第78話 初めての物欲
キマイラの死体と力尽きて動けなくなっている聖騎士達を見下ろすは鉄製の虫。
つまりは彰吾の生み出した虫型人形は街に集合してからも常に聖騎士達の動きを見ていた。他にも近くには数体の虫型人形の影が見えて、1人につき1体着いてすべての動きを見ていた。
そして他の人形とリアルタイムで通信の出来るクロガネを中継器として、彰吾は魔王城から聖騎士達の様子を確認していた。
「見た感じ強いな。キマイラも狐とかと同じくらいの強さに見えたし、それと複数対1だったとは言っても凄いな」
彰吾は聖騎士達の戦闘を見て強さを認めた。
別に彰吾だけなら負ける事はないが、守るべきエルフなど亜人達の事を考えると十分に脅威だと言えるだろう。もっとも将来的な脅威であって直近では大した脅威ではないと彰吾は判断する。
「このくらいなら同数の人形兵でも対処できるか、でも大剣使いと光を放つ杖を持つ女…あの2人はクロガネとギンソウじゃないと対処は難しいか」
それでも少数の強者は通常の人形兵だと対処が難しいと見ていた。
ヴィスラが使った身体強化や大剣の解放状態での攻撃力、リューナの万能性の高い光の結界や剣などは単純な戦闘方法しかできない通常の人形兵だと防御力の高さから一撃でやられるようなことはないだろうが、一方的に蹂躙されてしまう可能性が高い。
唯一対抗できるのは魔王城内でも規格外の力を誇るクロガネとギンソウの2体だけだというのが彰吾の見解だった。
「あの杖と剣が厄介な力を持っているんだろうなぁ……欲しいな」
思わずといった様子で漏れ出た言葉に彰吾自身が少し驚いているようだった。
なにせ、この世界に来てからの彰吾が抱いた欲望と言えば『睡眠欲や食欲』がほとんどで物欲は大してなかった。研究目的だが思わず漏れ出るほどの欲求を感じたことが無かったのだ。
そして能力を知りたいという気持ちが強くなるほど欲しくなってしまう。
「……ま、どうせ敵対してるしな。今回は殺すの無しで奪えばいいか」
しばらく考えて元々から友好的な間柄でもなく。
むしろ魔王としての役割を考えるなら敵対は確定、なら気にする必要はない。と極端な結論に至ってしまった彰吾は装備の強奪を決意してしまう。
たださすがに自分の欲望の為であるので殺すのは気が引けたのか、装備の強奪だけに留める事にした。
「さて、主力が動けないうちに仕掛けるか…」
そして殺さずに奪うという事を考えるなら今の状況は最高だと言ってよかった。
なにせ最高戦力とも言える者達は軒並み力尽きて動けず、救援は急いで駆けつけても1時間は掛かりそうな距離があった。
反対に彰吾達の移動手段は飛ぶ事で障害物を無視して行けるので掛かっても30分過ぎるかどうか、どうやっても先につくことが可能。
間に合わなくても通常の人形兵で主力級でない者なら対処は可能だろうと彰吾は考えていた。最悪でも十分な時間稼ぎはこなせるという判断だ。
「クロガネ、早急にドラゴン型2体と人形兵50体を集めろ。時間は10分以内、行けるか?」
『……』コク
「なら、頼む」
頷いて答えたクロガネを見て彰吾は少し申し訳なさそうにしながらも頼んだ。
今回の事は完全に私情なので急がせることを悪く思ったのだ。でも、すでに実行すると決めた事を止めるなんて選択肢もなかった。
そして主の指示を全うするためにクロガネも動き出した。
魔王城全体の人形兵の位置を確認して必要性の少ない場所に居る者を厳選して50名を集め、山岳エリアで休んでいたドラゴン型人形を2体呼び出す。
人形兵達には拘束用の道具も用意するように指示を出した。
今回は殺しが無しと言う事なので命にかかわらない無力化用の道具が必要だと判断したのだ。それにクロガネには人形兵の隊長として必要な装備を備品庫から出す許可を彰吾から出されていた。
その装備を観戦にそろえた人形兵達は迅速に集合して輸送用のコンテナに整列して入った。
数分後に自分の装備を整えてから現れた彰吾は整列している人形兵を見て、想定よりも早く集まっている事に少し驚きの表情を浮かべる。
「早いな…いや、これは感心してるだけだから気にしなくていいぞ」
率直な感想が漏れると近くのクロガネが少し落ち込んだ様子を見せたので、慌てて彰吾はフォローした。すると自信を取り戻したのか胸を張って自分もコンテナに乗り込んだ。
「お前も行くのか?」
『……‼』
「そうか、まぁ…長時間でもないしいいか」
さすがに人形兵達の統率を取るクロガネを連れていく事に不安を覚えた彰吾だったが、丸1日移動するわけではないので問題ないかと切り替えた。
「一緒にくるなら俺と一緒に乗れ、向こうの状況を確認しながら向かう」
『……』
彰吾の指示を聞いてクロガネは少し戸惑っている様子だったが大人しく彰吾の後ろに乗る。まだドラゴン型人形になれていないクロガネでは操縦する事ができない。
それを確認して彰吾は満足そうに頷きドラゴン型人形を飛ばす。
「さ~行くぞ!」
元気よく叫ぶとドラゴン型人形は加速して聖騎士達の戦闘跡に向かう。
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