第8話 魔王城
住居として魔王城を作ろうとスキルを使用した彰吾は、気が付くと口が自然に動起き出して詠唱を口にしていた。
その事に戸惑っている間に詠唱は完了して黒い光に包まれて意識を失ってしまった。
「…ん……うぅ、あれ?」
意識を失ってからどれくらい経ったのかゆっくりと体を動かして彰吾は意識を取り戻した。だが意識を失う前と周囲の光景が異様に思えるほどに変化している事に首を傾げた。
なにせ湖の見える林の中から、目を覚ますと全体的に黒い装飾の施された柱や巨大な扉に、端が銀の糸で装飾された赤い絨毯が敷かれていた。
そして絨毯の上で目覚めた彰吾は軽く触って手触りを確認して、同時になぜこんな場所に居るのか?その理由を思い出した。
「…あぁ。たしか魔王城・創造のスキルを使ったんだったな…」
まだ寝ぼけているようで彰吾はフラフラ…と少し体を左右に揺らしながら座ったまま周囲を見ていた。じっくり見ると奥には玉座らしいこれまた色は黒だが、全体にわたって樹木が絡みついてできたような装飾が施されていて、更には座り心地の良さそうなクッションがセットされていた。
それを見た彰吾はまだ少しぼやけた頭でゆっくりと玉座に向かって座った。
「あぁ…これは人をダメにするやつだなぁ…」
だら~…と背もたれに体を預けて彰吾は力なくそう言った。見た目だけだと威圧感に満ちた玉座は、座ってみれば低反発で体を包み込むような安定感と安心感があったのだ。
他にもファンタジーな効果もあるのだろうが寝起き?に近い状態の彰吾はそんなこと以上に、今はゆっくりと玉座の座り心地を楽しみたかったのだ。
「あぁ~ずっとこうしてたい…。でも、さすがにそれはダメだよな…はぁ~」
しばらく座り続けた彰吾も延々とそうしている訳にもいかないので、渋々と言った様子でゆっくりと…本当にゆっくりと立ち上がって体を伸ばす。
その時になって彰吾はようやく自分の服装が変わっている事に気が付いた。
「…制服どこ行った?でも、この服カッコイイな」
いま彰吾が着ていたのは元々着ていた学校の制服ではなく、全体的に黒い色で統一された細部に銀糸で装飾のお施された衣装に変わっていた。ぴっちりと体に張り付くような服だったが、元から体を鍛えていたため不格好になる事はなく、より彰吾の魅力を引き立てているほどだった。
更に光沢の少ない夜の闇のような黒のマントを羽織っていたのだ。
ただ気が付いたら服装が別物になっているのは、さすがに彰吾でも少しは戸惑うようでいろいろ触って確認していた。
「うん、不思議なくらいにしっくりくるな。元々服装は別に興味ないし、他の着替えも見当たらないしこのままでいいか!それよりもこの城の確認しないと…」
替えの服もない事から放置することにした彰吾は、今一番の問題である創造した魔王城の確認を優先する。
最初は軽く見ただけの玉座の間だと思われる目覚めた部屋を詳しく確認することにしたのだ。
「改めて見ると本当に広いな。軽く学校の体育館ほどはあるかな?それに気付かなかったけど、柱とかも綺麗に装飾されてて豪華だな…黒一色だから少し不気味だけど、魔王城だし仕方ないか」
そう言いながら彰吾が調べていると玉座の丁度後ろに、隠すようにしてはめ込まれた人間の頭ほどある水晶を見つけたのだ。
「あからさまに意味深な…とりあえずお約束として触ってみるべきだよな‼」
元からマンガなどの好きな彰吾は楽しそうに満面の笑顔で気軽に水晶に触った。
すると水晶は薄っすらと光だして何かを探るように彰吾の体まで覆っていき、すぐに光が収まる。
《創造者のコアへの接触を確認…権限を解放》
《魔王城・創造スキルはユニークスキル【魔王】に統合。魔王城・支配へと変化しました》
「おぉ~!こうなるんだな。確かに創った後に作るスキルとかいらないし、まぁ…管理じゃなくて何故に支配なの?と思わなくもないけど、たいした問題じゃないし良いか!」
突然のスキルの変化に少しは動揺していた様子の彰吾だったが、最終的には大きな問題もない事を理由に純粋に楽しむ事にした。
「まずは【魔王城・支配】の確認をしないとな」
