聖騎士の争乱

第68話 荒野の聖騎士


 魔王城から遠く離れた荒野。

 そこは死の荒野などとも呼ばれるほどに生物が生きる事が難しい過酷な環境が広がっていた。生息しているのは植物系の魔物、その植物系魔物を食らう魔物がほとんどだった。

 他には一定の基準を超え、怪物級の実力を持った魔物や冒険者しか普段はいない。


 そんな荒野で現在、大規模な戦闘が起きていた。


ドッガァァァァッ‼


 と言う大きな爆発音が何度となく繰り返し大きな土煙が上がる。

 次の瞬間、土煙は鋭く切り裂かれ真っ二つになって吹き飛ばされる。


 そこには大きな角を持つ牛のよう見た目の魔物が居た。体には大小の傷が無数に存在し息も乱れ、追い詰められているのは一目でわかったが体に雷を迸らせて地面を焦がしていた。


「ふん、魔物ごときが我等に勝てるとでも思っているのか?」


 荒ぶる手負いの獣とも言える魔物の前に居たのは白金に輝く鎧を身に纏った巨漢な男だった。手には男の身長の倍はありそうな白金の大剣を持っていた。


 男の挑発的な言葉を理解できたのか魔物は苛立ちを顕わにする。


『ブグァァァッ‼』


「いっちょまえに怒ってんじゃねぇよ‼」


 突進してくる魔物を前に男は楽しそうに笑みを浮かべて迎え撃つ構えを取る。

 しかし激突する直前に巨大な光の幕が魔物と男の間に現れ、突進していた魔物は止まることなく光の幕に衝突して後ろに吹き飛ばされた。


「おい!邪魔してんじゃねぇよリューナ⁉」


「手を出すに決まってんでしょ、あんたの自己満足に付き合う時間ないのよ」


 呆れたようにそう言ったのは、同じく白金の鎧を身に纏った細身の女性だった。手には星のようなシンボルの杖が握られていて、魔法の光を放っているので光の幕。つまりは結界を張っているのはリューナと呼ばれた女性で間違いなかった。


「だから何だ!?邪魔すんなって俺が言ってっ」


「はぁ…しばらく黙ってな」


 いまだに何か噛み付いてこようとする男を前にして、リューナは呆れたように溜息を漏らすと杖を振って男の体を円形の結界によって拘束した。ついでとばかりに口元にも帯状の結界を張って喋れなくもしていた。


「はぁ……さっさと終わらせて帰りましょ」『光剣よあれ』


 祈るように紡がれた言葉により、結界などとは比べ物にならない光がその場を覆い。その光は一転に集中するように収縮して無数の光の剣を生み出す。


『降り注げ』


 不思議と響くリューナの声に従って光の剣が魔物に降り注ぎ剣山のような状態へと変える。もはや断末魔の声を上げる余裕すらなく息絶えた。

 先ほどまで迸っていた雷が嘘のように静まり。魔物の体から完全に生命の反応が無くなると、リューナは杖を地面に一度着く。すると光の剣も結界も全てが霧散するように消えた。

 しかし大剣使いの男に欠けた拘束の結界は解かれていなかった。


「んむぅ‼うぅむぅ‼」


「あんたはしばらく反省してなさい。そんなんじゃ聖騎士団での仕事任せられないでしょうがっ」


 結界を解くように喋れない中でもがき叫ぶ男にリューナは少し怒りを含む声で叫ぶ。なにせリューナと男の鎧は教会に所属する聖騎士団員の証と言える物だった。

 そしてリューナは聖騎士団の中でも中隊を預かる中隊長を任されるほどの実力者で、大剣使いの男は中隊内の部隊を1つ任せれている隊長の1人だった。


 今回は小隊長への昇給審査を兼ねた魔物の討伐だった。

 なのに独断専行で荒野の奥に行った男のせいで、隊長として隊員を1人で荒野に放置する事の出来なかったリューナが後を追う羽目になったのだ。


「次に独断専行したら、部隊長すら下ろす。そのつもりで行動しなさい」


 最後に一言強く説教をしてリューナは何か男が話す前に意識を刈り取り。

 静かになった男を結界を使って浮かせながら他の隊員達の待つ場所へと戻るのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――


 遠くはなれた場所で聖騎士達が戦っている時、彰吾が何をしているのかと言うと…


「う~ん…微妙だな」


 またしても何故か料理をしていた。

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