第80話 魔王と聖騎士《戦闘》
「ほらほら、もっと速く振らないと当たらないぞ」
「クソがっ!」
ヴィスラが攻撃を始めてから10分弱、元々がダメージの抜けきっていない体を無理やり動かしているのだ。本来の実力を出すことができてはいなかったが、それでも並の騎士などでは対処できないほどの攻撃は繰り出していた。
なのに彰吾は当たり前のように躱し、さらには指摘してくるような余裕すら見せていた。
「剣筋のブレが酷い。普段から極限状態での訓練をしてないな?やっておいた方がいいぞ~いつも万全の状態で戦えるとは限らないんだからな」
「うるせぇ!指図すんな‼」
「おっと、ほら~すぐに熱くなるのもダメだな。感情が高ぶるのは構わないが、それで威力が上がっても精度が落ちてるんじゃ話にならない」
挑発しているつもりはないのだろうが呆れたように話す彰吾の顔は誰が見てもバカにしているようにしか見えず、ヴィスラも同じように受け取ったようで顔を赤くして更に斬りかかる。
それでも何度斬りかかろうと彰吾は笑顔ですべてを捌き指摘する事を辞めない。
そんな2人の近くでは動くことのできなかったリューナ達はクロガネと人形兵5体に囲まれて動くことできなくなっていた。他の人形兵は街の方向に展開、やってくるであろう増援の対処に回っていた。
ただ致命的と言える問題が一つあった。
「あ、貴方達の目的はなんなの?」
『………』
そう何かを聞かれてもクロガネ達には発声器官が備わっていないので答える事が出来なかった。全身鎧のようにしか見えない事もあってリューナ達はクロガネが人間でないという事がわからず、なんて不愛想な奴なんだと不機嫌になっていく。
でもクロガネ達としても答えようにも書くための道具もない現状では意思を伝える方法がなかった。
だからと言って逃がしてやるような事はできるはずもなし、逃げられると思われても困る。ゆえにクロガネは全力で威圧する。
「「「「「「っ!」」」」」」
並のドラゴン以上の力を持つクロガネの威圧を至近距離で浴びてリューナ達は実力の差を嫌でも理解させられる。万全の状態で中隊全員で協力すれば倒せる可能性もわずかに生まれるが、満身創痍の状態で他の仲間は合流するにしてもまだ1時間近くは掛かる。
そんな状況では勝ち目などあるはずもない。
ドゴンッ‼
絶望にリューナ達が飲まれそうになっている横ではヴィスラが諦めることなく彰吾に攻撃を続けていた。
「ははは!凄いなっ!この状況で本当に指摘した箇所を修正するなんて思わなかったよっ」
心底楽しそうに笑う彰吾だが横に大剣が叩きつけられた事で舞った土で服が少し汚れていた。いままでは地面を砕けるほどの力は入っていなかったヴィスラの大剣はいつの間にか威力が戻り始めていたのだ。
もっともヴィスラの体が回復してきたと言う話ではなく、慣れてきたという事だった。
精魂尽きた状態での戦闘など生きている内でも経験することなどは稀だろう。
ゆえに彰吾の指摘通り、そんな状態での体の動かし方など知らないヴィスラの攻撃は普段より数段威力も精度も下がっていたのだ。
しかしむかつくとは言え彰吾の適格な指摘に従い動いた結果、動きは実際に改善された。その事実が余計にヴィスラを苛立たせる。
「クソクソクソがぁーーー!!!」
「いい感情の高ぶり方だ。動きは元のまま、攻撃に力が乗っている!」
無意識的にだろうけどヴィスラは感情と肉体を切り離して戦う事をできるようになっていた。その影響もあって攻撃の威力だけが大幅に上がって攻撃の精度だけはいつも通りだった。
それだけにギリギリで避けると管から他地面などの破片が体に当たっるようになっていたのだ。
「ちょっとはテメェも攻撃して来いよ‼」
自分ばかりが攻撃して一向に彰吾が反撃してこない状況にこそヴィスラは苛立っていた。でも、そう言われたからと言って彰吾は悩みはしても行動は帰る事はない。
「う~ん…まだ俺が攻撃するには程遠いかな~」
「バカにすんじゃねぇ!」
もはや意地でも反撃に出させてやる!と全力で攻撃の速度をさらに上げた。
それでも彰吾は元々手加減して相手しているのだ。少し速度が上がった程度なら簡単に調整して避ける事が出来た。
『汝、我と共にすべてを断つ者也』
『光の刃を解き放たん』
【
我慢の限界を迎えたヴィスラは回復した残り僅かの魔力使用して短時間の剣の能力解放を使用した。光の大剣と成ったそれをヴィスラは全力で彰吾にめがけて振り下ろした。
「面白い。受けてやろう」
そして元々が大剣にも興味があった彰吾は威力を体感してみたいという思いから避けずに正面から受ける構えを取った。
ドッカ――――――――ン‼
もはや剣で出したとは思えない爆発音と共に彰吾に衝突して周囲を爆風が突き抜け、そこには手を魔力で覆った彰吾が真剣白刃取りのように大剣の刃を挟んで受け止めていた。
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