第70話 半月の成果と異変


 魔法の料理と言う物を知って興味を持った彰吾が練習を始めて半月が過ぎた。

 その現在に至っても彰吾は調理場で黙々と集中して料理に挑んでいた。


 ただ以前は思いつく限りの食材と調味料を並べていたが、今では本当に必要な物だけを厳選して並べていた。しかも品質まで拘った一品だけをそろえたので並の物では見る事が出来ないほど高級品の山となっていた。

 その素材の中から必要な物だけを取って最低限の魔法を駆使しながら調理を続ける。


 30分ほどで一品の豪華なステーキが完成すると薄っすらと光を放つ。


「ふぅ…完成だ」『鑑定』


《鑑定結果:魔牛のステーキプレート/☆☆☆》

《効果:魔力増強1時間・筋力増強1時間・防御力強化1時間》

《備考:魔牛を使用したステーキをメインにした料理プレート》


 鑑定スキルを使用すると料理の効果などが表示された。

 料理名の横にある☆が完成度を表して最大で5個の評価を得る。


 現状の彰吾が作る事に成功しているのは☆3個までだ。それでも安定して☆3個を得る事が出来るようになっただけ驚異的と言える。

 だが彰吾は満足する事はなかった。


「まずまずだな。後はこれを誰でも作れそうな汎用性の高い技術水準までレシピ化する事ができれば」


 最終目標としては特殊な技能や才能に関係なく☆3個の評価を持つ魔法の料理のレシピ化だ。なにせ現在の調理方法だと魔力操作に食材への包丁の入れ方、火入れなど全てに常人では10年以上の修練を積んでも☆1個が限界だと思えるほどの難易度だ。

 別に彰吾もなんでも簡易化したい性分と言うわけではない。


 その一番大きな理由としては簡単で『単純に魔法の料理は美味しい』ってことだ。

 美味しい物を食べるのに極度の集中と化物じみた技術力、超高級素材が必要とあっては手軽に食べる事すらできない。そんなのはできるだけ寝て過ごし、起きてるときは美味しい物を食べたい!と強く思っている


「次は素材のランクを少し落として試してみるか…いや、道具のランクの方が先か…」


 そして安定して☆3個を作れるようになった彰吾は次の段階へ進むため何を変えるかを考え始めた。最初に変える物は大きくやり方ではなく素材や道具からと決めていたが、一気に両方やっては変化が大きくなりすぎるために片方からと考えていたのだ。


 すると換気扇のダクトの中から何かがぶつかるようなカン!カン‼と言う音が聞こえてきた。


「なんだ?」


 半月の間にも音が鳴った事が無かったので彰吾は警戒するように換気扇へと近づいた。

 しばらくして音は近づいて来て、換気扇の隙間から以前に放った虫型人形の一体が転がり落ちてきた。


「なんだ?何か緊急の連絡か…」


 人形達は形は違っても報告に際しては緊急時を除いては部屋のテラスなどから入るよう、事前に指示が出されているのだ。

 ゆえに今回のように直接室内に居る彰吾の基に最短距離で飛んできたと言う事は緊急事態だという事だった。そう認識すると彰吾は何の躊躇もなく虫型人形を掴み上げて記録を読み取る。



 そうして頭の中で再生された映像には魔王城から遠く離れた森の外延部にある人間の街。普段から監視しているが大きな変化はなく、あっても大規模な商人達の出入りだけで変化は数カ月なにもなかった。

 だが、その街に豪華な鎧の一段の馬車が集まってきていた。


 目視するだけでも50~100人だろう。

 なにせ目立つ鎧の物が50人は居るのだが、その周りに革鎧の者達も居るので正確な人数が分からなかった。後続にも多くの木箱を積んだ馬車が来ているのが見えるので、大規模な軍事行動がある事だけは間違いなかった。

 そして距離などを考えると森の中に入ってくることは間違いなかった。


「う~ん…面倒だな。毎回倒すのもつまらないし、正直に言ってしまえば俺を探しに来てるわけじゃないなら気にする必要もないしな」


 この世界に来てから何かにつけて人間と戦ったり襲撃したりが多く、しかも基本的に一歩的な蹂躙ばかりの展開に彰吾は飽きていたのだ。なので別に相手が積極的に攻撃してこないなら、自ら率先して攻撃をする意味もないと彰吾は考えていた。


「ひとまずは監視強化。あと魔王城外への人形兵及びドワーフとエルフに妖精の外出禁止、このすべてを近くの人形兵から順次伝達。急げ」


 少し考えて出した結論を彰吾は手に乗っている虫型人形と部屋の前に控えてる人形達へと伝え、それをさらに広げるように命じる。

 その命令を受けて人形達は一斉に魔王城の敷地全体へと指示が伝わるように迅速に行動を開始する。


「さて、動きがあるまでは頑張りますか!」


 もう指示を出した以上はできる事はないと判断して、彰吾は目の前の魔法の料理のレシピ化に励むのだった。

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