そう言った彰吾がスキルの発動を意識すると目の前に立体的な城と周囲の地図が浮かび上がった。
急に浮かび上がった立体映像に彰吾は驚いたがそれ以上に今の状況が楽しくて仕方ないようで、目をキラキラさせていろいろ試すことにしたのだ。
そして操作してみればズームアップ・ズームアウトは当たり前として、城の中や周囲の正確な様子がリアルタイムで映っているようで動物などの影もしっかりと再現されていた。
更に詳しく調べた結果、この魔王城は最初に彰吾が目にした湖すら囲むように城壁が出現していた。城本体もだいたい大きな階層だけで10階、地下にも3階あって一番下の階層は牢屋のようだった。
「これ操作に少しコツがいるな。まぁ慣れれば使いやすい感じか。それにマップだけでなく生物の分布が見れるのは面白いな!しかも上空から見ると城のこの形って…」
彰吾はそう言ってマップの表示を上空からの目線に変えると城壁が湖を巻き込んで円形に囲み、それぞれ五つの点になるように地下に何かの水晶が設置された部屋が有った。
そして円の中心は彰吾の居る玉座の間になる訳だが、玉座の後ろの更に奥には小さな隠し部屋があり他のよりも一回りも大きな水晶が鎮座していた。
「やっぱりこれも何か効果が『解・これは魔王城に併設される魔導機構【マギア・プロテクション】に使用される貯蔵型・魔同席になります』…なんか声が聞こえた⁉」
城の立体映像を見て考えていた事が口から零れただけの言葉へ帰って来た返答に、完全に不意打ちでの声に彰吾は驚いて叫んだ。
『私は管理サポートシステムです。魔王城の管理を一人で全てを行うのは無理がありますので、神々によって作られました』
「なるほど、そう言う事だったのか。だったら聞きたいんだけど、魔王城・支配は何が出来るのか教えてもらえるか?」
サポートがメインならまだ自分が理解できていない事を彰吾は聞いた。もっとも別にちゃんとした答えを期待してはいない、なにかヒントになる事を教えてもらえればいいな?くらいに思っていた。
もっとも彰吾のそんな考えはいい意味で裏切られる事になった。
『可能です。【魔王城・支配】は文字通り魔王が自身の居城を支配して、完全に掌握するために創られました。使い方としましてはスキルの効果を意識すれば管理メニューが表示され、さらに魔王城内に限り魔王自身の能力は強化されるようになっています』
「…思っていた以上にしっかりとした説明だったな。つまりは自分の意思一つで操作が可能と言う事でいいのか?」
『はい、問題ありません。ただ魔力を消費して任意で行わないといけない事も多いので、そのあたりの調性を間違えないように注意してください』
「了解だ。それならまずは効果を確認しないとだな。まずは使用は意識して…」
説明を真剣に受け止めた彰吾は目を閉じて魔王城を創った時と同じ要領で集中する。少し時間を掛けることになったが何か手ごたえを感じたのか、ゆっくりと目を開くと彰吾の目の前にはマップの横に更に操作コマンドが追加されていた。
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【魔王城メニュー】
残存魔力:25000 住人:0人 配下:0人
・建築
・改築
・防衛
・修復
・生産
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もの凄く簡易に纏められたそのメニュー画面に彰吾は真剣に見つめる。
ただ表示された段階で作方法が頭に強制的に浮かんできた彰吾は衝撃を受けたように頭を押さえる。
「っ~‼…もちょっと優しい仕様にして欲しい…」
軽く頭痛を覚えた彰吾はスキルとかを設定しただろうアズリスとシルヴィアの女神たちへと恨みのこもった声でそう言った。
もっとも痛みはすぐに治まったようで彰吾は真剣な表情で目の前のメニュー画面に集中した。
「表示自体は簡単だけどわかりやすいから別に問題ないとして、残存魔力は俺が魔力を込めることで増やすか、魔王城に生活している配下・住人から漏れ出した物を徴収する事で増加する。…これだけだとダンジョンみたいだな。と言うか地球のダンジョン系の話参考にしたのか?」
