第77話 聖騎士隊 VS キマイラ《4》


「ッ――――――!!!!」


 もはや声にならない叫び声を上げながらリューナは魔力を限界まで注ぎ込み結界の光の力を増幅する。それだけではなく鎖の分の光を剣へと注ぎ、光の雨を防ぐ岩の洞窟となっている部分を破壊しようとする。

 だが範囲を狭め、圧縮されたブレスは先ほどまでとは比べ物にならない威力だった。


「ぐぅ!」


 杖を両手で持ち突き出し、全力で踏ん張り耐える。

 おかげで結界が破れることはなかったが1mほど後ろに押されてしまった。それに割られなかっただけで、細かなヒビが入り偽れるか分からないような状態となっていた。


「はぁ…はぁ…」『光よ、汝は全てを打ち砕く鎚』


 もはや限界に近い状態になりながらもリューナは言葉を紡ぐ。

 それに答えて光の剣などは形を解いて巨大な光の鎚へと姿を変え、キマイラが作り出した避難用の洞窟を砕く。


『グラァ!』


 もはや留まる事が危険だと理解したのだろうキマイラは砕かれると同時に体に地面の岩を纏わせ、光の雨の中を強行突破を試みる。岩の間から雨が入って肉体が溶けるがキマイラは意地で走り出す。

 だが大人しく逃がすわけもない。


「させない!」


「意地でも動きを止めるぞっ」


 距離を取っている間に回復が完了していた1・5小隊長が足止めに出る。

 光の雨は魔成る者を浄化して姿形すら維持できなくさせるが、人間や聖なる存在には治癒と強化の祝福を施す。小隊長達は光の雨の効果を知っているからこそ躊躇なく雨の中に入り、キマイラの前で5小隊長は大盾を構え突進を受け止める。


「うおぉ――――――――!!!」


 トラックのごとき巨体のキマイラを受け止めた5小隊長は身に纏っていた鎧の幾つかは砕け、倒れなかっただけで大盾を持っていた両腕は砕けて居た。

 それでも完全に突撃の勢いを殺す事に成功していた。


「任せたぞ!」


「任された!」


「いくぜ!!」 


 動くことも辛い状況ながら5小隊長は近くの1・3小隊長に全てを託し、満足そうに笑みを浮かべながら痛みにより気を失う。

 それを見て5小隊長の覚悟に1・3小隊長は対抗心を刺激されたようで、ついに切り札を切る。


『我を包め雷光よ』

『汝の光は汚れを知らず、不浄を貫き浄化する』

『我は雷光の代行者也』


【雷光の鎧】


 1小隊長が詠唱を終えるとその体を雷が覆い、一歩踏み出しただけで数十メートル先に瞬間移動したかのように現れた。手に持つ槍にもいつからか雷が纏わりついていて、常にバチバチと雷が弾けて不思議な威圧感を放っていた。

 その槍を片手に持ち1小隊長がキマイラの周囲を縦横無尽に駆け回り、好きを見つけては聖なる光を宿した雷が焼き切る。焼かれた傷口は回復が遅くなって血が流れ続ける。


『聖なる風よ、汝の隣人に祝福を』

【ウィンド・ブレッシング】


 そして3小隊長が短く唱えると体を緑の光が包み込む。

 キマイラに接近して攻撃を躱しながら懐に入ると、双剣を振るう。風の力によって切れ味が増した双剣に付けられた傷は、風が元来持つ風化の力によってキマイラの再生力をもってしても回復しなかった。

 更に聖属性もついているため傷口からわずかに肉体が解けたかのような煙が出ていた。


『ガァ゛⁉』


「もう、いい加減に倒れなさい」


 もはや動くこともままならない状態だがリューナは力強くそう言うと、結界以外の光の力を光の雨に集中させる。


『光よ集え、降り注げ』

『慈悲の雨は断罪の雨へと変わる』

『魔を滅ぼす、無慈悲な雨』

【ホーリーランス・レイン】


 完全詠唱で放たれたそれは文字通りの聖成る槍の雨。

 雨粒サイズとは比べ物にならないほどの質量と勢いを持って降り注ぐ。


『ガッ!』


 光の槍は秒間だけで20本降り注ぎ、そこに休みはなくリューナの集中力が続く限り降り注ぐ。接近戦を挑んでいた小隊長達も最後に大きな傷を付け、さすがに槍の雨はダメージ無しとはいかないので範囲外へと退避した。

 もはやキマイラは逃げる事もできず、体を覆っていた岩の鎧は砕かれ体には無数ん槍が突き刺さり。


 最終的に槍の雨は20分もの間に渡って振り続けた。

 止んだ時には息絶える寸前のキマイラがもはや原型をとどめないような状態で転がっていた。


「これで本当に終わりね…」


 そう言ってリューナが杖を振り下ろすと光が巨大な槍となってキマイラを串刺しにして、完全に息の根を止めた。もう息をしていないことを確認した後全員が結界や使っていた魔法を解き、その場に座り込んだ。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 もは精魂使い果たしたと言った様子のリューナは息を荒くして、顔色も青く冷や汗を浮かべてどう見ても限界を超えていた。小隊長達も同じような状況で、特に接近組は肉体的なダメージもあり限界などとうに超えていた。

 後衛の小隊長達は比較的まだ元気が残っていたので救助要請の信号弾を出して、おとなしく待つことになるのだった。



 そして戦いの終わった森の上空には小さな一体の金属製の虫が飛んでいた。

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