第4話 状況説明(後編)

 そして全く動かなくなってしまった彰吾の姿にシルヴィアは、予想していた反応と違っていたのか困ったように首を傾げていた。


「あ、あれ?ここは『なんだって~⁉』みたいな反応が来ると思っていたんですが…」


「いや、こんな状況であの説明だと、何か反応できないでしょ…」


 混乱しているシルヴィアを見てアズリスは呆れたように思はず口に出してそう言ってしまう。

 ちゃんとそれを聞き取ったシルヴィアはゆっくりと振り向いてニッコリと笑いかける。その笑顔に悪寒を感じたアズリスは素早くバッ!と顔を逸らして誤魔化した。

 でもそれで見逃してもらえるはずもなくニコニコ笑みを浮かべたシルヴィアにこってり叱られることになった…


 そしてシルヴィアがアズリスに説教している間に正気に戻った彰吾は、はっ!とした表情を浮かべていた。


「えっと…つまり、俺も元々の召喚?転生?かの選択肢に入ってた…って事ですか?」


 まだ混乱から回復したばかりの彰吾は、2人の様子を気にする余裕がなくいきなり質問をしていた。

 アズリスに説教を続けていたシルヴィアも少し驚いていたが、すぐに楽しそうな笑顔に戻って優しく答える。


「そう言うこと!ちなみにあなたの場合は、転生は転生でも、ほぼ転移に近い状態になるわね」


「?よく分からないんですけど、それってどういうことですか?」


 少しもったいぶるような言い回しなシルヴィアの説明に彰吾は首を傾げる。

 そんな様子を見てシルヴィアは更に楽しそうに微笑む。


「ふふふ!そんなに難しい事ではないのよ。せっかく役割を果たしてもらうのだけど、あなたの適性は聖女と違って少し厄介なの、だから普通の転生だとちょっと不安だからね?種族とか色々変えて新しい体で向こうに行ってもらうって事なの!」


「あぁ…なんとなくは理解できました。つまり聖女の適性なら、人類側にもプラスの適性だから危害はかけられない。でも、詳しくは知りませんが俺の適性の場合は人類にとってマイナスになるため排除、ようするに殺害される可能性がある…という感じですかね?」


「その通りよ‼今の説明でよくそこまで理解できたわね?」


 簡単な説明しかしていないはずが彰吾が的確に理解した事にシルヴィアは本当に驚いていた。

 その反応に彰吾は何故か欠片も嬉しそうではなくて、むしろ何か考え込むように暗い表情を一瞬浮かべていた。


「…昔からそう言う事が得意だっただけですよ」


「なるほど…そう言う事だったら納得ですね」


 彰吾の様子を見て元の世界での事情も知っていたシルヴィアは、それ以上深く踏み込まずに納得したように引いた。その配慮を理解した彰吾は静かに小さく頭を下げていた。


「えぇ~なんで納得するんですか。もっと深く聞いてもいいとおもうんですけっ⁉」


 それでこの話題は終わりのはずなのだが空気を読まずアズリスが不謹慎な発言をすると、話している途中でシルヴィアから全力の威圧が飛んで止められたが…

 アズリスの話を中断させたシルヴィアは先ほどまで以上に怒っているのか無表情で見下ろす。


「あなたはいつも余計な事ばかり本当に話すわね。最低限のマナーは叩き込んだはずなのだけれど、私の気のせいだったかしら?」


「……」


 目の前のシルヴィアが冗談ではなく本気で怒っている事に気が付いたアズリスは言葉を発する事も出来ず、ただ黙って冷や汗を流していた。彰吾もいきなり雰囲気の変わったシルヴィアに下手に関わると巻き添えになりそうと思ったようで静かに少しだけ距離を取った。


 もちろん心を読めるシルヴィアとアズリスの2人は彰吾の内心や離れた事にも気が付いてはいたが、アズリスは目の前の状況への対処のそれどころではなく。シルビアは危険人物扱いに内心で少し傷付きながらも、その事を上手く隠しながら目の前のアズリスへの罰について考えていた。


