第43話 ドワーフ達の願い


「こちらなどはドワーフに人気の酒屋になりますね!」


「へぇ~」


 街中の案内を買って出てくれた隊長のおかげで彰吾は迷うことなく街の中を歩くことができた。もっともほとんどが廃墟となっているような区画も多くて、今居るよう評議会場の近くでもないと、店などは残っていなかった。

 今、目の前にある大規模な酒屋などは原型を完全に残していた店の一つだ。


「ここの特性の酒が絶品でな~」


「なるほど、では後ほど味わいたいところだな」


 街中を案内してもらっている内に彰吾が気軽に話しかけてくるために守備隊・隊長もなんだか親しみを持ち始め、合わせて口調が徐々に砕けてきて最低限の敬意をもって接してはいた。

 ただ魔王としてのイメージを崩さないように気を付けている彰吾は気が休むことなく、すでにかなり疲れてきていた。


(帰りたい…寝たい…)


 話している間も頭の中でそんなことを考えながら彰吾は過ごしていた。

 そうして表面的にはお互いに仲良くしているようにしながら評議会場へと来ていた。地球で言うところの議事堂などの石造りの高級感のある建物だが、そこに魔法道具でより細かく豪華に装飾されていた。

 入り口にも大きな騎士像が立っていて、そこに足を止めて彰吾を見上げる。


「なるほど、見事な出来だな」


 そうして見上げている彰吾の目には魔力の流れなどがハッキリと見えて、騎士像がただの石像などではなくて魔力の通った人形兵に近い無機物の装置のような物だと理解した。

 しかも魔力の流れがスムーズで効率化もされていると認識できたのだ。

 ゆえに漏れ出た称賛の言葉だった。


「やはり、お分かりになられますか」


「?」


 綺麗な芸術品を見ているような気持ちで見惚れていると彰吾の背後から声を掛けてくる者がいた。

 そこには豪華な装いの服を身に付けた立派な髭と筋肉を携えたドワーフが立っていた。


「急に失礼いたした。儂はドワーフ評議会の1人で『ヴァルト・オールスト』と申す。貴方様が見ていた騎士増のゴーレムを作ったのは儂なのですよ」


「!そうだったのか、これは見事な出来だ」


「ほっほっほっ!儂にとっても最高傑作でありますからな」


 本当に嬉しそうに話すヴォルトは誇らしげで嬉しそうに髭を撫でていた。

 そのまま話を広げそうになるが彰悟とヴォルトを止めるように咳払いが聞こえてくる。そこでは隊長の男が困ったような表情で立っていた。


「ごほんっ!御2人共、他の方々がお待ちですので」


「そうじゃった。ここからは儂が案内いたしますのでついてきてくだされ」


「わかった」


 少し気まずそうにヴォルトが言うと彰吾も大人しく頷いてゆっくりと案内に従い議会場の中を進む。

 中は外以上に豪華な装飾などが目立つが下品には見えず、それこそ博物館や神殿のような美しさがあった。魔王城に住んでいる間に少し感覚が慣れてきてはいたけれど、豪華な空間に彰吾は少し落ち着かずにそわそわしていたが必死にばれないように取り繕った。


 そして一際豪華な扉の部屋に入ると10人ほどのドワーフが待っていた。

 彰吾は用意されていた高級そうな1人掛けのソファーに座ると、相手側の開いていた席へとヴォルトが座ると代表するように口を開いた。


「まずは今回の街の棒兵に協力いただき全ドワーフを代表して感謝いたす!」


「別に私としても目的があってしたことだ。感謝する必要はない」


「いや、それでも言わせてくれ」


 どんなに拒否されようとヴォルトを始め相手側の者達は誰一人として顔を上げようとはしなかった。それほどまでにドワーフ達の感謝は大きかった。

 そしてひとしきり感謝の言葉を伝えたヴォルト達は本題へと入った。


「今回のお礼として魔王殿の望むものを儂らが用意できる限りなんでもこたえたいと思っている。なんでも言ってくれ」


「…では、この街を私の保護下に入れたいのだが…構わないかな?」


「保護下…」


「保護とは言っても、特に何か縛るようなことはしない。今まで通りに生活してもらって構わない。私は神々により亜人と呼ばれる者達の保護を使命としている。ゆえに危険な状況にあるお前達を放置する事はできないんだ」


 少しの建前と本音を持って答えた彰吾だが頭の中はいかに早く話を切り上げられるかしかなかったが、それでもドワーフ達には響いたようだった。

 しかし彼等の反応は乏しくなかった…


「お気持ちはありがたいのですが…」


「なにか理由があるのか?」


 断ろうとするヴォルトの言葉を遮って彰吾は質問を返す。

 その事に評議員達は驚愕の表情を浮かべ、同時に話していいか悩むような素振りを見せた。しばらく何事か小声で話し合った後に…ゆっくりと話し出した。


「儂等ドワーフ族には悲願とも言える願いがある。それには膨大な資金と素材が必要なので、ゆえに中立の交易都市と言う立場を捨てる事はできないのです…」


 どこかくらいような声音で、しかし確かな決意を秘めた熱がこもっていた。

 他の評議員達の表情も似たような者を感じさせるもので正面から見た彰吾は増々、そのドワーフ達の願いという物が気になっていた。


「その願いとやらの詳細を聞いても?」


「話した方が、納得していただけるでしょう…」


 そうしてヴォルトはドワーフの数百年も前から続く夢を語る。


「もはや性格な記録が残っていないほどの昔、当時の最高の腕を持つ鍛冶師のドワーフが神に奉納するための武具を作ることを依頼されました。そのためにドワーフ族は総出で素材を集め『ミスリル』『アダマンタイト』『ヒヒイロカネ』など、伝説級の鉱石に魔物素材までを集めた」


