第3話 状況説明(前編)
次に目を覚ました彰吾がまず目にした光景は、先程自分を吹き飛ばしたアズリスが正座させられ。そんな彼女を見た事の無い銀髪で長身の女性が睨みつけている所だった。
そんな状況に彰吾は混乱した様子だったが比較的冷静に考え始めてた。
(えっと、どうするべきか?このままにしているのもどうかとは思うけど…。どう見てもあれは説教の最中だからな…下手に口を出すのはめんどくさそうだ…)
彰吾は未だに自分が起きた事にも気が付かず、こちらに背中を向けたまま説教を続けている銀髪の女性を見てウンザリしたようにそう考えていた。
すると突然、何かに気が付いたように勢いよく銀髪の女性が振り返る。
そのいきなりの行動に彰吾は反射的に逃げ出そうとしたが、振り返った銀髪の女性が穏やかな笑みを浮かべている事に気が付くと動きを止める。
銀髪の女性は彰吾が動きを止めると安心したようにゆっくりと話しかける。
「ふふふ!そんな怯えなくても大丈夫ですよ?私はそこのアホウとは違いますから」
女性は一瞬アズリスへとキツイ目を向けたが、すぐに穏やかな表情に戻って彰吾へと笑いかけた。その変化を見てしまった彰吾は怯えたようにビクッと体を跳ねさせて少し下がっていた。
そんな彰吾の反応に女性は少し申し訳なさそうに苦笑いを浮かべ、ゆっくりと落ち着いた声音で話し出す。
「ごめんなさい。驚かせてしまったでしょう?」
「い、いえ、別に驚いてはいません…」
(しょ、正直驚いたけど…本当の事なんて話せるか!雰囲気的にまずい気がする…)
表面上は気にした様子もなく話していた彰悟だが、内心では思いっきり動揺して警戒していた。
そんな彰吾を見て銀髪の女性は少し困ったように頬に手を添えて首を傾げていた。
困ったような女性の様子に彰吾も気が付いたようで、少し不思議そうに首を傾げて目を細めた。
(…?何か変な事を言ったかな…。いや、特に不自然な行動をした事はないし…う~ん?)
そうやって自分が何かミスしてなかったか彰吾が首を傾げながら悩んでいると、それを見た女性は楽しそうに思わずと言った様子で笑い出した。
「ふふふ!そんな真剣に考えこまなくてもいいのに!別にあなたはミスなんてしていないわよ?」
(っ⁉……まさか、考えている事が分かる…のか?)
その女性の言葉で彰吾はようやく気が付いたようで、はっ⁉と驚愕した表情で女性を見上げた。その彰吾の表情を正面から見た女性はより楽しそうに笑みを浮かべて話し出した。
「えぇ!大正解‼私達は人の考えている事が分かるのよ?」
「ま、まじか…?と言う事は、もしかして…そこのアズリスが怒ったのって…」
話を聞いた彰吾は気まずそうに顔を引きつらせて正座しているアズリスを見た。
そこでアズリスは怒りに満ちた目で彰吾を睨みつけていた。
しかし銀髪の女性がニッコリと笑いながら振り返ると、すぐに何事も無かったように顔を俯かせて反省している風にふるまった。
そんなアズリスを確認すると女性は彰吾の方へと向き直して話し始める。
「さて、あの子はほっておいていいわよ。それよりも、まずは自己紹介しましょうか‼」
銀髪の女性はいい事を思いついたと言ったように笑顔を浮かべて楽しそうに提案した。
そのいきなりの提案に彰吾は少し驚いた様子で固まってしまっていたが、すぐに名前も知らないのは不便だと考えてゆっくりと話し出す。
「あ、えっと…そうですね。それでは俺から、黒木場 彰吾です」
「彰吾ね!よろしく‼私は死の女神『シルヴィア』よ!」
「あぁ…よろしくお願いします」
ニッコリと綺麗な笑顔で自己紹介をして手を伸ばしてきたシルヴィアに、彰吾は少し戸惑った様子だったがゆっくりと握手に応じた。
そんな彰吾の様子にシルヴィアは楽しそうに微笑んでいた。
にこやかに挨拶を交わす2人を横で見ていたアズリスは気持ち悪そうに顔を歪め引いていた。