「とにかく、あなたは彰吾を送り出した後でマナーの再教育。わかったわね?」


「は、はい…もちろんちゃんと理解しています…」


「それならいいのよ」


 最初アズリスは何とか逃げ出せないか考えていたのだが、相手のシルヴィアがどう見てもそんな事を許すようなミスをするはずも無いので諦めて俯いた。

 そんなアズリスの様子にもシルヴィアは楽しそうにクスクス!と笑みを浮かべて眺めて、耳元によってさらに何かを話す。


 すると今までの数倍怯えたようにアズリスが顔を青褪めてガクガクッと震えだした。その反応にシルヴィアは変わらず笑顔を浮かべて眺めるだけで余計に見ていた彰吾をも恐怖させていた。

 その少し異様ともいえるシルヴィアの雰囲気に彰吾は完全に話を聞くタイミングを逃してしまっていた。


(どうするか、まだ確認したい事があったんだが…とても聞ける雰囲気じゃないぞ?)


 まだまだ今の状況を詳しく確認したい事があったのだが聞けるような状況ではないので彰吾を困ってそのことをしまった。つまりは…


「心配しなくても構いませんよ?この子へのお仕置きは後でじ~っくりと、時間を掛けてやりますから!」


 考えの読める女神であるシルヴィアは彰吾が困っている事に気が付くと、ゆったりとした動作で振り向いて優しく微笑みながらそう言った。

 しかし考え事の読まれた彰吾は自分の迂闊さに思わず頭を抱えていた。それでも頭の中で余計な事を考えれば筒抜けになるので考える事も出来ず、諦めたように小さく息を吐き出して正面から向き合う。


「えっと、もう筒抜けだと思うので率直に聞きますね。俺の適性って何ですか?」


「ふふふ!その様子だともう予想が付いていそうだけれど?」


 いまだ聞いていなかった自身の適性を聞いた彰吾にシルヴィアは楽しそうに挑発的な笑みを浮かべて聞き返す。

 その姿に彰吾は改めて『この人は逆らったらダメな人だ』と再認識して、少し言い難いような疲れたような表情だった。


「えぇ、それなりには…」


「それじゃ一緒に言ってみましょうか?」


「いや、それはちょっと…」


 シルヴィアは笑顔で少し首を傾げながらふざけたように提案されたが、さすがに彰吾もそれは恥ずかしいので遠慮する。

 しかし彰吾が拒否したとして、それをシルヴィアが受け入れるかは別問題。シルヴィアは彰吾の答えを普通に無視して、楽しそうに笑顔で詰め寄る。


「まぁそう言わずにね?楽しそうだし一緒に言いましょうよ」


「い、いや、でもですね?」


「遠慮しなくていいから!それじゃ、せ~のっで‼」


「え、ちょっ⁉」


「ま「魔王」」


 有無を言わせないシルヴィアが合図を出しながら言うと、彰吾はつい慌てて一緒に自信の適性を口にする。彰吾は予想だったがシルヴィアと同じだったので、その嫌な予想が確定してしまった事にショックを受けていた。


(あぁ…やっぱりと言うか、なんていうか…)


「あら?やっぱりと言う事は、何か思い当たる節でもあったの?」


「まぁ、自分で言うのもなんですけど勇者とか、守護者とか言われてもキャラじゃないですしね。魔王やダンジョンマスターとかの人類の敵?みたいな、マイナスイメージの方が自分には合っていると思っただけですよ…」


 彰吾は自分の性格から考えて誰かを助けよう!だとか、何かのために!と言った理由で動く事がない事を知っている。だからこそ正確に自分の適性を言い当てたのだが、自分で行っていて悲しくなったのか少し寂しそうな眼をしていた。

