第39話 駆けつけるは魔王
ドワーフの街が襲われた報告を受けた彰吾は現実逃避したい衝動に駆られながらも、放置は最悪の悪手だと分かっているから気合を入れてなんとか動き出す。
とは言っても、修行の旅の途中のドワーフ達から情報を手に入れた段階から準備だけはしていた。
「クロガネ人形兵の約半数を連れてワイバーン型人形で所定ポイントまで移動、後の指示は現地に行ってから出す」
『…!』
指示を聞いたクロガネは綺麗な敬礼をして他の人形兵へと集合の指令を出した。
しかもレベルを大幅に上げる事に成功したクロガネは少し前に彰吾から改修を受け、遠隔での配下の人形兵への指示の伝達を行えるようになっていた。その事が分かった時は『なんで作った俺の出来ないことできるようになってんの?』と割と本気で羨ましそうに彰吾に言われてしまっていた。
それでも与えられた能力を十全に使えるようになる事を優先してきたクロガネは、現在では魔王城内の人形兵の9割に直接指示を出すことができるようになってした。残りの一割は彰吾が実験的に作った者達で指示系統が違うため、クロガネは支配権を持っていないのだ。
しばらくして魔王城から大型のワイバーン型人形によって魔王城の常備兵力の半数、約250体を連れてドワーフの街へと飛びたった。ここまでの時間は知らせが付いてからわずか10分の事だった。
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「うわぁ…これ手遅れかな?」
空を飛んで約1時間ほどで着いたドワーフの街。
そこは赤々とした炎が燃え盛り人々が逃げ惑っているのが上空からだとよく見えた。完全に手遅れだったかに見える光景に彰吾は冷や汗を浮かべるが、改めてよく見てみると街が燃えているのは2~3区画ほどで他の場所では兵士らしき者達が抵抗しているようだった。
なにより陥落している門は一か所だけで他の門は破られていない。
だが、各門にも敵とみられる黒ずくめの兵達がじわじわと確実に近寄っていたのは間違いなかった。その事実を目の当たりにした彰吾は自分の乗るワイバーンを除いた者達に指示を出す。
「ひとまず街へと勧告を行う。その後に一斉に暗い色合いの鎧を身に纏った者達を制圧する!合図として魔力を上空に打ち出す!以上、散開」
『『『……‼』』』
短い、しかし確かん意志の乗った彰吾の言葉に人形兵達はワイバーン型人形の持つかごの中、見事な敬礼を決めて所定に持ち場へと散っていった。
そして彰吾は街のちょうど真上へと移動した。
すると下で争っていた者達も、急に巨大なドラゴンが現れたと思っているようで混乱して争うのをやめたので静まり返っていた。
静寂に包まれた戦場と化したドワーフの街へと彰吾はゆっくりと声を響かせる。
【私は魔王。亜人と呼ばれ蔑まれる者達の守護を使命とせし者也】
【汝ら人類よ。これ以上、彼等を襲うことなく立ち去れ。さすれば私はお前達を追撃はしない…しかし続けるのであれば…容赦はしない】
そう言った瞬間、下の街に居た街を攻め込んでいた者達だけが一斉に膝を付き呼吸を乱す。原理は単純で魔王としての力の応用とステータスの差、などを合わせた結果格下の兵士達では勝負にすらならず、ただの威圧で行動不能に陥ってしまうのだった。
動くことのできなくなったバールスト帝国の者達を儂眼にして彰吾はドワーフの街へと言葉を紡ぐ。
【そして虐げられしこの地のドワーフ達よ。汝らの奮戦を私は尊敬する】
【しかし現状は敵の謀略もあり汝らだけでの解決は不可能だろう。ゆえに此度、私の力を持って解決しよう】
【承諾するなら、その意思を空へと示せ】
今回の言葉は全て襲撃の知らせを受けてから必死に考えた原稿を読んでいるだけだが、下のドワーフの街に居る者達には手荷物台本は見えないので威厳があるように感じられただろう。
声に魔力などを多量に込めた演出など色々の複合業だ。
そして彰吾はドワーフ達は断らないだろうと予想を立てていた。
なにせドワーフ達は街の防衛力に絶対の自信を持っているようだったが、それ以上に街を、そしてなによりも『技術を守る』事に命を賭しているように見えたからだ。
特に修行の旅をしてきたと言うドワーフ達と会っているからこそ、余計にその確信は強まっていた。
そうして待つこと数秒…空に光の玉が各防壁から一斉に上がった。
【汝らの意志。確かに確認した】
【救いをここに…】
力を込めて彰吾は言うと空へと手を伸ばし簡単な初球の炎魔法を使用する。
しかしけた外れの魔王のステータスの乗った魔法は無数の帯を引き各防壁、その麓に集まっていたバールスト帝国の侵略軍へと落ちた。
『ぎゃぁぁぁぁぁっ!!!』
『助けっ』
各所から無数の断末魔が聞こえ、着弾した場所には小さなクレーターが生み出されていた。なのに不思議なまでに防壁は無傷だった。
防壁の上に居た守備兵達は衝撃に怯えて蹲っていた居たが、なんとか外を防壁を確認して無傷だと気が付くと再度大きく驚いた。
いくら丈夫な防壁だとは言え先ほど見た魔法に耐えられるような強度を持っているかは疑問だった。だと言うのに防壁には傷1つとして存在していない。
この事が示すのは完璧な魔力制御によって魔法の攻撃の範囲から防壁を外していたという証拠だ。通常の魔法使いでも魔法の起動を変える程度の事はできるし、熟練した者だったなら生き物のように魔法を制御する事もできる。
しかし操作は魔法の威力が上がるほど難しくなるのだ。
クレーターを生み出すほどの魔法を完璧に攻撃対象すら操作できるレベルで操作するなど、とても亜人を含め全人類を探してもできる者などいない。そう無数の強者に装備品を作ってきたドワーフ達は認識していた。
それだけに驚愕を通り越して戦慄し…感動していた。
自然と、本当に自然とドワーフ達は上空の自分達を救うと言ってくれた魔王へと感謝するように祈りを捧げ始めた。
反対にバールスト帝国側の者達は順調に進んでいたはずの侵略計画が崩壊したことを悟り、なによりも自分達の敵として現れた【魔王】を名乗る存在の力を目の当たりにして恐怖に身を怯ませていた。
だが同時に上層部に近しい者達は一つの事を確信していた。
『人類への脅威とはこいつだ‼』
そう認識すると同時に頭の回る者達は侵略作戦の成功を諦め。
なんとか驚異の存在の正体だけでも本国に伝えるため、無事に撤退する方法を考え出していた。
しかし撤退などと言う甘い選択を許すほど彰吾は優しくはない。
自分達の正義を信じ、亜人の街を侵略した人間達。
こうして初の人間と魔王の正面対決が始まった。
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