第71話 魔の森と聖騎士《前編》
そして虫型人形から彰吾が知らせを受け取っている頃、魔王城から遠く離れた街に集まってきた派手な鎧の集団。
白金の鎧を身に纏った教会騎士団第15中隊の聖騎士達だ。
そこには白金の鎧に星のシンボルの付いた自身の身長ほどの杖を持つ女性が居た。
彼女は栗色の髪を肩口で切りそろえ、灰色の瞳が綺麗に光っていた。しかも装備品以外では余計な装飾品は何もないが、不思議とたまにキラリと光が反射したかのように瞬いた。
「第2小隊は物資の運搬を、第3小隊は宿の確認をしてきて、他小隊は標的に関する情報を何か一つでいいので、街中から集めてきてください」
「「「「「「「「了解しました!リューナ中隊長」」」」」」」」
指示を聞いた各小隊は瞬時に返事をすると散開して任された仕事を熟していく。
全員を見送ってリューナはゆっくりと街の中でひときわ大きな教会へと向かう。
その教会内に存在する大きな会議室を借りて仮説の作戦拠点としていたのだ。なので会議室内では各小隊長に補給部隊長などの責任者達が集まっていた。
「それでは今回の私達に出された指令は『魔の森の調査、並びに竜種の確保』よ。目撃情報で数か月前から何度かの目撃情報、近隣の領主から街が襲われる前に討伐をして欲しいと教会に依頼があった。実際に一つの街が竜によって崩壊した事件が起きているし、無視はできないとして私達に依頼が回ってきたと言うわけね。なにか質問は?」
会議室に入ったリューナは全員に依頼の概要などの書かれた紙を渡すと簡単に説明した。その説明を聞いた面々は資料にも目を通してやるべきことを理解した上で気になる事を質問する。
「期間としてはどの程度の長さを想定していますか?」
「最短で1週間、最大でも1か月を過ぎれば一度本部へと帰還する。現状用意できている物資だとそれが限界だからな」
「今回の目的は竜種の討伐がメインと考えていいのですか?」
「いや、あくまでも森での調査がメインだ。竜種が現れたことで森の奥の魔物が浅い外延部に出てくることを恐れての調査ということよ。なので討伐は可能ならと言うだけなので無理する必要はないわ」
「では、竜種に遭遇した際は撤退してかまわない?」
「えぇ対処不能な状況になれば撤退してくれて構わないわ」
「その竜種とは…」
と言ったようにしばらくの間リューナの質疑応答は続いた。
たいていの隊員達は説明を聞き納得の表情を浮かべ今後の作戦についての話へと移ろうとしていたが、1人だけ納得いかない様子の者がいた。
「なんで竜種を狩ったらダメなんだよ?」
「はぁ…話を聞いていなかったの?竜種は力が強大すぎる。もし討伐できても周囲の被害は甚大、その補填をするのは誰だと思っているんです。私達も責任を取らされる可能性があり、最悪の場合は中隊は解体…そうなったとき困るのは私達ではない。中隊の担当地区に住む民間人達だ」
「だからなんだよ。俺等の仕事は人類の害になる魔物の殲滅だろうが!違うのかよ?」
ドン!と机をたたいて立ち上がったのは以前に荒野でリューナによって拘束されていた大柄の男。名は『ヴィスラ』平民から聖騎士にまで成り上がった強者ではあるのだが、いかんせん正確に難がありすぎた。
いまも一応は部隊長相当の地位の為に会議には参加させてもらえているが、誰もが彼を性格の問題から認める事はなかった。
そんなヴィスラの怒声に会議室内は不穏な空気が張り詰める。
「周囲の被害を考えての判断に異を唱えるなら。貴方には周囲への被害を一切出すことなく、暴れる竜種を圧倒して抑えて討伐する事が可能な方法があるとでもいうのか?」
「そんなもん暴れる前にぶっ殺せば終わりだろうが!」
「できれば苦労はしないな。それができない相手だから、私たちは多作を話し合っているのだが…言葉すら理解できていないようだね」
もはやあきれ果てたとでも言うようにリューナは首を左右に振った。
同じく他の小隊長達も竜種と言う存在を過小評価し、自身の能力を過大評価するヴィスラの言動に怒りを通り越して呆れ。まるで可哀そうな者を見るような眼差しを向けていた。
「そんなに戦いたいのなら1人で戦いなさい。私達は誰一人として協力しない」
「上等じゃねぇか!やってやるよっ」
売り言葉に買い言葉、お互いに強気に出てしまい後には引けなくなったリューナとヴィスラは完全に決別してしまうような形でヴィスラは会議室を出て行ってしまう。
それを見ていた小隊長達に動揺はなかった。
なにせ2人の相性は最悪と言ってよく。
定期的に口論に発展してはヴィスラが追い出されたり、拘束されたり、1人で勝手に跳び出したりなどよくある事だった。おかげで慣れていたのだ。
そして出ていったヴィスラを見送ったリューナは自身に向く周囲の視線に気が付き、なんとか表情を取り繕う。
「なにかしら?」
「「「「「「「「な、なんでもありません!」」」」」」」」
「だったらいいわ。話を続けましょうか」
言い知れぬ圧を放つリューナに小隊長達が逆らえるわけもなく、その後は全員が真剣に魔の森探査と竜に遭遇した時の対策会議が続いた。
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そして会議室を跳び出したヴィスラは自身の装備を手にして、誰にも気が付かれることなく街を脱出して1人…魔の森へと入って行ってしまう。
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