閑話 妖精の花《前編》


 妖精とエルフの問題が解決してから、更に一か月の時間が過ぎた頃だった。

 念のため近くの人間の街の動向だけは彰吾が毎日のように報告をさせていたが、これと言ったような大きな動きはなかった。あっても多くの物資をくにの中心地へと運ぶような集団が幾つかあっただけだ。

 他には何もなかった。


 以前までエイシャ達を追っていた人間達も密かに確認していた。

 ただ人間達はドラゴンが急に現れて空で暴れたのだ。手練れの者達は危険だと判断して依頼をキャンセルして逃亡、欲望に駆られて妖精を探し続けるように命令をする者も居たが指示に従うようなもの好きはいなかった。

 独自に残って探し続けた者達は彰吾が数日後まで魔力を切るのを忘れ、つい維持し続けてしまった雨によって視界の悪い中で火災によって気が立っていた魔物達に襲われていた。


 そうした細々とした事は幾つか起きてはいたが大きな出来事もなく、穏やかな日々が過ぎていた。


『魔王様~!』


 特にやる事もなく日向ぼっこに興じていた彰悟の元へと大きな声を上げながら1人の妖精が飛んでくる。彼女はエイシャから妖精の集落との伝令役として派遣された『ルーリ』と言い、妖精にしては珍しく頭もよく趣味は本を読む事だという。


 そんな普段は大人しいはずのルーリが珍しく叫びながら飛んでくるので彰吾も何事だ?といった様子で起き上がる。


「どうしたんだ?」


『そ、それがですね!妖精のフェアリー・フラワーが咲いたんですよ‼』


 ものすごく嬉しそうにルーリはくっつきそうなほど彰吾に接近しながら話すが、話されている彰吾の反応はどこか鈍かった。


「…そうか」


『はい!数年ぶりで今はお祝いの準備しているそうです‼』


「…一つ聞いていいか?」


『?何でも聞いてくれていいですよ‼』


「妖精の花ってなんだ?」


『え?』


 そう彰吾は妖精の花と言う物をよく知らなかった。

 なにせ妖精達が作る花蜜は品名に妖精とは付いてはいるが、それはあくまでも『妖精が作った蜜』と言うだけだった事をエイシャから直接作る材料を聞いた彰吾は知っていた。

 だから妖精の花と言う物はないと思っていたのだ。


 先ほどまでテンションMax!と言った感じで喋っていたルーリも、まさか彰吾が妖精の花を知らないとは思っていなかったようで困惑気味だった。

 それでも聞かれているのでなんとか説明を始めた。


『えっと…妖精の花と言うのはですね。私達、つまりは妖精族が生まれる兆しの花なんです』


「自然の魔力が集まってとは聞いていたけど、そんな風に生まれるのか」


『はい!しかも、今はエルフの皆さんを始め全員が幸福に生活していますから。おそらくはかなり優秀で穏やかな妖精が生まれそうだという事で、エイシャ様も嬉しそうなんです!』


「なるほど…」


 説明を聞きながら真剣な表情を浮かべながら頷く彰吾だったが、頭の中で花から生まれる妖精っていう図を想像していた。


(……なんか、どっかの昔話とかでありそうな光景だな。それにやっぱり生まれる時に影響を受けた感情によって性格や能力にも変化が出るんようだな。少し検証してみたいけど…人為的に妖精が生まれるような状況を作るのは難しい…か)


 本当にファンタジーそのものと言った妖精の誕生の仕方に興味が湧き出てきた彰吾だったが、いざ実験などで思い浮かべた仮説を証明しようとすると問題が多すぎるので現状では不可能だった。

 なにより今は眼の前で興奮しているルーリの相手が第一だ。


「とりあず、新しい妖精が生まれるって認識であってるよな?」


『はい!そう言う事であってます‼』


「だったら何かお祝いの品を持って俺も今夜には行くって伝えて来てくれ」


『わかりました!きっとみんな喜びます』


 そう言うや否やルーリは来た道を戻ってエイシャへと伝言を伝えに行った。

 1人残った彰吾は横になりたい衝動をなんとか抑えて、祝いの品を決めるために動く事にした。


「なにか甘いものがいいのは間違いないとして、その上で何がいいかだよな~」


 妖精族は1人の例外もなく甘味が大好きだった。

 なので祝いの品は甘い物だと決めていた彰悟だったが、せっかくのお祝いに飴玉のような安物で済ませるのはさうさに申し訳なく思い他にいい物が何かを考えていた。


 それから少し歩いて厨房までやってきた彰吾は準備してある食材などを見ながら準備すべきものを考える。


「う~ん…やっぱりまだ出した事のない物…やっぱりあれかな」


 答えが出たのか彰吾は手早く準備を整えて調理に取り掛かるのだった。

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