第54話 妖精姫との話
濃霧の中に突入した彰吾は瞬時に自身とティーの周囲に結界を展開した。
「この霧…思った以上に危ないな」
『なになに?何かあったの?』
「この霧に触れると精神に強い影響を受けるんだよ。呼吸で吸い込んだりしたら治療には相当時間を取られる」
『うぇ~あっちいけ‼』
説明を聞いてティーは汚い物だと認識してしまったようで風魔法で霧を吹き飛ばそうとした。だが彰吾が結界を張っている中でそんなことをするとどうなるのか?…考えるまでもなく、2人を囲む結界内を暴風が駆け巡る。
風が収まった時には2人そろって髪はボサボサで埃がついた状態だった。
「『………』」
「……で?」
『ごめんなさい…』
さすがに今回はどう頑張っても言い逃れできない現状にティーも素直に謝罪した。
その後はなんとか気持ちを立て直した彰吾はドラゴン型人形に移動を命じる。
1m先も見えないような霧の中だが魔法に繋がっている魔力の糸の根元を目指して指示をしているので、彰吾達は迷うことなく真っすぐに村へと進むことができた。
さすがに巨大な樹を倒して進む事はせず避けていたので多少の迂回はしていたが、どこまでも深い森で視界も悪い中だと考えれば異常な速さだ。
しばらく進むと少し開けた場所に出て、そこには地球で言うところの子供用の家型の遊具のような大きさの家が無数に建っている場所にやってきた。
そして建物があるという事は住んでいる者が居るという事で…
『『『『『『『きゃぁ――――――――――――⁉⁉』』』』』』』
『人間⁉』
『ド、ドラゴン――――⁉』
『逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃっ‼』
彰吾達、特にドラゴン型人形の顔を見た瞬間に集まっていた妖精達は一斉にパニックを起こして場は一気に混乱してしまう。
妖精達は全部で30人ほどで連鎖的に全員が混乱を起こしてしまっている。
しかも悪い事に鳥かごに入ったティーを見られたのが止めとなり落ち着かせることができなくなっていた。
『何事ですか⁉』
そして外の騒ぎに気が付いた人期は豪華な二階建ての屋敷から蝶のような羽を持つ妖精。妖精姫が出てきてその場全体に響く大きな声で叫んだ。
外に出て周囲の状況を確認して、瞬時に彰吾を見つけて『もう人間に見つかったの!?』と驚愕したが魔力を感じてその考えを自分で否定した。
なにせ彰吾の体から漏れる魔力の量と質の両方が常人ではありえないほどに高すぎた。なによりも妖精姫に備わっている特殊な『妖精眼』と呼ばれる眼によって
彰吾の、いや魔王と言う種族の本質的な強さを知覚してしまったのだ。
あまりに圧倒的過ぎる差、それを自覚できてしまっただけに妖精姫の体は強張り、血の気が引き体は冷えていくのに流れる汗は増えていた。
だが村の長と言う立場がなんとか彼女を踏みとどまらせた。
『あ、貴方達は…何者…ですか』
「お、話が通じそうな相手が来たな。俺は亜人の保護を目的として行動している魔王だ。今回はこいつに頼まれて救援に駆け付けた」
『…?貴女は⁉』
自己紹介と一緒に来た目的を説明すると妖精姫はようやく視線を動かすことができたようで、そこで初めて村の外へ追放同然に放り出した者の1人であるティーの姿を確認して驚いた。
戻ってくることはないだろうと送り出したのに、真剣に救助を呼んできてくれたことに驚いた。
『あ~長!助け呼んできたよ‼』
『えぇ…助かりました』
今回のピンチの原因を作った相手に救われるという事に少し複雑そうにしてはいたが、実際問題として危機的状況を回避するという事に関して目の前の魔王ほど頼りになる相手もいない。
なので自分の複雑な感情は押し殺して感謝を口にする。
そして村長が戦わずに話しているのを見てパニックを起こしていた妖精達も落ち着きを取り戻してきたようで、今では大人しく2人の話の行く末を見守っていた。
「それで俺の助けは必要という事でいいのかな?」
『はい、私共の力だけではどうにもならない状況で…どうかお力をお貸しください』
「元からそのつもりだ気にしなくていい。それよりも避難場所になにか心当たりは?」
『それは……』
彰吾に聞かれて妖精姫は改めて逃げた後の事を考えたが自分達の避難先と成る場所に心当たりがなかった。どれだけに言葉に詰まってしまう。
その反応だけでなんとなく状況が読めた彰吾はあらかじめ誘導しようと思っていた結論を提案する。
「なら、村の全員で俺の城へ来ないか?人間では簡単には攻略できないような場所だぞ」
『っ!ほ、本当によろしいのですか?』
「自分から提案しておいて断る事はしない」
『どうかよろしくお願いします‼』
もはや他に選択肢もなかった。
それゆえにチャンスを逃すまいと妖精姫は土下座するような勢いで頭を下げて彰吾の提案に乗り、彰吾も快く受け入れた。
周囲で聞いていた妖精たちの大半は話の内容についてこれていなかったようで、2人の話が纏まると同時に妖精姫が少し離れて改めて分かりやすく今後の動きを説明するのだった。
『難しい話は終わったの?だったら飴玉ちょうだい!』
「はぁ……」
普通に妖精姫とは話す事が出来ただけに手元で残念発言をするティーに疲れたような溜息が漏れる。
そして彰吾が村に到着してものの数分で妖精の保護は完了したのだった。
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