第2話 女神の説教‼

「なんて事をしてくれたのよ‼あんたのせいで計画がめちゃくちゃよっ‼」


 目の前で興奮した様子で怒鳴り散らしている人物を見て彰吾は不思議そうに首を傾げていた。


(なんだこいつ?と言うか、俺は死んだはずなんだが…何処だここ)


 彰吾は怒鳴っている人物を無視して、状況を確認するため周囲を見る。

 そこは何もない真っ白な空間が何処までも広がっていて、果てがあるのかどうかも分からなかった。その事を確認した彰吾はまた何かを考え始めようとした。

 しかし怒鳴っていた人物が話を聞かずに彰吾が別の事に集中しているのに気が付いたようで、更に怒ったように顔を真っ赤に染めて目の前に回り込んで叫ぶ。


「ちょっと⁉人の話聞いてるのかしら‼」


「?」


 そこまでされて彰吾はようやく叫んでいる人物の事を正面からちゃんと確認した。

 白いロングドレスを身に着け。金色の髪をツインテールにした小学生にしか見えない幼い女の子にしか見えないその子は、どこか人間離れした可愛らしさと圧を放っていた。

 彰吾は先程から叫んでいたのが目の前の女の子だと理解すると少し優し気な笑みを浮かべた。


(迷子?いやこの年齢でそれは無いか)


「どうしたんだい?そんなに怒って、俺が何かしたのかな?」


 完全に見た目で判断した彰吾は子供と話すように目線を合わせてそう言った。

 しかし彰吾の対応に少女はうつむいて震えていた。その姿を見て彰吾は泣き出したのかと思い慰める話そうとしたが、それよりも早く少女が顔を勢いよくガバッと上げた。


「私は迷子ではない!もっと言うと小学生でもないっ‼分かったかっ」


 もの凄く興奮した様子で少女がそう言うと、それに反応するように彰吾に向けて強風が吹いた!その風は凄まじく、正面から受けた彰吾は飛ばないようにその場にしゃがみ込んで踏ん張った。


 少しして風が落ち着くと跪いた彰吾と、偉そうに胸を張っている少女と言う状態になっていた。跪いたような体勢の彰吾を見て少女は満足したように頷いていた。


「ふっ!これでようやくまともに話ができるわよ…」


 どこか疲れたように少女が言うと彰吾は何か言いたそうにしたが、すぐに止めてうつむいて考え込んだ。


(今は下手に喋ったらだめだな。さっきの風の原理もよく分からないし、それに目の前の小学生、どう考えてもやばそうだ…)


 先ほどの現象を欠片も理解することが出来なかった。

 そのため警戒して下手の事を口にしないで、相手に状況説明をさせることにしたのだ。

 しかし少女は何故か考え事をしているだけの彰吾を睨みつけていた。


「あんた…やっぱりなめているよね?まぁいいや、それよりも困った事してくれたわね?」


「は?何のことを言っているんだ?」


「なんの事じゃないわよ‼あんたがあの場で死んだ、そのこと自体が問題だって言ってるのよっ‼」


「???」


 (俺が死んだことが問題?)


 少女の言った事に彰吾は意味が分からなず不思議そうに首を傾げていた。

 その彰吾の反応を見て少更にイラついた様子で少女は顔を引きつらせた。


「だから、あんたはあそこでは死なないはずだったの‼それなのに本当は死ぬはずだったあの子を転ばせて、自分の方が死のうとするなんて…何考えてるのよっ⁉」


「あぁ~!そう言う事か‼ってなんで俺、死んでまで文句言われないといけないの?」


「そんなのはあんたが変なことするからでしょうが‼だいたいあの状況で、助けようとされたら助けられなさいよ。なんで助ける邪魔しているのよ!?空気読みなさいよ⁉あぁあぁぁぁぁ‼もうっ」


 余程ストレスが溜まっているのか少女は途中から普通に愚痴っていた。それでも止まらずに文句を言い続け、暴走しているような少女に彰吾は困っていた。

 それも仕方がない事だろう。何せ死んだと思ったら知らない場所、更に知らない少女にいきなり怒られ、その少女が今は目の前でストレスを爆発させているのだから。


 数分程、叫び続けた少女はようやく落ち着いたようで少し息を整えながら話を再開した。


「はぁ…はぁ…ッふぅ~、それで本当だったらあんたの代わりに死んで、ここにきて役割を任せる予定だった…えっと、あの子名前なんだったっけ?」


「雫、桜御さくらみ しずく


「あ、そうそう雫!彼女に任せる予定だった計画が、あんたのせいで振り出しに戻ったのよ?どうしてくれんのよ」


「いや、そんなこと言われても俺にはどうしようもないし…もっと言うと、その計画とかの内容も分かってないのに、責任って言われてもな…」


 責任を要求してきた少女に彰吾は困ったように声を小さくしてそう言った。

 死んだはずなのによくわかりもしない空間に居る時点で頭は混乱しているというのに、更になにかよく分からない責任まで負わされても理解できるわけもなかった。

 その声が聞こえていたのか少女はキッ‼と睨みつけていたが、すぐに余裕に満ちた笑みを浮かべて見下ろした。


「ふふふ!そうよね。まずは説明しなくては話にならないものね!それじゃ自己紹介からしてあげる!心して聞きなさい?私は転生を司る女神!『アズリス』よ!崇め奉れ‼」


「あ、はい。俺は黒木場 彰吾です」


 いきなりハイテンションに自己紹介を始め、しかも神と名のった少女ののりについて行けなかったようで彰吾は戸惑った様子だったが、なんとか名乗りはした。

 そんな彰吾の反応が思っていたものと違ったのかアズリスは、不満そうに頬を膨らませてムスッ!としていた。


 その見た目相応の反応に彰吾は噴き出しそうになるのを必死に堪え、口を押えて肩を震わせた。

 そんな彰吾の様子にアズリスは更にイラついて叫んだ。


「あんたいい加減にしなさいよっ‼女神だって言ってるのに、よくもまぁそんなにバカに出来るわね!」


「い、いや、だって…いきなり女神って言われても?ネタとしか思えないだろ‼」


 アズリスの文句に彰吾はとうとう我慢の限界が来たようで、笑顔を浮かべながらそう言った。

 完全に開き直った反応にアズリスは一瞬唖然としていたが、すぐに正気に戻るとこっちも我慢の限界と言ったように顔を真っ赤に染めて叫んだ。


「あんた本当になめるのもいい加減にしなさいよね‼もう本気で怒った…痛い目にあわせてやる…」


 怒っていたアズリスは急に真顔になると小さな声でボソボソとそう言った。

 そのアズリスの言った事がよく聞こえなかった彰吾が不思議そうに首を傾げていると、ゆっくりとアズリスは彰吾へと手を向けて叫んだ。


「もう一回…死んで来いっ!」


 アズリスが叫んだと同時にもの凄い光が彰吾へと向かって殺到した。

 それを真正面から受けた彰吾は避ける事も出来ず、もろに受けてしまい意識をまた失った。


 数秒間に渡って放たれた光が消えると、その場に彰吾は倒れ伏していた。

 アズリスは倒れている彰吾を見て満足そうに腕を組んで笑みを浮かべていた。


「よし!こんだけやればもう懲りたでしょっ‼」


 満足そうに笑みを浮かべているアズリスの後ろから誰かが静かに近寄って来ていた。その人影は背後まで気が付かれずに近寄ると胸を張っているアズリスの頭を思いっきりスパーンッ!といい音を立てて叩いた。


「何やっているのあなたは?」


「ちょっ⁉誰よ私の頭を…た、たくの…は…」


 アズリスは自分の頭を叩いた相手を確認すると、先ほどまでの勢いを失くして何故か大量に汗を流して顔を青く染めた。

 そんなアズリスの反応をまったく気にした様子の無い、その人は腕を組んでにこやかに微笑む。


「それで、あなたは何をやっているの?」


「っ⁉…えっと、その…少し説教を…」


 優し気な笑みを浮かべながらも言い知れぬ圧を放つその人の質問に、アズリスはもの凄く答え辛そうに顔を俯かせてそう言った。

 そんなアズリスの答えを聞いた人影は呆れたように溜息を吐く。


「はぁ…あなたの仕事は状況説明と、その打開策を提案する事でしょう?」


「はい…その通りです…」


「それが分かってるなら何で、こんなことになってしまったのかしらね?」


「っ……」


 アズリスはその人の説教に心当たりがあるのか何も言い返す事が出来ずにいた。

 そんな反応に人影は更にうんざりしたように説教を続けた。


「まったくあなたは…

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