、他の小隊長格の者では相手にならないことを彼ら自身が理解してしまっていたのだ。
ヴィスラは性格の問題で部隊長どまりだが、戦闘力だけなら中隊長に引けを取らないどころかほぼ同格だ。
そんなヴィスラが元々が疲弊した状態だったとは言っても、完全に手も足も出ずに負けた相手に小隊長では荷が重すぎた。
結果として誰も前に出る事はできず、ろくに動くこともできないリューナがゆっくりと答えた。
「わ、私達に戦う意思はもうない。だが我々の武具は教会よりの賜り物、それを貴殿に簡単に渡すわけにはいかない」
「ふぅ~ん、簡単に渡すわけにいかないならどうするの?」
「それは…こうするっ」
話している間に残りわずかな魔力でひそかに準備していた爆破の魔法でリューナ自身の杖を破壊しようとした。だが魔法は発動することなく溜めていた魔力を霧散して消えてしまう。
「え…」
「はぁ……本当に君はつまらないね。そのくらいは予測出来ているんだから対策くらいしてるに決まってるだろ」
心底呆れた様子でそう言った彰吾の目には可哀そうな者を見るような目を向ける。ヴィスラと戦いながらも彰吾はリューナ達にも不意打ちなどをしてくるかもしれないから、しっかり警戒して様子をうかがっていた。
その時に魔力の流れを確認して何かを狙っている事に気が付いていたので、魔力の線を密かに繋いで発動を妨害する波動を流していた。
これは色々魔術などを使って遊んでいる時に発見したもので、魔術などを使用する時の魔力には独自の波動のような物があって、その波動を相殺するような波動を狙って放つことで発動を妨害する事が出来るのだ。
それによって爆破の魔法は不発に終わったという事だった。
「退屈ではあるけど、あいつは面白かったし当初の予定通り気絶だけで許しておいてあげるよ」
彰吾がそう言うとリューナ達が何かを言う前にクロガネが動き、全員を一撃で意識を刈り取った。全員を怪我の内容に人形兵達が受け止めて地面に寝かせ、手に持っている武具を回収していた。
そして最後の1人のヴィスラの元には彰吾が向かう。
「と言うわけで、君の大剣も貰っていくよ」
「くそ…好きにしやがれ」
「やっぱり君はいいね。その悔しさを忘れずにいられたら、また会おう…その時は、もう少し本気で戦ってあげるよ」
「その言葉…わすれんじゃ…ねぇぞ」
「もちろんだ」
いつになるかも分からない再戦の約束。
だが彰吾とヴィスラは絶対に再開するという決意と確信を基に約束を交わし、ヴィスラは意識を失い。横に落ちていた大剣を回収して彰吾は人形兵達を連れて魔王城へと帰っていくのだった。
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