第79話 魔王と聖騎士《接触》
魔王城を飛びたって20分ほどが経過した。
速度を落とすことなく飛行を続けていたので、すでに魔の森の中にぽっかり空いた戦闘跡まで来ることができた。
「降下する。迅速に展開できるように準備させてくれ」
『……』コク
ゆっくりと降下を開始した。
地上が近くなると地面に横になって動けないでいるリューナ達が、迫ってくるドラゴンを見て何とか立ち上がって立ち向かおうとしているようだった。
「人間達よ。こちらに戦闘の意志はない」
さすがに地上に降りる前から攻撃されるとダメージは大した事はないだろうが、着陸に支障が出る可能性を考えて彰吾は声に魔力を乗せて発言した。まだ距離があって普通は声の届かないはずのリューナ達にも聞こえた。
本当に敵ではないのか判断に困っているようで動きに迷いが出ていた。
それを上空から見た彰吾は落ち着かれる前に急いで着陸した。
同時にドラゴン型人形の上から飛び降りた彰吾は巻き上がる埃を少し鬱陶しそうに手で払い、目の前に居るリューナ達を見つけると人の好さそうな笑顔を作る。
「どうも人間の聖騎士?で、あっているかな?」
正体も何もかも知っているのに相手には話からなのを良い事に彰吾は相手を油断させようとしていた。とは言っても、身に纏っている軍服のような魔王としての正装は金属糸などで作られた一級品、各所の防御力を強化するための加工には竜の鱗が使われている。
そこそこ目の効く者なら簡単に価値を見抜けるような高級品だ。
そんな相手が急に空から現れて警戒しないものなどいる訳もない。
証明するようにリューナは動くのも辛いだろう体を無理に動かし仲間たちの前に出た。
「確かに私達は聖騎士だ。教会騎士団・第15中隊の中隊長のリューナ、そちらは何者だ?」
質問しながらも『変な動きをすれば殺す』とでも言わんばかりの眼光で彰吾を見ながら杖を構えていた。
(なるほど、戦う者として考えると優しすぎる。でも、上に立つ者としては及第点の覚悟と言ったところだな)
「私は魔王。亜人の保護を使命に生きてる趣味人だ!よろしくっ」
「は?」
馬鹿正直に答えた彰吾に対してリューナ達の反応は唖然としたものだった。
もっと正確に言うのなら『こいつ頭おかしいのか?』と意味の分からない怪しい相手に向ける表情だ。
だが、そんな考えも長くは続かない。
彰吾の後ろのドラゴン型人形から無数の黒い鎧の集団(人形兵+クロガネ)が姿を現すと、一斉に武器を構える。
「あまり手荒なことはしたくないんだ。戦おうなんてしないでくれよ?」
「な、なんの目的で…」
現在の自分達の状態と相手の兵力を見て勝てる可能性が極端に低い事を認識したリューナは、なんとか呼んでいる救援が来るまでか逃げられるだけ回復する時間を稼ごうと質問する。
それに対して笑顔を崩すことなく答える。
「目的は君達の装備。特にそこの大剣と君の杖を貰いたい」
「なっ⁉」
「この件に関しては拒否しても勝手に貰っていくから気にしないでくれ」
「あ、あなたは何を言っているの…」
もはや返答など求めてすらいない彰吾の言葉にリューナ達は息を呑む。
そうして冷静になってきたリューナ達には最初のように彰吾は頭のおかしい変人ではなく、得体の知れない不気味な化物のように見え始めて無意識に体が震え始めた。
だが彰吾は相手の反応を見ても行動を変える事はなく。自分の欲求のままに行動した。
「でも勘違いしないでくれ、君たちを殺そうとは思っていないんだ。先ほどの戦いを見て、その武器の力に興味が出てね~調べさせてほしいだよ。快く貸してくれるなら君達を私の城に「ふざけんじゃねぇー!」おっと」
話している途中で気絶していたはずのヴィスラが眼を覚ましていたようで、完全な不意打ちで彰吾へと斬りかかった。
もっとも動き出した段階で視認していた彰吾は危なげなく躱して見せる。
すでにブチ切れているヴィスラは余裕な態度を崩さない彰吾により怒りを募らせる。
「なんでお前の言う事を聞かなきゃならねぇ‼ぶっ倒せば全部解決だろうがっ」
「おぉ~見ていた通りに威勢がいいねぇ~」
魔王である自分を倒すと言い切るヴィスラの姿に彰吾は思わず感心して拍手すらしてしまう。完全に煽っているようにしか見えないが、本当に純粋に褒めているのだ。
だが、そんな事は相手に伝わるはずもなく余計に怒らせるだけだ。
「なめてんじゃねぇ!!!!」
「止まりなさい!今は下手に攻撃してはっ」
「うるせぇ!そんなこと言ってられるような状況でも、相手でもないだろうが‼」
疲弊している現状を考えてリューナは時間を稼ぐことを優先しようとしたが、そんな余裕は自分達にはないとヴィスラは感じていた。更に本能的に彰吾の強さを感じ取っていたのだ。
時間が経っても自分達には勝ち目がないという事も…だからこそヴィスラは派手に暴れて逃げる隙を作ろうとしているのだ。
「はははっ!いいな~お前、面白いよ‼」
そして思考の果てに出した結論ではなく本能で判断してほぼ正しい結論を出して攻撃してくるヴィスラを見て、彰吾はめったに見る事のないタイプの相手に好感を覚えていた。
いつのまにか張り付けたような笑顔から、本心からの笑顔へと変わっていた。
「少し付き合ってあげるよ」
楽しく思わせたお礼とでも言うように彰吾は正面からヴィスラを相手する事を選んだ。
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