第76話 聖騎士隊 VS キマイラ《3》
「散開!」
土煙の中から現れた石の鎧に加え、魔力によるコーティングされたキマイラを見たリューナは瞬時に指示を出す。その指示を聞いた小隊長達も声に出して答える事はなかったが、即座に散開して攻撃されてもいいように自分達で簡易的な結界を張って備える。
指示を出しながら負傷して動けないヴィスラを確保して距離を取ったリューナもも距離を取って警戒していた。
(各個撃破される可能性は出てしまうけど、一網打尽にされる事だけは避けなければいけない。念のため誰かを街に走らせたいけど…)
今の状況で一人でも人員が減るのは致命的な状況を生み出してしまう要因となりかねず、救援要請などを出しに向かわせたかったができなかったのだ。
そうして観察している事1分弱、ついにキマイラが動き出した。
ゆっくりとした動きで体を沈め、大きく跳びあがった。
軽い城壁なら飛び越えられそうな高さに飛んだキマイラは地面のリューナ達目掛けてブレスを吐いた。
「結界を強化!」
全体に聞こえるように叫ぶように言うとリューナは、瞬時に自分とヴィスラを包む結界の厚さを倍にまで補強する。その様を見て迫っているブレスが想定以上の脅威なのだと認識した小隊長達も、各々で魔力強化用消費アイテムすら使って結界を補強した。
次の瞬間、リューナ達はブレスの炎に飲まれた。
「くっ!」
想定していたとはいえ結界を破ろうとしてくる圧力にリューナは苦しそうに声を漏らしながらも、追加で魔力を注ぎながら耐える。視界の端に見える小隊長達も緊急用の消費アイテムまで使用してなんとか耐えているようだった。
そして約30秒続いたブレスが止むと地面に着地したキマイラが襲い掛かってくる。キマイラが襲ったのは負傷者と言う足手まといを抱えているリューナだった。
「やっぱり立て直す隙はくれませんかっ」
少しでもヴィスラの回復をできればと思っていたリューナは悪辣に弱点を突いてくるキマイラにリューナは苦々しい表情を受けべながら迎撃準備をする。
『光よ、我が隣人、我が友よ』
『汝の力もちて我が危機を救いたまえ』
『守り給え』
【護光】
普段は詠唱をしないリューナが完全詠唱して発動したそれは、リューナとヴィスラを包み込むように半円形の結界を展開した。その結界は先ほどの通常の結界とは違い優しく穏やかな光が漏れていた。
その光に触れてブレスの炎の残りが消える。
近いむき出しだった地面には薄っすらと草が芽を出していた。
そして結界内のヴィスラの顔などに浮かぶ傷が軽い物は完治していた。
神聖な雰囲気を放つ結界を前にしてキマイラは止まることなく前足で殴った。
パーン!と言うような破裂音と共にキマイラの足が弾かれた。しかも足を覆っていたはずの岩の鎧と魔力コーティングが剥がれていた。
「いまよ!」『光の剣よ』
一瞬の隙、それを逃さずにリューナは使えから光の剣を生み出し無謀身になっているキマイラの前足に向かって放った。態勢が不十分だったキマイラは防ごうと尾の蛇を向けるが、光の件は自由自在に動き足へと刺さる。
『ガァァァァッ⁉』
初めての明確な肉体へのダメージにキマイラは悲鳴を上げる。
傷口からは青い血液を流れ光の剣は刺さったまま、引き裂くように振りぬかれる。
「一気に攻めろ‼」
「「「「「「おう‼」」」」」」
痛みに動けないキマイラにリューナは急いで追撃を命じる。
小隊長達もようやくつかんだチャンスを逃してなるか‼と全力で攻撃を仕掛けようとする。だが片足を使えなくとも他の部位は全て万全なままだ。
接近攻撃に出た小隊長達は振りぬかれた尾の蛇により吹き飛ばされ、遠距離からの攻撃は山羊の頭の発動する土魔術によってことごとく迎撃された。
『光よ、魔に降り注ぐ慈悲なる雨を』
ただ時間稼ぎは十分だった。
わずかな時間に短く魔力を多く練り込んだ言葉により、リューナの杖からは今まで以上の光が放出されて雲のような形態へと変わる。そして小さな光の粒が雨となって降り注ぐ。
『グラァァァァッ⁉』
またしても悲鳴がキマイラから上がる。
光の雨の当たったキマイラの体からは酸を浴びたかのように煙が上がり溶けだしていた。体を覆っていた岩の鎧も魔力コーティングも意味はなさず剥がれ、体に光が触れると溶けてしまうのだ。
防ぐために土魔術で屋根を形成しようとするが、生み出された傍から光の雨によって消されてしまいちゃんとした屋根の形成などできなかった。
「そのまま消えなさい…」
苦しむキマイラを前にして範囲外に逃げられないように光の鎖を生み出したリューナは冷たく言い放つ。その言葉が理解できるのかキマイラは憎しみの籠った目をリューナへと向けた。
『グ、グラァァァ――――――――――――――――――――――――――――――――!』
そして苦しみながらもキマイラが今までで一番の咆哮を上げると魔力がほとばしり、地面が隆起して即席の洞窟を作り出す。その岩に光の雨が当たっても消す事はできず、まるで地面に落ちた時と同様にただ散るだけだった。
あくまで魔術などで生み出された現象や物質を消すだけで、最初から存在する物質は消すことができないのだ。
「知能が無駄に高い!」『光の鎖よ、締まれ』
こんなに早く対処法に気が付かれるとは思っていなかったリューナ急いで次の行動に移る。拘束するために巻き付けた光の鎖で全身の骨が折れるほどの力で締めようとしたのだ。
だが光の鎖は一瞬の隙をついて破壊されていた。
その事にリューナが気が付いた時には体を回復したキマイラが、洞窟内からリューナとまだ横になっているヴィスラへと限界まで溜めたブレスが放たれた。
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