(なんなのこいつら…?初対面のくせに、ニコニコして…)
本当についさっき会ったばかりだというのに笑顔を浮かべて接する事がアズリスには理解できなかった。ゆえに引いてしまっていたのだが、すぐに何かに気が付いたようで慌て始めた。
だが、もう既に遅かった。
彰吾と握手していたはずのシルヴィアが肩へとそっと手を置いたのだ。
「ふふふ‼だいぶ愉快な事を考えているわね?まだお説教が足りないのかしらね~?」
どこかねっとりした口調で笑いかけてくるシルヴィアがそう言うと、アズリスは怯えたようにビクッ⁉と体を跳ねさせ冷や汗を流して固まっていた。
「っ⁉い、いえ!そんな事は無いです‼」
「そう?それなら今回は許してあげるわ」
必死に答えたアズリスにシルヴィアは少し詰まらなそうに首を傾げながら言った。
それを聞いたアズリスは安心したように息を吐き出そうとしたが、しかし遮るようにシルヴィアが話す。
「ただし?次はないわよ…いいわね?」
「は、はい!次からはしないように気を付けます‼」
シルヴィアが釘を刺すように一瞬だけ真顔になって言うとアズリスは、すぐに姿勢を正して勢いよく返事をした。そのアズリスの反応にシルヴィアは満足そうに小さく頷く。
そして彰吾はシルヴィアが壁になって何があったのか確認できないでいたが、アズリスの声を聞いてだいたいの状況は予想できたようだった。
(うん、とりあえずこの人には逆らわないようにしよう…)
先ほどまでのやり取りで彰吾はそう決意を固めた。
すると話を終わらせたシルヴィアがゆっくりと振り返って、楽しそうに笑顔で話しかける。
「さて!こっちの話も終わったことだし、まずはどういう状況なのかを説明した方がいいかしらね?」
まだ理解できていないだろう彰吾に対しシルヴィアは何から説明すればいいのかを確認した。
そのいきなりの質問に彰吾は少し戸惑っていたが、すぐに立ち直るとゆっくりと息を吐き出して答える。
「ふぅ…そうですね。詳しく知りたいので、そうしてもらえるとありがたいです」
「ふふふ!それじゃぁまずは、彰吾が何故ここに呼ばれたのかについて話しましょうかね?」
「はい、それは一番知りたいところです!」
シルヴィアが提案すると彰吾はすぐに笑顔で頷いて答えた。
それを見たシルヴィアは今までにない彰吾の素直な反応に少し驚いていたが、すぐに楽しそうに笑みを浮かべて説明を始める。
「それじゃ最初にそこの子がしたと思うけど、本当は貴方は死なずに桜御 雫さんが彰吾を助けて死ぬはずだったの。でも予定とは違い、彰吾は助けようとした雫さんを弾き飛ばして自分が死ぬことを選んでしまった」
「あぁ…それは、なんかすみません」
改めて説明を聞いていた彰吾は申し訳なさそうに謝ってしまっていた。
その謝罪にシルヴィアは少し苦笑いを浮かべていたが、すぐに優しい声音で話し出す。
「そこまで気にしなくていいわよ?確かに死んだ彼女にやってもらおうと思っていた事はあった。でも絶対と言う訳では無いの、だから気にしなくて大丈夫よ?それよりも彰吾は一人の人間を助けたんだから、それを誇りなさい?」
「っ⁉はい、ありがとうございます…」
シルヴィアの励ますような言葉に彰吾はうつむいて少し嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そんな彰吾の反応にシルヴィアは安心したように小さく頷いて話を再開する。
「さて、それじゃ話を続けるわね?本当は雫さんにやってもらう予定だったのは、異世界で今ちょっとまずい事になっているところがあって、その解決に彼女が適任だったのよ」
「あぁ…なるほど、そう言う事だったんですか。それは本当に申し訳ない」
説明を聞いた彰吾は思っていたより数倍も重大な内容に、改めて申し訳なさそうに顔を伏せて謝ってしまった。
彰吾のその様子にシルヴィアは呆れたように苦笑いを浮かべて少し叱るように話す。
