第53話 煙る森、霧の森
『ひゃっほ――――‼』
現在居る場所は上空数千メートル。
そこを高速で飛ぶドラゴン型人形の上でティーは落ちないように鳥かごに入りながら楽しそうにはしゃいでいた。
そんなティーの姿を見ながら彰吾は高速で後方に流れる風景を静かに楽しんでいた。
妖精の村を救うためにすぐに人形兵50体をドラゴン型人形3体で輸送していた。
しかし今回はクロガネやギンソウのような特に戦闘に特化した者を連れてきていなかった。
そこには彰吾もよく考えた上での色々とした理由があった。
まず単純にクロガネとギンソウは連携を高める訓練中だ。そちらに集中してほしかったので彰吾は連れてくるのを止めた。
他にも指揮をするだけなら出来そうな者は捕まえてきた魔物などにも出始めていたが、基本的に何かと戦うと成った時の主力は人形兵達なのである。
なので今回の妖精の村への救援をいい訓練になると判断したのだ。
すでに実例としてクロガネのように知能が確実に上がっている個体が数体出てきていた。だから彰吾が連れてきた人形兵は基本的にまだ成長しきっていない個体を中心に選ばれていた。
最大の目的は妖精の村の救援だが、副目的として人形兵の成長実験をするつもりなのだ。
(クロガネも少しは意志疎通ができるようになったし、他の人形兵達も何か変化があると良いんだけど………?)
そんな風に思いながら進行方向を確認しようと視線を動かすと何かを見つけたのか前のめりになりながら確認した。
「おい、村の方向はこっちであってるんだよな?」
『なによ?さっきからそう言ってんでしょ』
「つまり間に合わなかった可能性が高いってことだな」
『え?』
深刻な表情で話す彰吾を見てティーもようやく正面へと視線を向ける。
そこには外側から黒い煙が広範囲から上がり、根元では紅い炎が木々を焼き尽くさんとばかりに燃えていた。上空には薄い雨雲が雨を降らし続けていたが炎の勢いが衰える様子は欠片も見られなかった。
しかも炎の上げる煙に囲まれる森の中心には広範囲が濃い霧によって包まれていて中の様子を見る事すらできなかった。
『な、なんでこんなことになってるの⁉』
「まぁ…妖精達を見つけられなかった人間側がしびれを切らしたってところだろ。要するに森を焼いて逃げてきたところを捕まえるつもりってことだな」
『そんな⁉』
冷静な口調で話す彰吾の言葉にティーは絶望に染まった表情を浮かべる。
なにせ妖精族は飛べても木々の上を超す程度の高さなのだ。こんなに上空まで立ち込めるほどの煙を避ける事ができる高さまで飛べない。
しかも肉体の強度は見た目通りに弱くて幼い子供と大差なかった。そんな状態で高温の煙の中を飛ぶことなどできるはずもなく、つまりは逃げ場がないという事に他ならなかった。
そんな状態ではどうしようもないと同族であるからこそティーは強く認識して絶望していた。
対して彰吾は逆に希望を見つけたというような明るい表情をしていた。
「まだ村は残っているみたいだから一々落ち込むな…めんどくさい」
『⁉本当ですか‼』
「あぁ確実にな。ほら、あの今も降ってる雨と森を覆ってる霧。あれは誰かが使った魔法によるものだろうな。下の炎も魔法によるものだから消せてないみたいだが、勢い自体は少なからず落として時間稼ぎになっている」
『あれが魔法⁉』
天候を操るような魔法が使われているという事の方に驚きティーは改めて正面を見ると、確かに限られた範囲だけに降る雨と留まり続ける霧という自然現象と考えると不思議すぎる光景が広がっていた。
だが目の前の光景が魔法によるものだとは信じ切る事が出来ないでもいた。
『なんで、魔法だってわかったのよ?』
「あん?そんなの周囲の魔力の流れがあからさまにおかしいからな。特に雨雲の在る上空とかは何かの残滓みたいなのが舞ってるし、下の炎には使用者が常に魔力を送って火力を落とさないようにしてるみたいだが、反対に雨雲の方は自然の魔力を吸収して降り続けているようだから発動者への負担は少なく自然の魔力を流用していr『もういいわ!』なんだよ、ここからが本番だったのに」
『そんな難しいこと言われても私にはわかんないのよ‼』
つい興味の尽きない事象についての話でブレーキの効かなかった彰吾をティーは不貞腐れながらも強引に止めた。彰吾の話している内容魔魔術研究家などでようやく理解できるような内容で最初から最後まで聞いていたら終わるのは夕方になっていただろう。
「なら分かりやすく言うと自然に発生した現象にも魔力は宿っているが、魔法の場合はどんなに薄くても発動者とのつながりが残る。魔力の糸でつながっているような物だな」
『魔力の糸?』
「そう。だから糸が切れていないうちは発動者は生きているし、その意図があの霧の中心部に向かっているから村も無事って話だ。理解できたか?」
『今のはなんとなくわかったわ!』
「なんとなくかぁ」
頑張って分かりやすく話したつもりの彰吾は困ったように頬を掻く。
だが話を聞いたティーとしては小難しい話は本当にどうでもよかった。今重要なのは『村が無事』その事実だけだった。
『とにかく村が無事なら速く助けに行きましょう!』
「それもそうか…少し人間から攻撃を受けるかもしれないから覚悟しろよ?」
『最初からしているわよっ‼』
「ならばよし!全員突っ込むぞ‼衝撃に備えろっ」
一度言って見たかったセリフを口にしながらノリノリで彰吾はドラゴン型人形の頭上に立って、急降下の指示を出す。
ほぼ直角に落ちるように降下して濃霧の中へと消える。
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