第66話 妖精族のお仕置き
風の繭に包まれたティー達を手で触れることなくお手玉するようにグルグルと回しながら、ゆっくりと歩いて妖精の集落へと彰吾は戻ってきた。
戻ってきた彰吾が浮かばせている物を見た集落に居た妖精達は、すぐに『ティー達が捕まった』と気が付いた。そのうちの数人が急いで屋敷でティー達が戻ってくるのを待っていたエイシャを呼びに向かう。
それを視界の端で見ていた彰吾は足を止めてエイシャがやってくるの待つことにした。
ほんの数秒待っているとエイシャがやってきた。
立ったまま暇そうに手元で風の繭を回して遊んでいる彰吾の姿を見ると、一気に駆け出して謝罪した
『お待たせしてしまい、申し訳ありません』
「いや、本当に待ってないから謝らなくていいよ。それよりも、捕まえてきたから任せてもいいかな?」
嘘でもなんでもなく、本当に数秒しか待っていない彰吾は謝罪を簡単に許して流し、本題へと移る。
すでに彰吾からのお仕置きとしては移動している30分ほど不規則に回転しながら連れられてきたのだ。これ以上はさすがに個人がやり返すにはやりすぎだと彰吾は考えていたのだ。
なので、捕まえ続けるのも疲れる事もあってすぐに引き渡そうとする。
『はい、私が二度と同じことをしたいと思わないようにさせます』
「そこは本当に頼む。さすがに俺が毎回出てくるわけにもいかないからな」
『任せてください』
異様なまでの圧に似た怒りの波動を放ちながら頷くエイシャに彰吾も少し怯える。もう二度に渡って自分が説教した次の日に悪戯を繰り返されエイシャも頭に来ていたのだ。
その怒りは彰吾どころか怒られ慣れているはずの妖精達にも想像できないものだった。
「じゃ、2分ほどで解けるから後は任せるな」
それだけを伝えて彰吾は魔王城のある方向へと飛んでいった。
ついでに今回の虫型人形には妖精の集落周辺で不審な動きをしないよう監視するように命令が出され、森林エリア内で常に妖精達が不審な動きをしないように待機していた。
そんな事は知らないエイシャは彰吾の姿が見えなくなるまで見送り。
ゆっくり顔を上げると周囲へと言葉を放つ。
『頑丈な縄を用意なさい。彼女たちが出たと同時に拘束』
『『『『『『『『『分かりました‼』』』』』』』』』
もはや放たれる怒りの波動だけで周囲の妖精達は逆らうなどできるはずもなく、瞬時に頷いて行動する。
ほどなくして彰吾の掛けた風の繭が解かれた。
『はぁ…はぁ…なんで私がこんな目に‼』
閉じ込められている間一度として休まることなく回転し続けさせられたティー達は、すでに体力の限界へと至っていた。
比較的に元気なティーだけは息を乱し顔色も良くなかったが、自分の扱いの悪さに悪態をつく。その態度には反省の色などなく隙を見ては彰吾の居る魔王城に対して何かをしてしまいそうな状態だった。
それを見て覚悟を改めて決めたエイシャは待機している妖精達に合図を送る。
『やりなさい!』
『『『『『『『『『はいっ‼』』』』』』』』』
『『『『『『えっ?』』』』』』
まだ弱って混乱しているティー達は咄嗟の事に鵜反応が遅れ、綺麗に他の妖精達が掴む縄に捕まってしまう。一先ず両足を縛った後で羽にも縄を潜らせ両手とつないで拘束して逃げる事を封じた。
妖精の羽は見た目こそ虫の羽のようだが縄で縛られたくらいで破れるほど軟でもなかった。しかし羽の動きを制限されると飛べないし、腕と結ぶ事で片方を動かすともう片方が引っ張られ痛みを発するのだ。
そのため妖精同士で相手を拘束する時にはよく用いられる方法だった。
『なんで、こんなことするのよ⁉』
『まだ分からないんですか…私達は住人として認められたとは言っても、魔王城では新参者。そんな状況ではいかに大人しく過ごして共に生活する者として認めてもらう必要があった。なのに貴女達のせいで信用を得るどころではなくなってしまっているのよっ!わかっているの⁉』
拘束されて長である自分を前にしても反省の色を見せないティーの姿にエイシャは落胆など袱紗繋感情が沸き上がり、普段の冷静な様子が嘘のように感情を顕わにして叫ぶ姿に周囲にいた者達までが息を呑む。
それでも普段から好きに生きてきた妖精達には他種族と生活するために必要な『協調性』などと言う物は皆無に近かった。
中には今のエイシャの言葉を聞き、自分達の立ち位置を正確に理解して申し訳なさそうな表情をする者も居た。だが大半はなにがいけないのか理解できていないようで首を傾げる。
(もっと教育にこそ力を入れるべきだったようね)
人間から同族を守る。
その一心で頑張ってきた弊害とでもいうべきかエイシャは他の事に手が回っていなかった。ゆえに村と言う形態を作ってはいても住人の妖精達には元来の幼さが抜けていなかった。
『…一先ず貴女達6人には私が直々にお仕置きします。他の者達も、私が改めて教育します。それが終わるまでこの場所から離れる事を禁じます!もし破れば…わかっていますね?』
『『『『『『『『『は、はい!』』』』』』』』』
有無をい分けぬエイシャの言葉に妖精達は頷くしかなかった。
それを見て小さく息を吐いてエイシャはティー達を縛る縄を掴み、引きずるように移動を始める。
『いっ‼痛い痛い‼』
『…そのまま少し反省なさい。もう少しで追い出される可能性すらあったのですから。今回は甘くはしませんからね…まずは本心から反省するまで甘味は禁止です』
『え⁉そ、そんなぁ』
妖精にとって最高の娯楽である甘味を禁止されてティーは絶望の声を漏らし、一緒に引きずられる妖精達はもはや言い返す元気すらないので静かに項垂れた。
そうして集落の外れにある人の目につかないうろの中へとエイシャは消えていった。
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