第61話 妖精騒動‼《2》


 妖精族が来てから3日目の朝、アイアスを始めとしたエルフ達は朝日と共に起きて薬草や野菜の世話へと出かける。それが魔王城に来てからの日常だった。


「今日もいい天気だな」


「あぁ、これなら薬草も無事に育ちそうだ」


 畑の育成状況を見てアイアスはいい笑顔を浮かべる。

 彼としては森林エリアの植物の状態管理は恩人でもある魔王、つまりは彰吾への恩外資にもつながる事だ。それだけに手を抜く事はなく責任感を持って管理していた。

 その思いを受けてエルフ達も協力的で畑の植物を始め、エルフ達の集落周辺の植物は他と比べて色艶よく育っていた。


 これで彰吾に次会う時には良い報告ができるかもしれないとアイアスが考えていた時だった。

 上空から大小さまざまな石が混ざった砂が降ってきた。


「いたっ⁉」


「ちょっ何だこれ⁉」


「っ!」『ウィンド・ウォール』


 急に降ってきた石と砂にエルフ達は咄嗟に対処できず直撃して小さな怪我を負う。

 その中でアイアスだけが瞬時に反応して風の防壁を展開して弾き飛ばす。時間にして2~3秒ほど続いたが、石や砂の量はバケツ5杯ほどあった。


 全てを防ぎ切ったアイアスは降ってきた上空を見ると、案の定と言うべきか笑っている妖精が数人いた。


「お前らか!なんでこんなことをした!?」


『なんでって言われても?』


『泥だけ死ななかったから、砂とか足した方がいいかな~って思っただけよ』


『ついでに人がいたからかけてみたの‼面白かったわ!』


 何を聞かれても楽しそうに笑い続ける妖精の姿、それを見てさすがに我慢の限界を超えたのかアイアスは怒りの表情を浮かべた。


「いい加減にしろ!」『ウィンド‼』


 怒りに任せて魔力を過剰に供給した初級の風魔法は暴風レベルの風を吹かす。


『『『『『きゃぁぁぁぁっ!!!』』』』


 完全に不意打ちで突風を食らい妖精達は抗う事もできず遠くに吹き飛ばされる。

 一応怪我をさせるつもりはなかったアイアスも方向には気を付けてやぶの中へと飛ばした。それでも衝撃が強かったようで悪戯を仕掛けた妖精達は気絶していた。


「俺はこいつらをエイシャ殿に届けてくる」『ウッド・ロック』


 妖精達の木々がひとりでに動き出して羽や四肢を動かせないように固く拘束。

 それを1つに纏めて持ち上げたアイアスはエルフ達に行先を伝えてエイシャの居る妖精達の集落へと向かう。

 妖精の集落の中では出かけていない者達が多く居て、捕まっている妖精達を見てヒソヒソ話していた。


『あちゃ~捕まっちゃったんだ』


『間抜けねぇ~』


『だから最後まで姿見せちゃダメなのよ!』


『でも、姿見せないと……』


 などと漏れ聞こえた話の内容だけでアイアスは更に怒りを募らせるが、何とか我慢してエイシャの屋敷を訪れる。


「エイシャ殿!少しよろしいか!」


『なんですか?アイアス殿……いえ、またうちの村の物が迷惑をおかけしたようですね』


 大声で呼ばれたエイシャは少し薄手のドレスのような恰好で外に出て、すぐに捕まっている妖精達を見て何が起こっているのかを理解した。同時に自分の注意は効力がなかったのか⁉とより強く怒りを浮かばされる。

 そんなエイシャを前にしてアイアスは今回あったことを説明する。


「はい、今回は石や砂を大量に上空から降らされ」


『っ!なんてことをしているのですか⁉』


 もはや悪戯って言えないレベルの行いにエイシャは怒り心頭の様子で魔力を周囲に放つ。濃密な魔力は風のように周囲を吹き荒らし周囲で盗み聞きをしていた妖精達は体を竦ませて平伏する。

 その波動によって気絶して捕まっていた妖精達も目を覚ましたが怒れるエイシャを見て再度気絶する。


「落ち着いてくださいエイシャ殿!」


『⁉すみません…』


 自分が取り乱している事に気が付いて必死に落ち着きを取り戻したエイシャは軽く謝罪して、魔力を収めて冷静さを取り戻していく。

 しかし怒り自体は収まってはいなかった。


『ひとまず、その子たちを渡してもらえますか二度とやらかす気が起きないようにします。ついでに他の者達も……わかっていますね?』


『『『『『『『『『は、はい‼』』』』』』』』』


 エイシャから放たれる怒りの波動に妖精達は怯え直立不動になる。

 少し置いてけぼり状態になりながらもアイアスは話を続ける。


「とにかく、今度こそ本当に二度と悪戯をしないように教育してください」


『わかりました。全力で持って教育させてもらいます』


「では、任せます」


 そう言ってアイアスは捕まえた妖精達を引き渡し、エイシャを信用して全てを任せ荒れてしまった畑の手入れをするために戻って行った。

 あとに残されたエイシャは拘束されている妖精達へと笑顔を向ける。


『さて?貴女達、覚悟はできていますね?』


『『『『『ひぃ!?』』』』』


 怯えて息を呑む妖精達に対してもエイシャは決して妥協する事はなく午前中から始まったは日が沈むまで終わらなかった。しかもエイシャが言った通り周囲で話を聞いていた他の妖精達も巻き込まれるように捕まり、これ以上余計なことをしないように教育される事になった。


 しかし教育する事に夢中になっていたエイシャは集落の外に出ていた者がいる事に気が付けなかった。

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