第42話 事後処理
「凄まじいな……」
「あぁ…」
防壁の上で戦況を見守っていた守備兵達に混ざって少し豪華な衣服に身を包むドワーフが数人いた。
彼等こそが街の代表者である評議会の議員達であった。
人間に攻め込まれ裏切り者が出て防壁の内側まで攻められた事を受け、彼等議員達も覚悟を決めて陣頭指揮を取ろうと防壁に向かっていたのだ。
ちょうど時を同じくして到着した魔王である彰吾の宣言と行動で彼等の出る幕はなくなってしまったが、自分達が力を借りた相手の実力を確認するために防壁に上がって少し前から戦場を見ていた。
そして彼等から見ても見事な連携をするバールスト帝国軍。
だてに亜人差別が主流の世界で融和政策を続けながら、中立国として周辺国からの武力的圧力からも逃れ続けてきた歴史を持つだけの事はあった。
しかし人間の戦略などは魔王の先兵には何の意味もなさない。簡単に一度に数人単位で首を狩られる。
なんとか捨て身の魔法師の追加投入でチャンスを作り出したかと思えば、動くことのなかった一際豪華な鎧の者クロガネが危機を破壊した。
その後にはドワーフの街にまで名前が聞こえてきたほど有名だったエルヴィだったが、一騎打ちに臨むと何もすることもできずに一方的に殺された。
残っていた兵達は絶対的な精神的支柱だったエルヴィの喪失によって統制を失い。立て直すことができたのは比較的優秀な体調が付いていた数個の小隊だけで、他の者達は抵抗する事すらできず人形兵達によって殲滅されて終わった。
そんな現実を目の前に集まっていた評議員達は静かにお互いを見合う。
「敵対だけは絶対に避けるべきだ」
「それはそうだ。なによりも、儂等全員の恩人とも言える相手だ」
「確かにな。失礼な対応は許されんわい」
「なら、決まりじゃな…」
静かにそう言った評議員達は現状の自分達ができる事を最大限に行うために動き出す。
その間にも防壁の外ではバールスト帝国軍は殲滅され続け、10分もしないうちに殲滅は完了して人形兵達はクロガネを先頭にして上空の彰吾に跪く。
全身黒い人外の力を持つ騎士達が圧倒的忠誠を誓っていると分かる光景に見ていた守備兵達は驚愕して、これから自分達の前に姿を現す魔王とはどんな相手なのか…息を呑んで見守った。
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そして地上から異様に注目されてしまっている彰吾は……普通に眠っていた。
なので起こすために乗られているワイバーン型人形は上下に体を動かした。
「っ!地震か⁉」
日本人の習性と言うべきか彰吾が神経質なのもあるのだろうが、揺れを感じるとすぐに地震を疑って跳び起きた。もっともワイバーン型人形は飛行しているので地震の影響なんて受けないので、完全に寝ぼけている彰吾だから騙せたとも言える。
起きた彰吾も周囲を見回して上空だと思い出すと落ち着きを取り戻して、すぐに自分の目的も思い出して地上を見て現状を理解した。
「あぁ…なるほど、もう終わったか…人間思った以上に弱いな」
そこら中に転がる人間の死体を見ても彰吾は少し顔色を悪くする程度で、吐き出したり動揺する事はなかった。元から殲滅するつもりだったし、なんなら人間の死体を間近で見たこともあるのだ今更動揺などしない。
人形兵に犠牲が出ていないかなどの確認をして1体の損害も出ていないことを知って安どの息を吐く。
「ふぅ…よかったまた育成するのには時間が必要だからな。数が多くない現状だと1体の犠牲でも影響は大きいいからな。降りてくれ、最後の仕上げをする」
『…』グラ
ワイバーン型人形は出された指示に軽く頷いて答えてゆっくりと地上へと下降を始め、ほどなくして跪くクロガネ達の目前へと着陸した。
そして降りるまでに前も来ていた軍服のようにも見える綺麗な黒の礼服を身に纏って彰吾は降りた。
瞬間、周囲に目に見えない圧のような力が解き放たれて意志の弱い者などは立ち上がることすらできなくなり、皆一様に彰吾に向けて跪くような形となった。
【殲滅ご苦労だった。私の大切な兵達よ】
【おかげで問う時命が多く救われ、この街と人とは守られた】
クロガネ達に大袈裟なまでに両腕を広げて歓喜を告げる彰吾に周囲は少し困惑しているようだったが、本当に自分達は助かったのだと認識したのか街の中からは歓喜の声がそこかしこの漏れぎ超えてくる。
そんな周囲の反応を確認しながらどの兵力を連れて行くのが効果的かを瞬時に判断していた。
【我が願いにこたえて戦ってくれたお前達にささやかな褒美を…与えよう】
そう言って彰吾は人形創造スキルを使用して表面についた血液、他にも近くに落ちている壊れた武具なども大きく光り出して身を包み込む。
しばらくして光が消えると一段と光沢を増したクロガネ達が現れた。
【さらなる強さを持って私に仕えろ】
『カシコ、マリ…マシ…た』
「⁉」
クロガネが途切れ途切れだけど言葉を発した事で彰吾は演技も忘れて驚き固まっていた。でも、なんとか周囲に誰かいる事を思い出して演技を再開する。
【そしてドワーフの街を守りし兵達よ!汝らの勇気を私は尊敬しよう】
【汝らの頑張りが無ければ私は間に合う事はできなかっただろう。ゆえに、諸君らにも同じだけの感謝を…ここに捧げよう】
そうして彰吾が両手を合わせて本当に神にでも祈っているかのような体勢を取ると、魔力が少しずつ手から周囲へと広がっていき…それに触れた者は安心感を与えられて彰吾に感じていた警戒心すら薄れてきて。
中には圧倒的強者である彰吾からのありがたい言葉に感極まっている者も居た。
他にも1人1人、個別に近くにいた者から声を掛けていき握手する時に流し込んだ魔力によって負っていた傷などを回復させていた。他にも兵士達には常に余計なことをしないように魔力で威圧するのも忘れてはいなかったが、それでも何とか正気を保っていた守備隊長の男が前に出る。
「このまま街に入られるのでしら、ご案内させていただきます。評議員の方々もお待ちしておりますので…」
「そうかい?ならば頼もうかな」
「はっ!お任せください!」
やる気に満ちた珍しい隊長の様子に周囲は困惑の表情しているな。
だが周りなんて見えてないのだろう隊長の男は楽しそうに魔王に街の中を案内しながら。もう一つの目的地である。議会場へと目指してゆっくりと案内を続けるのだった。
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