第9話 人形創造
「ふぁ~~………眠い」
起きた彰吾は大きな口を開けて欠伸をすると寝ぼけ眼で周囲を見回した。
寝ていたのは人が5人は同時に眠る事ができそうなほど広く、ベットの装飾も黒と金や銀で統一されていた。視線を更に横に移せばここは魔王の資質の面も持っているようで本棚や、鉄のような独特の光沢を放つ椅子や机が綺麗に設置されていた。
「…そうか、昨日は寝るためにベットの置いてあって近い場所を選んだんだったな。普通に忘れていたな…ふぁ~」
まだ少し眠そうにしながらも彰吾は体を起こして行動を開始する。
昨日のマップを見た時に構造をほぼ暗記していた彰吾は、おそらく魔王の私室と思われる寝ていた部屋に併設されていた洗面台に行って顔を洗って目を覚ます。
「さてっと、まずはなんか軽く食べて今日何するか決めよう」
はっきりと目の覚めた彰吾はそう言って何か食べ物がないかと部屋を探すと、机の上にフルーツの入った籠が有ったので適当に選んで食べるのだった。そこに入っていたのは普通に地球にあったようなリンゴなどだった事もあって無警戒に食べた彰吾は少し驚いた様子で手を止めた。
「これ…美味いな。普通のよりも瑞々しくて風味も強い」
地球に居た頃に食べた果物に比べても味が格段に上で彰吾は死ぬほど幸せそうに堪能した。
追加で2個食べた彰吾は満足したようで近くのソファーに座って今後の事を考える。
「今日は…本当に何しようかな?なんか人間以外のエルフとかの亜人?とかを保護して欲しいって言われたけど、探すにも知らない土地って言うか世界だしな~無謀もいいところだし」
彰吾を悩ませていたのは女神たちに贈られた時に言われた『人間種以外のエルフやドワーフなど亜人主と呼ばれる者達の保護』と言う事だった。
なにせ彰吾も言ったように初めての土地どころではなく、何も知らない世界なのだ。
「でも何もしないのは約束を破ってるみたいで気分悪いし…何か使えそうな能力がないか、もう一度確認してみるか…」
それでも一度約束して引き受けたことをないがしろにするのは気分的に嫌だったようで、少し考えてから昨日見たように自分のスキルを確認した。
「えっと…この中だと、人形創造が使いこなせれば一番役立ちそうかな。と言うか昨日は何とも思わなかったけど、このスキル構成だと配下必要だしちょうどいいか‼」
彰吾が目を付けたのは昨日の段階で便利そうだからと習得した【人形創造】だった。このスキルは魔力や素材を使用して命令を聞く人形を創造すると言う効果があるのだ。
「このスキルの効果なら人手不足とかは何とかなりそうだな。ただ人形がどの程度の性能かによってできることが変わってくるし、消費魔力の量や素材の希少性何かでの変化も出来れば知っておきたいところだな」
【人形創造】と言うスキルに目を付けたのは人手不足を補うと言う意味が大きかったが、まだ使った事すらないスキルなので確認する事が大量に有って、それを口に出して確認した彰吾は少しうんざりした表情を浮かべた。
「はぁ…少し面倒だけど今後のため!と割り切って頑張るか…」
あまり乗り気ではなさそうだったが彰吾は他にやる事も思い浮かばないこともあって、渋々と言った様子で立ち上がって移動する。
スキルの効果は分からなかったが何が起きてもいいように広い場所で試す方がいいと判断したのだ。
そして前日にマップで確認した魔王城を思い出しながら彰吾は訓練場らしき開けた場所に来ていた。
「おぉ~木人まであるし、あれは弓の的か?中々に設備が充実してるな。また別の時にでも改めて遊びにこよう!今は他にやる事あるしな」
その場所は物語などで出て来る城の中の訓練場のようではあったが、現代の射撃場のような設備や機械的な見た目の用途の分からない物までそろっていたのだ。
初めて見るそれらの設備に彰吾は興味津々と言った様子だったが、さすがに全部試していたら時間がかかるし今日はやる事もあるので諦めて何もない広い場所へと移動する。