 そんな彰吾の様子にシルヴィアも何と声をかければいいのか困ってしまう。


 少しして気持ちの整理を付けた彰吾はゆっくりと息を吐き出した。


「ふぅ……すみません。もう大丈夫です」


「本当に大丈夫?」


「はい、今さら深く悩むような事でもないので大丈夫ですよ。それに本当に、勇者とかじゃなくて安心しているくらいですから」


 念のために確認したシルヴィアに彰吾は、本当にいろいろ割り切れているのか、むしろ勇者として戦って‼とか言われない事に本気で安心したように笑みを浮かべていた。

 そんな彰吾の様子にシルヴィアは少し探るように聞き返す。


「そういうことなら、説明を続けても大丈夫かしら?」


「まったく問題ないです!」


「それじゃ続けるわね。まず人類による他種族の冷遇については話したわね」


「それは聞きました。人類が増えすぎて、他種族を差別・冷遇していてまずい事になっている…って事ですよね?」


「そう言う事!本当に理解がはやくて助かるわね…」


 簡単にしか説明されていない事を彰吾がさらに簡潔に、分かりやすく纏めて答えた事にシルヴィアは何と言うか、感心したような少し呆れたような曖昧な表情で頷いていた。


「それで彰吾に魔王としてやって欲しいのは、他種族獣人・エルフ・ドワーフ・竜人・魔人などの種族達を保護してもらいたいの。あと出来たらでいいけど、人間側を適度に弱らせてくれると更に嬉しいわね‼」


 シルヴィアは話を進めて彰吾に魔王としてやって欲しい事を説明するのだが、さらっと満面の笑みで追加で要望を出していた。しかも話しの感じだと、追加で話した要望は勝手に追加したようなニュアンスを感じるものだった。

 もちろん彰吾もその事を感じていたが、下手に言っても意味がなさそうだと思ったようで小さく息を吐く。


「……とりあえず第一目標は人間以外の種族の保護。第二目標は人間側の勢力減退って事でいいですかね?」


「そうね、短く纏めるとそうなるわね」


「なら第一目標に関しては了解しました。勢力を弱らせることに関しては、状況次第って事でもいいですか?正直、そこまでの余裕があるかもわかりませんし。相手の勢力規模や文化レベル、これらによって対処法が変わりますので・・・」


 彰吾が第二目標を遅らせると言った時にシルヴィアは少し落胆した様子だったが、話を最後まで聞くとその理由に納得した。


 確かに彰吾の言う通り相手の規模や文化レベルが分からない段階では、どう行動するかも決められないし、何より第一の目標は冷遇されてる他種族の保護なのだ。それに保護に成功しても生活の安定化や、他種族同士でも違う種族のため文化の違いはあるので、それが原因でのいさかいも起きるかもしれない。

 そんな状況で外の敵の対処まで入って来ると対処できなくなってしまう事が目に見えている。


 彰吾の説明を聞いてシルヴィアもその事に気が付いたようで、真剣な表情で頷いた。


「確かに少し急ぎすぎてたかもしれないわね。わかったわ。とにかく保護が最優先で、人間達への攻撃は後回しにしましょう!」


「納得してもらえてよかったです」(もう弱らせるって名目無くなったんだな…)


 相手の勢力を弱らせると言う表向きの理由を捨てて、普通にと口にした彰吾は内心で苦笑いを浮かべる。もちろんその考えもシルヴィアには聞こえていたのだが、本人?は特に気にした様子も無くニコニコと笑っていた。


「さてっと、これでだいたいの説明は終わった訳だけど…私達の話し、受けてもらえるかしら?」


「はい、特に地球に未練とかないですし、異世界とか面白そうですしね。もちろん受けさせてもらいますよ」


「本当に⁉ありがとう‼」


 彰吾が迷いなく依頼を受け入れたことに確認したシルヴィアも一瞬驚いていた。


 何故なら、確かに彰吾はここに呼ばれた大まかな理由や、この後やって欲しい事については説明を受けた。しかしに関しては、何も教えてもらっていない。

 彰吾も他に聞くべきことがあるとは思ってはいたのだが、その考えも聞こえているはずなのに説明してこないと言う事は、シルヴィアはその必要がないと考えたのだろうと予想して納得した。


 なによりそのシルヴィアの判断は間違いではないく、ので彰吾も気にしなかったのだ。


 それから彰吾とシルヴィアの2人は話は纏まったので、これ以上難しく話す必要もなくなったので軽く談笑していた。

 その横ではいまだに反省のために正座させられていたアズリスが、ついに限界が来て床に倒れ伏していたが…2人は興味がないのか無視したため、2人の話が終わるまで数十分以上そのまま放置されるのだった。


「うぅ…なんで、わた…しが、こんなめに……」


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