「そうして始まった鍛冶だったが一つ大きな問題があった。伝説級の素材を加工するには鍛冶の命とも言える『炎』が弱すぎた…ゆえに鍛冶は難航し世界中の珍しい炎の収集へと踏み出すことになったのです。それこそ『焔竜王の炎』『マグマ』『悪魔の炎』『天使の炎』なんでも集めたと伝わっています…」


「へぇ~」


 物作り事態が好きな彰吾としては自分がまだ知らない素材が無数にある事に好奇心をより募らせ、少し前のめりに話に聞き入る。


「ですが、職人の求める水準に届くほどのの高い炎は見つからず難航しました。そんな時に1人の魔法使いが言ったそうです『すべての炎を混ぜ、自分達の魔力を注ぎ込めば現存するすべての炎よりもすごい物ができるはずだ!』と、最初は半信半疑だったそうですが他に方法もないので試したそうです」


「そして成功したんだな?」


「はい、漆黒と純白の混ざった恐ろしくも美しい炎だったと伝わる『混沌の焔』と呼ばれるようになった焔ができあがった。その焔を使って作られ鍛えられた武具は神の奉納品として最高の評価を得て、制作した職人は神々から絶大な祝福を与えられ。協力したすべての者達にも神々からの賛辞と褒美の品が送られたそうです」


「つまりお前達の願いは、その時の奉納された物と同じ方法での武具の制作ってことか?」


「はい…」


「なるほどな。それは確かに生半可な財力や権力では不可能だな」


 話を聞いて彰吾は深く何度も頷き納得した。

 当時とでは大きく変化した事は多いだろうし、その中でも魔物素材は絶滅した種族も居るだろう事を考えると難易度は極端に跳ね上がる。


 他の鉱石なども珍しい物は使用されれば数年では見つからないだろう。

 その見つかった鉱石も力も財力もある国や組織に買い占められ、現代では立場の弱い亜人種のドワーフ族では簡単に手に入れる事は難しいだろう。


 だからこその『この街』という事だ。

 世界的に見ても珍しい亜人種の運営する街で他の国々からの侵略を許さないという伝説的偉業。更には凄腕の職人たちによる武具や装飾品などによる交易をおこなう事で人間国家に利益もだして攻撃する理由を薄くして、むしろ自分達にこそ珍しい鉱石などの素材を渡した方が得だと思わせるように動いてきたのだ。

 それこそ何世代もの時間を掛けて綿密にな。


「そう言う事なら仕方ないが、お前達はその『混沌の焔』とやらを用意できているのか?」


「「「「「「「「「「っ⁉」」」」」」」」」」


「……できていない」


 的確に現状を付かれたことに評議員達は驚き、ヴォルトは悔しそうに答えた。

 その答えを聞いて彰吾は少し考えると口元に笑みを浮かべる。


「なら、私が協力してやろう」


「なに?」


「鉱石や素材の採取は私の力をすでに見たなら心配がない事を理解できるだろう」


「確かに…」


 頷いたヴォルト達の脳裏にはバールスト帝国軍を蹂躙する黒い騎士達の光景が浮かんでいた。


「さらに私は膨大な魔力を持っている。それこそ魔術師数十人分の魔力なら賄えるくらいにな」


 そう言って彰吾は今まで隠蔽していた魔力を放出して見せた。

 体から放たれた魔力は部屋の中を強風がごとく駆け巡り正面に居たヴォルト達などは、あまりに予想以上の衝撃に恐怖で体を怯ませていた。


「どうだ?これだけの魔力があって、兵力もある。そんな存在が協力したら……可能だと思わないか?」


「「「「「「「「ッ!」」」」」」」」


 魔力をゆっくり収めながら笑みを浮かべて言う彰吾にヴォルト達評議員はめを見開く。焔の再現で一番の問題は膨大すぎる魔力と全ての炎を纏め上げるだけの魔法の腕前が必要だという事だった。

 しかし回戦の時に見せた魔王の魔法と、今体感した魔力。

 それが導き出す結果は…


「儂等の夢、ご協力いただけますか…魔王陛下」


「もちろんだ。そんな熱くなれる楽しそうな事を私抜きでなどさせるわけがないだろう?」


「ならば、儂等ドワーフ族一同…魔王陛下の保護下に加えていただきたい」


「「「「「「「「どうか、お願いいたします」」」」」」」」


 ヴォルトが頭を下げたのと同じくして他の評議員達も一斉に彰吾に頼む。

 もはや誰かに頭を下げられることに慣れてきている自分に自虐的な笑みを浮かべて彰吾は答えた。


「元は私から持ち掛けた話だ。断るわけがないだろう?」


 そう笑顔で差し伸べた彰吾の手をヴォルトは安どの笑みを浮かべながら握る。

 こうしてドワーフの街は魔王の庇護下へと入り、そして人間達の居住地域に隣接する土地を魔王が支配下に置いた歴史的瞬間であった。

 もちろん彰吾をはじめ当事者達はそんなことを知るわけもない事だった。

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