「さて、スキルの効果的には素材を用意しておいた方が楽なんだろうけど、その素材を集めるのにも人手が居るしな。まずは魔力でも大丈夫って事だしやってみるか!」
元気よくそう言った彰吾は目を閉じて魔王城・創造を使用した時の感じを思い出し、スキルの発動を念じた。すると魔王城の時ほどではないが彰吾は自身の中にある不思議な流れのような物を感じ取った。
「たぶんこれが魔力だな。さすがに魔王城みたいにウィンドでの操作みたいな感じではないのか、少し不便だな」
さすがにユニークスキルのような便利機能は普通のスキルに入っている人形創造には備わっていなかった。
その事に彰吾は少し不便に思ったが正直それだけだった。すでに発動する準備は整っていて後は使う魔力を彰吾が調整するだけの状態で、変に他の事を考えて失敗したらさすがに目も当てられないと思っていたのだ。
「最初だし大量じゃなくて少なめに…『人形創造』」
別に言葉に出さなくともスキルは発動させられるのだが、発動のイメージをよりハッキリとするため彰吾はあえて口に出して発動した。
すると目の前で光が溢れ出して徐々に形を作っていき、光が収まった時には1体の鉄の輝きを放つ黒い180㎝前後のマネキンのような人形が立っていた。その手には小ぶりの片手剣と盾を持っていた。
「ふむ、周囲の探索とか狩りを前提にしていたから武器を持っているってところか。他の用途を想定して後で作って確かめた方が良さそうだ。でも今はとりあえずこいつの鑑定だな‼」《鑑定》
武具を持って出て来たのは彰吾も少し想定外だったようで首を傾げていたが、別に困るような事でもないので考えるのを後回しにして能力鑑定を優先することにした。
――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:なし 種族:魔鋼人形兵 職業:人形兵
レベル:1
力:B 魔力:C+ 防御力:B+ 知力:C+ 器用:B-
俊敏:C+ 運:C
スキル 《SP0》
頑強Lv1・盾術Lv1・剣術Lv1・格闘Lv1・連携Lv1
ユニーク
なし
称号
作られし者・魔王の眷族
――――――――――――――――――――――――――――――――
表示された鑑定結果を見た彰吾は口元を手で覆って少し考えていた。
「……正直これどれだけ強いのか分からないな。能力値を見ると適当にランク付けすると…B-かC+ってところか。ついでに種族と職業に称号とかも鑑定しておこう」
推定で強さのランクを能力値の表記を見て予想した彰吾は他にも気になる種族などの4つにも鑑定を使用した。
《鑑定結果:魔鋼人形兵》
《全身を魔鋼で作られた人形の兵士。魔鋼の影響で常に魔力を纏って非常に硬く、力も強い》
《鑑定結果:人形兵》
《兵士に成る事を求められた人形の専用職業。命令の理解力が上昇・戦闘時に能力値微上昇》
《鑑定結果:作られし者》
《人為的に作られた魂を持つ存在の証明。創造主の近くにいる限り能力値に強補正》
《鑑定結果:魔王の眷族》
《魔王の眷族の証明。成長率の上昇・特殊進化率の上昇》
その鑑定の結果を見た彰吾はもう一度ちゃんと確認して少し考えていた。
「全体的には名前の通りって感じだな。能力や成長に影響もあるみたいだけど、そんなすぐに確認しようのないやつは今はどっちでもいい。とりあえず魔鋼?と言う物で出来ていて防御力と力が強く、魂を持っている人形型の生命体…みたいなイメージで接すればいいか…」
鑑定の結果を踏まえた彰吾の結論としては『見た目はマネキンのようだけど魂を持っている生物』ということになった。
なので別に物のように扱うのも心苦しくなった彰吾はひとまず名前でも付けることにした。
「……いいの思い浮かびそうにないし、少しありきたりだけどお前の名前は『クロガネ』だ」
『…』
見た目から『クロガネ』と言う名を与えられた瞬間、いままで何も反応を示さなかった魔鋼人形兵は少し体を揺らしたように見えた。
次の瞬間、クロガネの体は薄く淡い光に包まれて吸収するように消えた。すると形状には変化は無かったが、体を構成する鋼の黒味が増して手足などがより鎧のような形状になっていた。
「なんだ今の?…念のためにもう一度鑑定して確認して措くか」『鑑定』
急に起きた不思議な現象に彰吾は警戒した様子で念のため、再度鑑定を使用して変化がないか確認した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:クロガネ 種族:黒魔鋼人形兵 職業:魔兵長
レベル:1
力:B+ 魔力:B- 防御力:A- 知力:B 器用:B
俊敏:B 運:B-
スキル 《SP0》
頑強Lv1・盾術Lv1・剣術Lv1・格闘Lv1・連携Lv1・指揮Lv1
ユニーク
鋼吸収
称号
作られし者・魔王の眷族・ネームド
――――――――――――――――――――――――――――――――
その表示された新たな鑑定結果に彰吾は今度こそ言葉を失くして見入っていた。
「……いや、いやいやいや!名前付けただけで強くなりすぎじゃない⁉ランク全部上がってるし、なんかユニークスキル増えてるしっ」
本当に気軽に名前を付けただけで進化して、ユニークスキルを習得するほどまで強くなるなんて彰吾にとっても想定外だった。
ただ彰吾もだてに元の世界でファンタジー物ばかり読んでいたわけではなく、徐々に納得した様子で小さく息を吐いて落ち着きを取り戻した。
「ふぅ……こういう設定は良くあるしな。うん、動揺するほどの事ではなかったか。むしろ強くなったことを素直に喜んでおこう!」
完全に頭を切り替えられた彰吾は純粋に戦力が強化された事を喜んだ。
その後は細かく指示を確認してみてわかった事は人形兵は彰吾の命令通りにすべてをこなせると言う事だった。例えば『跳んで訓練場の的を壊せ』と言う命令をすれば、瞬時に反応して設置されていた5つの的を手に持つ剣を使って切り裂いた。
更にその的は詳しく調べると鉄製だった。
「すごいな…これだけの切れ味な周囲の探索や狩りを任せても大丈夫そうだな。式も持っているみたいだし、追加で仲間を10体ほど創り出せばいいかな?感覚的に魔力はまだあるし大丈夫だろ‼」
そう言って彰吾はクロガネの配下となる人形兵たちを創造し始めたが、このスキルは通常スキルと言うカテゴリーに入っていたが使う人間はいなかった。なにせ一体の木製人形を作るだけでも魔力がC+はなければ魔力切れになってしまう程効率が悪かった。
このスキルを無事に使えているのは魔力Aと言う能力にスキルや魔王と言う種族と職業による補正の効果だった。
そんな事を知るよしもない彰吾は消費する魔力を調整して魔鋼人形兵を追加で10体創り出した。
「越して並んでいるところを見ると完全に騎士団とかそう言う感じだな。とりあえずクロガネ、おまえが率いて魔王城周辺で狩れる獲物だけで良いから倒してきてくれ」
『っ!』
整列した人形兵たちをひとしきり眺めて堪能した彰吾が初仕事となる指示を出すと、クロガネは素早く綺麗に敬礼すると他の人形兵達へと何かを指示を出して訓練場の外へと向かって行った。
そしてまた一人になった彰吾はしばらく動かずに考えていた。
「あぁ~他の人形も創って置くか。必要なのは農業・採掘・伐採・採取で、あとは…料理くらいかな?とりあえずは魔力が持つ限りやってみるか‼」
そうしてやることを決めた彰吾は新しい事をやるのが楽しいのか、次々に目的に合った人形を創造していった。
最終的には1種類10体以上できた人形達に目的に合った命令を出して彰吾は自室へと戻って休むのだった。
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