この彰吾の考えは正解だった。地球のように発展した世界は複数存在していたが、そういった世界は神々でも思い浮かばない設定の娯楽にあふれていた。
もとから娯楽の少ない神々はそんな世界に興味を持つことが多く、そこから自分達の世界に空想ではなく現実として取り入れようとすることが多々あった。
今回の魔王城の効果も大部分は派遣するのを魔王に決めたシルヴィアが他の神々(アズリスを除く)と話し合って決めたものだった。
「まぁイメージしやすくて楽だからいいか。それよりも他の所が問題だな。建築は住居や店舗とかの城下町を作ったりできる能力だけど、これは魔力使うよりも自力で作った方が安上がりな気がする。改築は城を含めて建物をグレードアップしたり配置を変えたりできるって事みたいだし、これはかなり使えるか?」
『改築は他にも城壁を要塞のように攻撃的な物にしたり、魔王城を迷宮化する事なども可能です』
「あ、そうなのか…って質問してなくても答えて来るのか⁉」
『はい、私は魔王のスムーズな魔王城での活動をサポートするための存在ですので』
サポートシステムは淡々とした口調だがどこか誇りのようなものを感じられた。
最初は感情のない機械のようだと思っていた彰吾は少し驚いたが、自分自身が現実離れした異世界への転移?転生?をしているので今更だと開き直った。
「なら防衛って言うのは俺に送られた知識だと、有事に備えて障壁の強化や防衛兵装の配備ができる能力って認識なんだけど…これであってるか?」
『その認識で間違いありません。追加しておくと緊急避難用の転移陣やシェルターなどの設置、侵入者対策の罠なども含まれます』
「へぇ~そう言うのも含まれていたのか。なら修復は…文字通りだとして、生産って言うのは何なんだ?俺に送られた知識にも『生活に必要なアイテムの生産』という、なんともアバウトな内容しかないんだが…」
『…生産は魔力を消費することで食料・雑貨・寝具・木材・石材などの生活に必要な物品を生み出す力ですね。これは主に保護した獣人やエルフにドワーフなどの亜人達のための力で、すぐに食料などは確保できないことを想定して用意されたものです』
「あぁ…そう言えば俺が来た目的はそれだったな。と言う事はすぐに使うような物でもないか…」
開き直ると一気に能力の理解のために彰吾は一つ一つ質問して整理して行った。
ただ憧れとも言えるファンタジー世界に彰吾は浮かれていて、この世界へと送られた目的を忘れていたようだが無事に思い出すことが出来た。
「まぁ能力も分かったし、今日は軽く食事をして休むか。外はよるみたいだしな…」
そう言って立体映像の魔王城を見ると上空には月が浮かんでいた。これは外の状況をリアルタイムで再現しているようで、森に居た生き物の影も夜行性の動物が増えているように見えた。
「能力も試せるしちょうどいいよな。まずは生産で食料を…」
――――――――――――――――――――――――――
《生産・食料一覧》
・黒パン:20
・干し肉:20
・卵:30
・パン;80
・白パン:150
・菓子パン:800
…………
――――――――――――――――――――――――――
「何とも極端なラインナップだなぁ…」
表示された食料の内容に彰吾は少し呆れたように声を漏らした。もっとも今すぐに手に入る食料はこれだけなので、魔力にも余裕がある事もあって彰吾は地球さんの菓子パンなどを5000程の魔力を消費して獲得した。
「ふぅ……これだけ食べれば明日に備えるのは十分だろ。さっき確認した時に近くに寝室があったようだし、そこで休むか…少し疲れたしな…」
そして手早く晩御飯を済ませた彰吾は今日はいろいろと大変だった事もあって、疲れ切った様子で確認した時に見つけた寝室へと向かった。疲れていた彰吾は室内を確認する事もなくベットに倒れこむとすぐに眠ってしまったのだった。
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