「まったく!気にしなくていいと言っているのだから、気にしないっ‼それよりも説明を続けるわよ?」
「えっ…あ、はい!続けてもらってかまいません…」
「それじゃぁ続けるわよ?彼女に頼むはずだった事なんだけれど、その世界は何故そんな危機的状況になったと思う?」
「えっ?」
シルヴィアからの突然の質問に彰吾は思わずと言った様子で固まってしまった。
しかしすぐに立ち直ると少し考えてから、現在の地球で起きていることなども参考にしながら彰吾はゆっくりと答える。
「…自然破壊による空気汚染、とかではないですよね?」
考えた結果、地球でも問題となっていた物を上げた彰吾だったが、何処か自信無さげだった。
そして予想通りと言うべきかシルヴィアは可笑しそうに笑っていた。
「ふふふ…確かに違うわね。そんな問題だったら、私達も他の人に頼らなくてもどうにかする事はできるしね!」
「そうなんですか…う~ん、すみません。ちょっとすぐには思いつきません…」
少し考えて他の答えを出そうとした彰吾だったが、特に何も思い浮かばなかったようでちょっと申し訳なさそうにそう言った。
それにシルヴィアは少し可笑しそうに小さく笑みを浮かべた。
「まぁ何もヒントもなしには少し難しかったわよね。でも答えは簡単なのよ?人間が増えすぎて他の種族などの冷遇が悪化しすぎたのよ」
「えっ…そんな事ですか?それこそ、そちらでどうにかできるのでは……」
シルヴィアの説明が思っていたよりも簡単な事だったため、彰吾はどこか拍子抜けしたように肩を落とす。
しかしそんな彰吾の反応とは反対に、シルヴィアは深刻そうな表情でゆっくりと説明を続けた。
「そう思う気持ちもわかるんだけどね…、そうもいかないのよ。まず神には一定以上の直接的な世界への干渉は禁止されているの」
「そうだったんですか、でもそれは何でです?」
「単純な理由よ。際限なく干渉できるようになると、いくつもの世界を暇つぶしに消滅させる奴、自分の好き勝手に世界を改造して遊ぶ奴、と言った感じに危ない奴が多すぎたのよ…」
「あぁ……なんとなく理解できました」
シルヴィアの説明を聞いた彰吾はどこか納得したように小さく頷いた。地球にある神話に出てくる神の中にも、悪神などと呼ばれるような神が描かれているのだ。
実在する神にもそう言った質の悪い者がいないわけがない。
あまりに物分かりのいい彰吾にシルヴィアは複雑そうな様子だったが、理解してもらえたことに満足したのか小さく苦笑いを浮かべていた。
「まぁ…そう言う事で過度に私達は干渉できないの。でも、それだと世界が滅亡するかもしれない時にも対応ができないでしょ?」
「確かにそうですね。せっかく育った世界も、それだとすぐに滅んだりしそうですね…」
話を聞けば聞くほどに彰吾は理解して、納得したように小さく頷いて答えた。
その様子にシルヴィアも楽しそうに話しを続けた。
「ふふふ!そう言う事よ。だからその救済処置として、その世界の住人に加護を与えたり。今回のように他の世界の人を呼んで頼んだりできるようにルールが作られたの」
「なるほど…そして今回は後者だったと…」
彰吾はそう答えると何かを考え込む。
(う~ん…そう言う事だと、今回は俺の思っていたよりもだいぶまずい状況なのか?そうすると俺の行動は救済の邪魔になったと言う事か…)
状況を理解するにつれて彰吾は深刻そうに顔を険しくさせる。
しかしその考えを読み取っていたシルヴィアは、彰吾の様子を見て楽しそうに笑っていた。
「はははっ!そんなに深刻に考え無くいいのよ?何せあなたも候補者の一人だったんだから‼」
「えっ…」
シルヴィアの突然の発言に驚いた彰吾は今度こそ本当の意味で、石のように固まってしまったのだった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます