第75話 聖騎士隊 VS キマイラ《2》
「やらせない!」
動けないヴィスラへを叩き潰そうとするキマイラを見たリューナは全力で身体強化を行い跳び出す。その速度はキマイラと戦っていた時のヴィスラを軽々と凌駕していて、姿は見えず地面が陥没するような無駄な力も入っていなかった。
そして本当に潰される寸前に間に合い無詠唱で結界を展開した。
「ヴィスラ⁉生きてるわね⁉」
緊急で張った結界は2人を包み込む程度の大きさだったが、無事にキマイラの攻撃を防ぎきってリューナは背後のヴィスラの安否を確認する。
「な゛、なんとか…」
全身ボロボロで魔力も体力もほぼ使い果たした状態でもヴィスラは薄ら笑みを浮かべて余裕ぶって見せた。勝手に動いた結果の無様な姿、せめても強がって見せないとプライドが許さなかったのだ。
そんなヴィスラの心情をなんとなく察したリューナは呆れる。
「はぁ…少し休んでいなさい説教は後でしてあげます」
「は、はは…任せた…ぜ」
それだけ言ってヴィスラは意識を失った。
本来魔力を使い果たすだけでも吐き気・眩暈・虚脱感と言った無数の症状に襲われる。そこに戦闘で酷使した肉体のダメージ、常人ならとっくの昔に気絶…またはショック死しているほどだった。
常人離れした覚悟と気合でヴィスラは意識を保っていたのだ。
救援、しかも自分より強いと確信できるリューナが来たことに安心して気が抜けて気絶したという事だった。
「えぇ…任されましたよ」
優し気に微笑みながらそう答えたリューナはヴィスラの体に念入りに結界を施し、鋭い目をキマイラへと向ける。
「さて、では魔物。お前を倒しましょう」
そう言ったリューナの目は先ほどまでの暖かさはなく。
どこまでも深く冷たい、なんの感情も感じられない冷めたものとなっていた。遅れてきた6名の小隊長達も雰囲気の変わっているリューナを見て、思わず体が硬直してしまうほどの威圧が周囲に放たれていた。
「1・3・5小隊長は前衛、2・4・6小隊長は補助と遠距離攻撃を開始!私も全力で援護する」
「「「「「「り、了解!」」」」」」
だがリューナの命令が出ると各小隊長達はすぐに行動に移した。
元々が前衛職の1・3・5小隊長達は1小隊長が槍、3小隊長が双剣、5小隊長が大盾を持って突撃する。
結界で攻撃を防がれた段階でリューナを強敵判定したキマイラは警戒して、少し離れていた所で様子を見ていた。なのに警戒していた相手ではない、大して強そうでもない者の攻撃に不愉快そうに薄く声を漏らしていた。
『グラァァァ‼』
「任せろ!」【剛体!】
手早く片付けようという感じで無造作に振るわれたキマイラの前足、それを大盾を装備した5小隊長が飛び出しスキルを使用して受け止める。
大盾とキマイラの前足が当たった瞬間、金属同士が衝突したような甲高い音が周囲に響く。5小隊長は足が衝撃で地面に少しめり込んでいたが、体は一切ぶれることなく正面から攻撃を受け止めて見せた。
「いくぞ!」【スパイラル・ランス】
「おうっ」【四連斬】
まさか受け止まられると思っていなかったのか少し目を見開き動きを止めるキマイラ。その隙を逃すことなく1・3小隊長が追撃に動く。
スキルを発動したうえでの左右からの挟撃。
並の魔物ならば決まるような攻撃だがキマイラは山羊の頭が土魔術で防壁を作り槍を下から弾き飛ばし、双剣を尾の蛇が間に入って受け止めた。
「「くそ!」」
絶好の機会を完全に無駄にしてしまったことに1・3小隊長は悔しそうにする。
だが、2人が離脱すると同時に後衛の2・4・6小隊長達から巨大な火球が飛んでくる。前衛の小隊長達が飛び出すと同時に発動を準備を始め、前衛の攻撃が防がれると発射したのだ。
3人による同時発動は何度となく協力して戦ってきた者同士だからできる離れ業、放たれた火球はキマイラの巨体を軽く飲み込めるほどの大きさだった。
『ッ⁉』
迫る火球を見てさすがにまずいと思ったのか避けようとするキマイラだったが、その体にはいつのまにか光り輝く鎖が撒き付き動けないようにされていた。
そして鎖を出した張本人であるリューナは杖を構えたままキマイラを見据えていた。
「大人しく灰と成りなさい」
いうと同時に鎖はよりきつくキマイラの体を縛り付け、火球がキマイラの体を飲み込んだ。
ドガ―――――ン!!!!
空気を震わせるかのような音と共に爆発が起こった。
その場は土煙に包まれたがリューナが爆発寸前に全員に結界を張った事で衝撃や破片などから守った。
キマイラの姿は土煙の中で見る事はできなかったが、クレーターを生み出すほどの爆発に強力な魔物とは言っても耐えられるとは小隊長達は思っていなかった。
「気を緩めないで!まだ倒せていない‼」
しかしリューナだけは倒せていないと確信できていた。
なにせキマイラの体を拘束するために発動した光の鎖、それの感覚がいまだに何かを拘束したままなのだ。拘束系の魔術やスキルは対象が死んだり抜け出した場合には解除されてしまうようになっていた。
だと言うのに一向に解除される気配がない。
そうして警戒して土煙の中を注視していると薄っすらと影が浮かび出てきた。
「こう来ましたか……」
完全に見えた姿を確認してリューナは少し顔を引きつらせる。
そこに居たのは体を岩の鎧で覆い、黄色の魔力で全身を保護したキマイラの無傷な姿だった。
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