第56話 苦労人な2人


 彰吾が支配権を手に入れた事で豪雨と成った雨を降らす魔法『コール・レイン』は桁違いの豪雨となっていた。あまりに勢いがすごすぎて弱い枝などは折れてしまっていたほどだ。

 さすがに勢いが強すぎると思ったのか彰吾も流す魔力の量を減らし、夕立ほどの勢いにまで調整した。


「ひとまずこれでいいか、完全に炎を消しても面倒だしな」


『そうですね…』


 彰吾とエイシャの2人は真剣な様子でまだ消えることなく燃える炎を見て安堵すらしていた。燃えているとは言っても先ほどまでの勢いはすでになく、1日や2日で森を焼き尽くすようなことはなくなった。

 だが2人の言ったことを理解できず不満そうにしている者も居た。


『なんでよ?炎が危険なんだから消せば問題解決じゃない!』


「『はぁ……』」


 あまりにも純粋に話すティーに対して2人はそろえたかのように溜息を漏らす。


「人間が何で直接的に突入を仕掛けてきていないと思っているんだ、お前は?」


『そんなの私達の迷いの結界と村長の霧があるからよ!』


「それも理由の一つではあるだろうが違う。結界は亜人などの魔法に干渉して弱める魔道具があるのだから大して意味はないし、霧に関しても簡単に張れる結界で霧の接触を防げば問題はない。問題なのはあいつら自身で放った炎だよ」


『なんでよ。そんなに邪魔なら自分達で決して入ってくればいいじゃない』


「だが、火を消せばエイシャも守りから攻撃へと魔法を変える事が出来る。それに消してもいつ倒れてくるかもわからに灰になった木々、加えて灼熱を放つ空気や地面のなか霧や結界に対処しながら進まなく行けなくなるんだぞ?そんな面倒で労力の掛かりすぎる事を人間はやりたがらない」


『なんでそんなことが断言できるのよ!』


 自分の考えをひたすら否定される事にティーは苛立ちを募らせる。

 そんな様子にも彰吾は何処までも冷静に答え続けた。


「簡単だよ。大半の人間は愚かで欲望に抗えない生き物だからだ」


『え?』


「特に権力を持った者は権力に固執するし、力を持つ者は必要以上にそれにプライドを持つ。なのに同時に臆病でもある」


『臆病?』


「人間は何かを欲するのと同じくらいに、すでに手にしている何かを失う事を極端に恐れる。奪われるなら死に物狂いで抗い、そして失う可能性があればチャンスであっても見送ってしまうほどにな」


『な、なんであんた…断言できるのよ』


 話している内に徐々に光を失う彰吾の目を見てしまったティーは恐怖に身を竦ませる。

 その様子に気が付いたエイシャが2人の間に割って入る。


『とにかく、炎のおかげで私達を閉じ込めると同時に自分達が中に入る事すら彼等はできなくなっている。そう理解しておけば間違いではないわ』


「っ…そういうことだ。理解できたか?」


『わ、わかったわ』


 まだティーには怯えはあったがエイシャが割り込んだおかげで彰吾の目にも光が戻り、先ほどまでと変わらない雰囲気になったことで安心したようだった。

 そして少し話しすぎてしまった事を彰吾は後悔していた。


(あぁ~~~‼やらかしたぁ……睡眠不足だからストレスたまってたかな。少しむきになって話過ぎた…)


 ドワーフの街以降は比較的、休むことのできる日が多かったがでも普段の彰吾から考えれば働きすぎと言えるほどには動き続けていた。

 そのせいかストレス過多になってしまい今回の妖精の村への救援も乗りで決めてしまっていた。


 自分の精神すら制御できていないのは今話した人間と同じじゃないか…と余計に落ち込んでしまうのだった。


 でも、いつまでも落ち込んで時間を無駄にすることもできないのでなんとか気を取り直して顔を上げる。


「ふぅ……とりあえず、なんか飲むか?」


『はい、少し落ち着きましょうか…』


 お互いに冷静さを欠いて疲れたこともあって一息つく事にした。

 彰吾は持ってきた水筒からお茶を入れ、エイシャも近くの妖精に行って屋敷の中からポットを持ってきてもらいお茶を飲む。


「『ふぅ~』」


「それで今後の事だけど日の出前に一斉に飛びたつつもりだ」


『なるほど、ではそれまでに準備を終わらせるようにしましょう』


「頼む」


 一息ついた2人は手短に今後の動きを話し合う。

 とは言っても、村から逃げ出すことは決まっているので後は方法と決行の時刻くらいなものだ。それさえ決まってしまえば後は大したことはない世間話だ。


「妖精を束ねる事はたいへんじゃなかったのか?」


『大変でしたねぇ…言う事は聞かない、ルールは破る。まずルールは守るものと言う考え方自体がありませんでしたね』


「そう言う感じか…よく、ここまで教育で来たな」


『まぁ…一度は自分で決めて引き受けた立場ですから。中途半端に投げ出すのは、自分が許せない気がしたので』


「なるほど、その気持ちは少し理解できる…俺も魔王に選ばれたとは言っても最後に選んだのは自分自身だからな」


 そう言って彰吾は転生などは言わなかったが神に選ばれ亜人種を救うために魔王と成ったことを話す。


『そんな経緯があったのですか…』


「まぁ…城だとか手に入れて楽はさせてもらっているから文句は言えないんだけどな…」


『いえ、1人で全人類と敵対するような決断です。尊敬しますよ』


「ははは!それを言ったら人間に狙われる同族を集めて村にまで発展させたエイシャの事を尊敬したいな」


 2人はお互いに話している内に打ち解け合い。

 なにより規模こそ違うが『人類に敵対して、集団の長になる事を選んだ』と言う共通点から異様に仲良くなっていた。

 そこからはどんなことをして村を発展させてきたのかを彰吾はエイシャに聞き、反対にエイシャは他種族との出会いや人間との戦いなどを聞いていた。


 人間達との戦いなどは一方的過ぎる展開を、彰吾が持ち前の頭脳を使って面白く少し脚色しながら話して聞かせた。

 そうしてわいわい話していると次に2人は苦労話へとシフトした。

 しかもお互いに気心れた相手がいなかったからだろう。


 話す事でスッキリすると気が付いたのか、何が大変で、なにが苦労したかを詳しく話最終的にはついになんとなくで彰吾が持ってきていた果実酒を呑んでの愚痴りへと移行していた。


「だよな~!」


『ですよね!』


 と、普段ここまでぶっちゃけた話の出来なかった2人は酒が入るとテンションも爆上がり。

 もはや会話になっているのかも分からない勢いで夜まで話し続け、気が付いた時には2人そろて話疲れて眠ってしまっていたのだった。

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